私の好きな映画

かこ
2025/10/10 07:47

不器用な男が、最後に選んだ愛のカタチ『ホウセンカ』感想・解説・レビュー

確かな構成と意外性で注目を集めたアニメ『オッドタクシー』。その監督・木下麦と脚本家・此元和津也が、再びタッグを組んだ作品が長編アニメ『ホウセンカ』だ。
今回は奇抜なミステリーではなく、一人の男が愛と向き合う物語。独房の無期懲役囚と、一輪の花との対話を通して描かれるこの映画に、心を深く揺さぶられた。
ひと足先にオンライン試写で鑑賞させて頂きました。

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会

▼あらすじ

無期懲役囚の老人・阿久津が独房で死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは、人の言葉を操るホウセンカだった。“会話”の中で、阿久津は過去を振り返り始める。

1987年、夏。海沿いの街。しがないヤクザの阿久津は、兄貴分・堤の世話で、年下の那奈とその息子と、ホウセンカが庭に咲くアパートで暮らし始めた。縁側からは大きな打ち上げ花火が見える。幸せな日々であったが、ある日突然大金を用意しなければならなくなった阿久津は、組の金3億円の強奪を堤と共に企てるのだった。「退路を絶ったもんだけに、大逆転のチャンスが残されてんだよ」ある1人の男の、人生と愛の物語。
引用元:『ホウセンカ』公式サイト


 


▼目次
1. ろくでもない一生から見えた希望
2. 花が語りかける独特な世界観
3. 『オッドタクシー』からの継承と変化
4. 1987年の夏が映すもの
 


1. ろくでもない一生から見えた希望


主人公・阿久津実は、独房で死を待ちながら過去を振り返る無期懲役囚だ。
ヤクザとしてろくでもない一生を歩んできた彼は、自らの不幸に目を向けることが習慣のようになっていた。しかし、愛する那奈と息子と過ごした時間、それだけは、何もない人生の中で体験する唯一の幸せだった。
 

「退路を絶ったもんだけに、大逆転のチャンスが残されてんだよ」これは阿久津が部下に言うセリフだが、本作のキーワードとなっている。
自分や仕事に対しての大逆転だったが、物語が進むにつれ変化していくのだ。

自ら不幸ににじり寄っていた彼が、大逆転の意味に気づく瞬間。それこそが人生の希望になっていく。
 

彼にとって本当の大逆転とは何か。
その変化に目を向けると、物語の奥行きがより広がってくる。

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会


 

2. 花が語りかける独特な世界観


本作の最もユニークな点は、阿久津に語りかけるホウセンカの存在だ。
花がしゃべる、この設定はファンタジーだが、彼の抑え込んできた感情を表現しているのだ。重い口を開き、忘れていた記憶を呼び戻すきっかけになる重要な存在で、物語にテンポの良さ与えている。

そしてホウセンカの花言葉には、「私に触れないで」「短気」「心を開く」という相反する意味があり、熟した実に触れると種が弾け飛ぶ性質から生まれた。
これは、ヤクザという立場から素直に愛情表現できない、不器用な阿久津そのものだ。

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会

 


3. 『オッドタクシー』からの継承と変化


木下・此元コンビといえば、伏線を張りめぐらせ、スピード感と共に一気に回収する演出が特徴的。本作でもそれは健在だ。
恋人の那奈と過ごした思い出や、ホウセンカとの会話に散りばめられた点が繋がり、真の阿久津を浮かび上がらせる。
そして、伏線が解けるとき見えるのは、犯罪ではなく愛の記憶だ。
過去と現在、行動と思いが一気に集結する描写は感動的で、涙せずにはいられない。
 

一方で今回は、動物キャラクターの擬人化から一転、実力派俳優陣を起用した人間ドラマへとシフト。
しゃべるホウセンカをピエール瀧。
阿久津の現在と過去を演じる、小林薫と戸塚純貴。そして、那奈を演じる満島ひかりと宮崎美子。彼らの声と表現力によって、二人の人生が刻まれていく。
さらに『オッドタクシー』に続いて、花江夏樹さんが那奈の息子、健介を、斉藤壮馬さんが若松を演じているのも興味深い。

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会
(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会

 


4. 1987年の夏が映すもの


時代に注目すると、阿久津が最も幸せだった時期は1987年の夏。彼にとっては家族と過ごしたかけがえのない季節だ。
ちょうどバブル期の世間の雰囲気と、那奈やその息子と暮らすアパートでの質素な暮らし。その対比が彼の生きかたを際立たせている。
 

さらに、映画全体の雰囲気を盛り上げるのがバンドceroが手掛ける音楽だ。
オープニング曲「Moving Still Life」は、思わず唸るほどに鮮やかな花火の映像とマッチしている。主題歌「Stand By Me」は、映画の感動と余韻をさらに大きくさせる。
エンディングに流れる「Stand By Me」を聴くと、作中に流れるそれとは違った意味合いが心に深く響いてくる。

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会


本作は、一人の男がホウセンカとの対話を通して、確かに存在した愛を証明する物語だ。
そして、そのホウセンカの種が弾ける瞬間に、彼は知る。
それは、絶望でも贖罪でもない。長い歳月を経て、ようやく「愛していた」ことが届いた合図だったことを。
不器用な男が、最後に選んだ“愛の形”。
その瞬間を劇場で。

 

アニメ『ホウセンカ』
10月10日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

 



キャスト:
小林薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子
安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮(とろサーモン)中山功太、ピエール瀧
監督・キャラクターデザイン:木下麦
原作・脚本:此元和津也

企画・制作:CLAP |音楽:cero/高城晶平、荒内佑、橋本翼|演出:木下麦、原田奈奈|コンセプトアート:ミチノク峠|レイアウト作画監督:寺英二|作画監督:細越裕治、三好和也、島村秀一|色彩設計:のぼりはるこ|美術監督:佐藤歩|撮影監替:星名工、本䑓貴宏|編集:後田良樹|音響演出:笠松広司|録音演出:清水洋史|制作プロデューサー:伊藤絹恵、松尾亮一郎|宣伝:ミラクルヴォイス
配給:ポニーキャニオン|製作:ホウセンカ製作委員会
(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会
 

製作年:2025年|製作国:日本|劇場公開日:2025年10月10日|上映時間:90分|映倫:G
 




 

コメントする
1 件の返信 (新着順)
Black Cherry
2025/10/10 10:25

主人公は無期懲役囚とのことですが、花が語りかけるときくと「星の王子さま」のようです⭐ 声優陣も豪華なんですね!


かこ
2025/10/10 11:27

どちらかと言うとアニメは観ない私。
でもこれには感動しました!

なんて言うのかなぁ、本当に阿久津が不器用で(ヤクザなので愛に対して遠慮しがち)。その阿久津に苛々するのがホウセンカ☺️ピエール瀧さんがホウセンカの声優を務めてますが、素晴らしいです👏

星の王子様も語りかけるタイプのお話しなんですね💡✨癒されそう〜❤️