【エス】太田真博監督・松下倖子さんインタビュー後篇/ 「逮捕前と逮捕後の心境」
Summary
太田真博監督が、自身の逮捕から着想した物語『エス』。
監督の太田真博さんと、主演の松下倖子さんに、逮捕前と逮捕後の心境の変化や、本作の魅力について聞いた。(取材:上田・はじめ / 文:はじめ)
上田:自身の逮捕歴から着想を得た作品とのことで、ご自身の中で逮捕前と逮捕後で「映画を作る」ことにおいて考え方の変化はありましたでしょうか。
太田:逮捕前は、今となってはなんのために映画を作っていたのか定かではないですが、おそらく名をあげたかったんだと思います。よく知る人や、後輩からは、「太田さんは映画監督になりたい人ではなく、映画を撮りたい人だ」とよく言われていました。逮捕前は、映画を撮りたいから撮っていました。
逮捕後も、もちろん撮りたいから撮っている側面はありますが、人生の中で映画が占める割合がより大きくなっています。裁判で「あなたにとって映画とは何ですか」と聞かれたのですが、私は「人生です」と答えました。この答えは自分でも一生忘れてはいけないと感じていて、今では映画を撮ることが生きているという感覚に感じています。
散々人に迷惑をかけてしまったので、これからの人生は恩返しをできるような人生にしようと決めていて、映画を撮ることによって、昔からの知っている役者さんであったり、ずっと支えてくれている人たちへの恩返しをしていきたいと思っています。
はじめ:作品を観て、人間関係ってこんな世界もあるのだと感じました。松下さんが主演を演じるうえで、人間関係における新しい発見や、エピソードがあれば教えていただきたいです。
松下:『エス』にはいろいろな人が出てきて、罪を犯してしまった染田君(S)との距離感や、関わり方がそれぞれ異なる人たちが出てきます。私が演じた千穂という役は、全員とコミュニケーションを取る役であったので、私の実人生よりもいろいろな人と関われたと感じています。
その中で、やはり人には、それぞれの価値観があり、それぞれ大切にしているものがあり、そのことを表に出しはせずとも、普段それぞれの人と付き合っているのだなと感じました。
しかし、何か一つきっかけがあった時に、それぞれ隠していた思いが少しずつ出てくるということを体感して、人が分かり合えないことは当然なのだと感じました。
特に、屋上で長尾役の辻川幸代さんと対峙するシーンでは、辻川さんが抱えているものや、大切にしているものが対峙すると全て伝わってきましたが、私にも大事にしていることがあり、それが分かり合えなくても、それぞれ大事にしたいものを大事にすることが重要であると感じました。
太田監督は、ふとした時の誰に向けているものではない、その人の内面が出てしまうような瞬間を切り取ることが多いので、より作品内で人間関係が鮮明に映し出されていると感じています。
はじめ:お二人から本作の魅力を言える範囲でお願いいたします。
太田:魅力は、俳優の演技です。
逮捕された人が自分のことをモチーフに映画を作ったということを入り口に、作品を観ていただき、役者の魅力に気づいていただければと思います。
また、千穂役の松下倖子さんと長尾役の辻川幸代さんの屋上のシーンを是非観ていただければと思います。このシーンの数分を観ていただければ、2人がいかに素晴らしい役者であることが分かっていただけると思います。
松下:魅力は、人間コレクターである太田さんが選んだいろいろな人間がでてくることです。
映画を観るうえで、誰にどう感情移入するかは、人それぞれ違うかと思いますが、是非『エス』を観て、自分の場合、誰に感情移入して、どのように感じるのか試しに来てもらえればと思います。
自分がどう感じるのかということを感じ、自分自身を知るきっかけにもなると思います。
また、友達などと観に行けば、それぞれの感覚の共通点や、違いなど新たな気づきもあると思います。
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2024年7月20日(土)より、シアターセブンにて絶賛公開中
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『エス』
監督:太田真博
出演:松下倖子、青野竜平、後藤龍馬、安部康二郎、向有美、はしもとめい、
大網亜矢乃、辻川幸代、坂口辰平、淡路優花、河相我聞
公式サイト https://s-eiga.com
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(C)上原商店