鬱・トラウマ映画

じょ〜い小川
2025/04/17 19:13

山田洋次監督の名作で「日本万国博覧会」に!『家族』

山田洋次監督の名作で「日本万国博覧会」に!『家族』


4月13日(日)から開幕した「2025年日本国際博覧会」。雨対策がダメだとか、入るのに2時間待って出るのに1時間待ちでパビリオンが1箇所しか回れなかっただの、さらには15日には危険物持込み疑惑騒動(?)とか、相変わらずマイナスなイメージの声ばかりが聞こえてくる。

©産経新聞

では、55年前の「日本万国博覧会」はどうだったのか?昨日紹介したドキュメンタリー映画『公式長編記録映画 日本万国博』でもやはり入場待ちが凄い感じだったからそんなに変わらない。

ただ、このドキュメンタリー映画、公式の映像作品だから来場者側の声が聞こえてこない。

そんな55年前の万博を劇映画の中でちゃんと触れている映画が、

しかも山田洋次監督作品の中にある!

それが倍賞千恵子主演映画『家族』。


映画は長崎県の旧西彼杵郡香焼町沖にある伊王島に住む風見一家が開拓のために北海道標津郡中標津町に移住するという話で、連絡船で九州本島に行き、電車を乗り継いで広島県福山にある夫・精一の弟宅に1泊し、翌日大阪に行き、予定ではそこから新幹線で東京、夜行列車で青森、青函連絡船で北海道といった形で二泊三日で中標津町まで行く予定だったが次々と想定外のトラブルに見舞われる。

©松竹

「家族」というストレートなタイトルで何をやっているかと思えば子供二人(その内一人は赤ちゃん)と高齢者1名を含む5人家族で長崎県の離島から北海道の東側の真ん中辺りにある中標津町まで大移動というロードムービー。

ん?

上記の伊王島から中標津町までの道程で、福岡から飛行機で札幌までいけばせいぜい一泊二日ぐらいじゃない?

と思った方も多いでしょう。

確かに、1965年の3月1日から、日本国内航空はCV880M「銀座」号による東京-札幌、東京-福岡線ジェット便を開始されている

が、この時は福岡空港ではなく、

アメリカ軍が板付基地として接収されていた板付飛行場で、

アメリカ軍から大部分が返還されて福岡空港となったのは1972年からだった。

©毎日新聞

なので、作中の風見一家が家族で大移動をするのに飛行機ではなく、電車や新幹線、連絡船を乗り継いでの旅になったのも納得出来る。

そしてこの映画、中盤から大トラブルがあり、家族での大移動の旅が物凄く重い雰囲気に一変する。

その一因になるのが、精一の思いつきによる大阪で開催されている「日本万国博覧会」に行ったことにある。

当初の旅の予定では万博に行くことは組み込まれていなかったが、大阪での新幹線の時間が3時間あるので、近くで開催されている万博へ行こう、となった。

©毎日新聞

旅は4月6日にスタートして二日目だから4月7日。万博の開催が3月15日からだったから、万博が開催されて1ヶ月未満。連日、テレビや新聞で報道されていただろうけど、まず前情報がその程度というのと、かなりの待ち時間が要するレジャーの経験がないということもあって、幼子二人と老人連れの家族は万博の入り口に行くまで苦戦。この万博関連のシーンで印象に残るのが、一家が万博付近のレストランに立ち寄り、3歳の長男・剛が「EXPOランチ」なるお子様ランチを食べている。

この万博のシーンの顛末はネタバレになるのでこのぐらいにするが、この時の行動は確実にこの後の行動やさらなる悲劇に大きく影響している。


もう一つ社会派要素

©BS松竹東急

そもそもこの一家が長崎県の離島からわざわざ北海道の東側真ん中辺りまで大移動するのは、一家の主である精一が子供の頃から夢見ていた牧場生活を実現させるというものだが、そうなるのに至ったのは精一が島のメイン産業だった炭鉱での仕事に従事していたことにある。

©佐賀新聞

どうやら、笠智衆が演じる祖父・源蔵の代から炭鉱での仕事だったようで、前田吟が演じる精一の弟・力も大きな鉄鉱工場の工場長だから、石炭関連に近い鉄鉱業に従事している。

この石炭事業、石炭から石油へのエネルギー転換などから1970年前後に相次ぐ鉱山の閉山や会社自体の廃業があり、斜陽産業となっていた。作中の伊王島の炭鉱についてはまだ稼働していたが、調べると1972年3月に閉山したので、精一の一世一代の大英断は決して間違っていなかったと思える。

©BS松竹東急

が、ここでの精一は万博に突如立ち寄ったという行動から、やや思いつき的な行動が見受けられ、福山での弟夫婦との話や終盤に中標津町に着いてからの精一の胸中からも、綿密に計算立てた行動よりも行ってみてどうにかなると思っているフシも見られるギャンブラー的な要素が感じられる。

 

そこに来て子供の頃からの夢とは言え、北の大地への酪農・開拓事業に乗り出すというのは随分と思い切っているが、この北の大地での生活の辛さが日本全国に完全に伝わったのは田中邦衛主演のテレビドラマ「北の国から」シリーズではないだろうか?繰り返すが情報がテレビ、ラジオ、新聞、書籍と限られた時代だから、まともな情報がないまま憧れだけで、大雑把な移動計画で敢行した悲劇かな、と改めて見て思った。

ともかく、万博の様子はもちろん、電車、新幹線、連絡船や旅館や救急病院のシーンなど、随所に1970年らしさが垣間見える。

あと主人公・民子役の倍賞千恵子や源蔵役の笠智衆の他にも渥美清や前田吟、太宰久雄、三崎千恵子、森川信といった『男はつらいよ』シリーズのレギュラーメンバーが脇役で出てたり、ハナ肇とクレイジーキャッツのメンバーもカメオ出演してたり、山田洋次監督ならではの遊び心満載。しかも、旅館のオヤジ役の森川信に至ってはテレビで『男はつらいよ』シリーズを見ながら「こいつ、馬鹿だよww」とゲラゲラ笑っているシーンもある。

ともかく、『家族』を見て「日本万国博覧会」の外観や1970年の空気をたっぷりと味わってほしい。


■家族

監督・脚本・原作:山田洋次/脚本:宮崎晃/出演:倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、木下剛志、瀬尾千亜紀、梅野泰靖、前田吟、富山真沙子、太宰久雄、山本幸栄、佐々木梨里、花沢徳衛、ハナ肇とクレージーキャッツ(ハナ肇、犬塚弘、桜井センリ、石橋エータロー、安田伸)、三崎千恵子、森川信、渥美清、塚本信夫、松田友絵、寺田路恵、水田成美、谷よしの、水木涼子、春川ますみ

 

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