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かこ
2025/10/15 08:58

過去から未来へ、ミシシッピに響くブルースと運命・映画『罪人たち』感想・レビュー

ライアン・クーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンが仕掛ける、異色にして戦慄のサバイバル・スリラー!
1930年代のダンスホールで起こる狂乱の一夜。双子の兄弟(マイケル・B・ジョーダン)を襲う恐怖。
鑑賞後、衝撃のギミックと、その深いテーマに驚くだろう。

(c)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(r) is a registered trademark of IMAX Corporation.Dolby Cinema(r) is a registered trademark of Dolby Laboratories

▼あらすじ
マイケル・B・ジョーダンが1人2役で演じる双子の兄弟を主人公に、故郷の田舎町に戻ってきた兄弟が一獲千金を夢見てオープンさせた黒人向けダンスホール(ジューク・ジョイント)が、ある招かざる者たちの襲撃を受け、兄弟と店の仲間たちが、人知を超えた恐怖に立ち向かい、決死のサバイバルを繰り広げるさまを、ブルースをはじめとした情熱的で軽快な音楽の数々と、臨場感あふれる映像美でスリリングに描き出していく。引用元:allcinema

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音楽と運命『罪人たち』に響くブルース
 

物語の舞台である1930年代のミシシッピは、大恐慌と綿花不作で農村が貧しく、黒人の多くはシェアクロッパーとして地主に縛られ、経済的自由を持てなかった。
さらにジム・クロウ法によって公共施設や学校、交通までも人種で分けられ、投票権も事実上奪われていた。リンチや襲撃が日常的に起こる社会で、黒人は生まれた瞬間から運命を決められていたと言える。
 

そんな中でブルースは生まれた。
苦しみや悲しみを声にするブルースは単なる音楽ではなく、生き抜く力や祈りであり、運命に向き合う手段だった。
そして、ミシシッピ・デルタを中心に、ロバート・ジョンソンやマディ・ウォーターズといったミュージシャンも登場し、彼らの旋律は当時の黒人たちの痛みと希望を表現している。
 


映画『罪人たち』では、黒人のブルースと、白人のアイリッシュ・フォークの対比が描かれる。
アイリッシュ・フォークはアイルランドやスコットランド移民の民俗音楽で、南部白人社会に根付いていた。
そして、本作に登場する白人グループのリーダー格、レミックが歌う曲はダブリンを歌う移民の歌であり、19世紀にアイルランドを離れざるを得なかった人々の記憶が込められている。
 

貧困や飢饉に追われてアメリカに渡った彼らも当初は弱者で、差別や搾取にさらされた。
しかし時を経て、アイルランド系は白人社会に統合され、黒人より優位な立場になった。
かつては差別されていた者が支配する側に回る……そんな皮肉がレミックの歌唱には刻まれているのだ。
確かに旋律は綺麗だが、裏には、他者の文化や自由を自分たちの都合に取り込もうとする力が含まれており、音楽が旋律以上の意味があることを示している。

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そして本作の重要ポイントとなるジューク・ジョイント。ブルースを通して希望や喜びが共有でき、経済や社会に直結する重要な場所だ。
 

その中でサミーが歌うブルースは、自身の気持ちをそのまま吐き出す声であり、生きる証でもある。
この歌唱シーンを含めた映像は圧巻で、ブルースを起源にロックへとつながる音楽の歴史が表現されている。
加えて、人種を超えた文化の広がりや共生の可能性も見出すことができる。
 

興味深いのは、アイリッシュ・フォークとブルースが後のアメリカで交わり、カントリーやブルーグラス、さらにロックへと受け継がれていったという歴史だ。
今は対立して響くふたつの音楽も、時の経過とともに、大きな音楽に合流していく。
前述のジューク・ジョイントのシーンは、この交錯の予兆としても響いているのだ。
 

(c)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(r) is a registered trademark of IMAX Corporation.Dolby Cinema(r) is a registered trademark of Dolby Laboratories
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時は移り、1992年のシカゴ。
年老いたサミーが自身の店でエレキギターを鳴らす場面は、黒人コミュニティが差別や苦難を乗り越えてきた力の象徴だ。しかし、ある人物たちが再び彼の前に現れたことで、人種差別や支配の影響が形を変えて残り続ける現実を示している。
 

そしてこちらも重要なポイント、惨殺な一夜をサミーが唯一生き延びたことの理由だ。
それは、彼がブルースを守り、次世代に伝えるという音楽的・精神的な使命を背負っていたからだ。
この年老いたサミーを演じたのが、現役最高齢のブルースギタリスト、バディ・ガイ。彼の出演はまさに必然である。
なぜなら、バディ・ガイ自身が、亡きマディ・ウォーターズらとの約束として「ブルースを守り、次世代に伝える」という同じ使命感を持って半世紀以上活動してきた、生きた伝説だからだ。
彼の存在自体が、サミーの不屈のブルース魂と現実を結びつけ、映画の圧倒的な重みを与えているのだ。


『罪人たち』は、音楽を通して運命に向き合う物語だ。
ブルースとアイリッシュ・フォーク、双子の選択、そしてサミーの歌が、運命に抗いながらも生き抜く力を示している。
重厚で意外性のある傑作だ。

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