【蔵出しレビュー】主人公の息子が加害者か被害者かドギマギさせられるサスペンス!『望み』
※9月6日から公開の柳楽優弥主演、堤幸彦監督作品『夏目アラタの結婚』にあわせて、堤幸彦監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■望み
《作品データ》
『TRICK』シリーズや『20世紀少年』シリーズを手掛けた堤幸彦監督の最新作は行方不明になった息子が殺人事件に巻き込まれるサスペンス映画!! 主人公・石川一登は一級建築士で、妻・貴代美と高校生の息子・規士と中学生の娘・雅の4人家族で幸せな家庭を築く。ある日、規士が帰宅せず、一登と貴代美は不安になるが、翌日規士の同級生が殺害される事件がニュースで流れる。主人公・一登を堤真一が、妻・貴代美を石田ゆり子が演じ、他岡田健史(現・水上恒司)、清原果耶、加藤雅也、市毛良枝、松田翔太、竜雷太が出演。
・TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー中!
・配給:KADOKAWA
・公式HP: https://nozomi-movie.jp/
《『望み』レビュー》
『TRICK』シリーズや『20世紀少年』シリーズを手掛ける一方、『明日の記憶』や『人魚の眠る家』といった重いヒューマンドラマも手掛ける堤幸彦監督。今回も行方不明になって殺人事件に巻き込まれる高校生の息子の家族の視点でのサスペンスで、
ありがちなシチュエーションながら現代的で、家族に巻き起こる負のスパイラルが凄まじい絶望映画仕様になり楽しめた。
考えてみれば、息子が事件に巻き込まれるサスペンスは誘拐を含めれば古くは『天国と地獄』があるからシチュエーションそのものはありがちだが、その核心を3/4まで引っ張り、それまで息子・規士が殺人事件の被害者なのか、加害者なのか分からず、興奮度が高いサスペンスに仕上がっている。
非常に上手いのはまだわからない段階なのに、加害者として煽る周囲の状況である。被害者の同級生との関係や所属していたサッカー部での状況から、事件を報道するマスコミや近所、さらには一登の取引先の相手から負のイメージで情報が広まる。
それは『リチャード・ジュエル』や『許された子どもたち』の主人公らに似たケースだが、この2つは結果がはっきりしてからの周囲のエスカレートした状況だったが、『望み』の場合はまだ被害者か加害者か分からないのに負のイメージが広まる。やらかしで広まるネットの炎上以上に恐ろしい、現代人の闇を見事に描いている。
そして、ある段階になると一登ら家族は規士に対して、被害者であるか、加害者であるか望む。2つに1つ、まるで丁半博打のようなスリルがあるが、よく考えてみるとどちらを引いても不幸という状況で、絶望映画としてのクオリティも高い。この部分においては『人魚の眠る家』に近いが、変なテクノロジーを使った『人魚の眠る家』すればそういったものがないだけにストレートで、そこがいい。
終盤の分かってからの展開はそれまでと比べると弱い。緊張の高低は『64』前後編に近いものがある。堤真一の巧さはもちろん、母親役の石田ゆり子や妹役の清原果耶の演技が光る。さらに松田翔太や竜雷太の脇役も存在感十分。