私の好きな映画

マンガ賞を総なめにした魚豊のデビュー作を、アニメーション映画『音楽』で注目を集めた岩井澤健治監督が映像化。才能型のトガシと努力型の小宮、二人のスプリンターの青春を、松坂桃李と染谷将太が熱演する。主題歌はOfficial髭男dism。才能と努力がぶつかり合う100メートル走のドラマが、スクリーンを駆け抜ける。
 

『ひゃくえむ。』
 

アスミック・エース様のご招待で完成披露試写会に参加いたしました。

▼あらすじ
生まれつき足が速く、「友達」も「居場所」も手に入れてきたトガシと、 辛い現実を忘れるため、ただがむしゃらに走っていた転校生の小宮。 トガシは、そんな小宮に速く走る方法を教え、放課後2 人で練習を重ねる。 打ち込むものを見つけ、貪欲に記録を追うようになる小宮。 次第に2人は100m走を通して、ライバルとも親友ともいえる関係になっていった。数年後、天才スプリンターとして名を馳せるも、勝ち続けなければいけない恐怖に怯えるトガシの前に トップスプリンターの一人となった小宮が現れる――。
『ひゃくえむ。』公式より引用
 

現在、東京では世界陸上が開催されており、世界のトップランナーたちが連日熱いレースを繰り広げている。スタートの合図とともに生まれる緊張感、ゴールに駆け込む瞬間の喜怒哀楽、そのすべてがトラックに凝縮されている。
大袈裟ではなく、才能と努力、運命までもが交錯する場だ。
映画『ひゃくえむ。』にも100mというわずかな距離に人生を懸ける者たちがいる。極限の世界に身を置いた二人のスプリンターの物語だ。
 

生まれ持った才能で常にトップを走り続けるトガシと、狂気にも似た努力で食らいつく小宮。
トガシにとって勝つことは宿命、そのプレッシャーが痛いほど伝わってくる。
一方、小宮は倒れても立ち上がり、才能だけでは測れない粘り強さを見せる。
そんな二人の姿からは「勝利と挫折」「孤独と友情」という普遍的なテーマを感じさせる。
 

陸上に限らず、勝負の世界では誰もが孤独、仲間がいても最終的には自分自身との闘いなのだ。思うような結果が出ず目標を見失い、今までの努力は無駄だったのかと自分を責めてしまう時もある。
そんな中でトガシの言う、「大抵のことは100mを誰よりも速く走れば解決する」という言葉は、正にこれ振り払うためで彼らの心の支えにもなっている。
そして、100mに夢中になっているときは嫌なことも忘れられる、それほど｢走ること」は強い力を持っていることが、スクリーンからも伝わってくる。

作中にはいくつもの走るシーンがあり、選手たちの様子がリアルに、そして迫力満点に描かれている。
その表現のために用いられたのが、実写をトレースする「ロトスコープ」という手法である。アニメーションでありながら、選手の動きや呼吸まで生々しく再現されており、独特な世界観はとても新鮮だ。さらに細かい背景美術が重なり、風や時間の流れまでも感じさせる。
日常の穏やかな空気とレースの緊張感、そのコントラストも素晴らしい。
監督は本作のために陸上競技の現場を取材し、スタートの緊張や最後の10秒に込められる爆発的な疾走感を映像に落とし込んだ。中には完成までに約一年を要したシーンもあるという。
 

本作は勝敗だけを描いた作品ではない。なぜ走るのか、なぜ挑み続けるのかを問う内省的な作品でもある。
いつ逆転が起きてもおかしくない実力主義の世界は泥臭い、しかし自分の限界を突破した
10秒後、挑戦した者にしか見ることのできない景色が広がっているのだ。
 

100メートルという短い距離に、人生のすべてを懸ける。挫折も悔しさも、そのすべてを受け止めながら進む二人の姿を、ぜひスクリーンで体感してほしい。
 

映画『ひゃくえむ。』
9月19日(金)より全国ロードショー‼︎
 

松坂桃李、染谷将太／笠間 淳、高橋李依、田中有紀、種﨑敦美、悠木 碧／榎木淳弥、石谷春貴、石橋陽彩、杉田智和／内田雄馬、内山昂輝、津田健次郎
原作：魚豊『ひゃくえむ。』（講談社「マガジンポケット」所載）
 

監督：岩井澤健治｜脚本：むとうやすゆき
キャラクターデザイン・総作画監督：小嶋慶祐

音楽：堤博明｜主題歌：Official髭男dism「らしさ」(IRORI Records / PONY CANYON)｜美術監督：山口渓観薫｜色彩設計：松島英子｜撮影監督：駒月麻顕｜編集：宮崎歩｜音楽ディレクター：池田貴博｜サウンドデザイン：大河原将｜キャスティング：池⽥舞 松本晏純｜⾳響制作担当：今⻄栄介｜プロデューサー：寺⽥悠輔、⽚⼭悠樹、武次茜｜アニメーション制作：ロックンロール・マウンテン
製作：『ひゃくえむ。』製作委員会　
配給：ポニーキャニオン／アスミック・エース
（c）魚豊・講談社／『ひゃくえむ。』製作委員会