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かこ
2025/11/20 18:42

映画『金髪』感想・レビュー

金髪と愚痴と、30歳教師のズレまくりな日常。岩田剛典が演じるイタい大人・市川に、思わず共感し苦笑い。
笑えて痛いコメディ──映画『金髪』

(c)2025 映画「金髪」製作委員会



鑑賞しながら、何度も「自分にも当てはまるかも」と苦笑いしそうになった。
主人公の市川は30歳、職業は中学校教諭だ。
30歳といえば筆者から見ればまだ若いのだが、世間的には若くはない、でも年配でもない。
そんな認識だろう。
今の年齢になれば自然と大人になれると思っていたのに、実際は中身が追いつかない瞬間が多々ある。
その現実に向き合うのは、案外きつい。
 


 

1.生徒の「問い」と大人の「思考停止」


ある日、生徒の一人が金髪で登校する。それが次々と広がっていき、教室には金髪の生徒がずらりと並ぶようになる。
その行動は反抗ではなく、“理由のないルールへの素直な問い”だった。
けれど、市川はその問いに答えることができない。
考えて動く生徒と、思考停止のまま校則の意味を“わかったふり”で守ろうとする大人。この噛み合わなさが面白い。
 

さらにややこしいのは、市川自身が“自分の考えは正しい”と思い込んでいるところだ。
しかしこれは共感できる部分で、ある程度の自信がないと何もできない、という気持ちはよくわかる。

(c)2025 映画「金髪」製作委員会


 

 

2.恋人や友人の言葉が刺さる、痛快な会話劇


会話のテンポにも、この作品らしさがよく出ていた。筆者には、この会話こそが本作のハイライトに思えた。
やや早口で、遠慮のないストレートな物言いが続き、「わからない大人には単刀直入に言うほうが早い」という空気が画面から漂ってくる。印象的なのが、恋人に“年齢に対する感覚のズレ”を諭されるシーンだ。誰かにそう言われた経験がある人なら、この痛さがすぐにわかるはずだ。
突き放される感じが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
 

男女で受け取り方は違うかもしれないが、市川の発言には「若いことが正義」という価値観が見え隠れしていて、その滑稽さも効いていた。

(c)2025 映画「金髪」製作委員会
(c)2025 映画「金髪」製作委員会


 


3.SNS炎上で露呈する、保身に走る大人の姿


その上、ある場面をスマホで撮られ、ネットで拡散され学校が騒ぎ出す。ふだんなら“また炎上か”で済ませるところを、この映画では市川の未熟さが容赦なくあぶり出していく。
自分の保身に必死になる姿も痛い。
かなり痛いが、"自分大好き"がそのまま表れているだけでもある。

さらに、SNSでイメージだけがひとり歩きする現代の嫌なリアルが重なり、笑いの裏にシニカルな後味を残していた。

(c)2025 映画「金髪」製作委員会


 


4.普段のイメージを覆す、岩田剛典の好演


LDHの華やかなイメージが強い岩田剛典さん。彼が、"愚痴が多くてちょっとズレた大人"を演じたことの意外性、そのギャップが、本作の面白さを何倍にも引き上げていたと思う。

さらに、市川に"おじさんという事実"を淡々と突きつける恋人役の門脇麦さん。
大胆で、大人を手のひらで転がす板緑(いたろく)を演じた、白鳥玉季さんも素晴らしかった。中学生が必死で金髪にした、何とも言えない違和感がしっかり伝わってきて、ただただリアルだった。

(c)2025 映画「金髪」製作委員会


 


5.金髪に変わったのは生徒たち、でも変わるべきは大人のほうだった。


こうして振り返ると、本作は生徒たちの行動よりも、そこに振り回されながら自分と向き合わざるを得なくなる、大人の姿が際立つ作品だった。
校則の理不尽さでも、SNSの騒がしさでもない。
市川がようやく、自分のズレから抜け出す成長物語だった。

映画『金髪』11月21日(金)より公開

(c)2025 映画「金髪」製作委員会

 


 

【上映後、監督Q&Aイベント】
Q:1
本作はオリジナル作品だが、どこからアイデアが生まれたのか?

A:坂下監督
4、5年前にブラック校則をテレビで知り、面白いなと感じた。
イギリスでは抗議として男子がスカートを履いた例があり、そのネットニュースを見て「日本なら金髪だろう」と連想して着想を得た。脚本ができるまでは2021年から2024年まで、三年くらい掛かった。
 

Q:2  リサーチは?

A:坂下監督
教育委員会や、実際に教育に関わっている人たちに話を聞いた。
「こういうことが実際に起きたら、どんな対応になるのか」などを確認した。
 

Q:3
30歳がひとつの目安など、頻繁に年齢が出てきたが、これに込められた意図は?

A:坂下監督
主人公のキャラを深掘りしていくうちに、この作品は年齢に関する映画だと意識し始め、若者たちの抗議ということは、どうしても大人の目線になる。
30歳という設定は感覚的ではあるけれど、なんとなくの目安として、キャラの抱えている「おじさんになるのが怖い」という葛藤につながっていく。
SNSでも年齢にまつわる炎上がよく起きていて、あれは無意識の炎上で、自分もおじさんの感覚になったら同じようになると思った。それを反映したら面白そうだと感じたので、わかりやすく30歳に設定した。
 

Q:4
監督が映画を作るときに大切にしていることは?

A:坂下監督
いろいろなジャンルが好きで、エンタメ映画、娯楽映画を作りたいと思っている。
多くの人に届けるため、常に映画の広がる間口を広げることを考えている。
 

Q:5
若い方が実際に撮影に入って、シナリオのまま受け入れてくれたのか、今の中学生は違うよと言われたのか、裏話を教えてほしい。

A:坂下監督
脚本は、リアルな等身大というより、大人が「子どもがこう言ったら面白いだろう」と考えて作ったものだったので、特に何も言われることはなかった。
そもそも自分はあまり若い人たちとコミュニケーションを取っていなくて、現場でもみんなを束ねるようなことはしていない。休憩時間も、輪の中には入らないようにしていた。
 

Q:6
現代の日本を切り取られていました。実際の学校とそっくりでしたが、結末は迷われましたか?

A:坂下監督
校則問題自体が現在進行形なので、あまり変えない方がいいと考えた。生徒の頑張りで変わった、という形にした。
 

Q:7
社会的なテーマなのにコメディで面白かった。その実現のために苦労したところ、岩田さんと板緑役の起用、長回しのセリフについて教えてください。

A:坂下監督
社会的な問題は、問題が起きるとその都度考えていこうという流れでした。
キャスティングについては、岩田さんは監督の中では全く候補ではなかったが、彼の他の作品を観たときに、笑顔だけど理解できない、何を考えているかわからないところがあったので採用した。
板緑役の白鳥さんはオーディション。
とにかく演技の上手い子がいいということで選んだ。
 

Q:8
長回しの撮影について教えてください。

A:坂下監督
主に会話劇の撮影で、カットのアップよりも、引きで撮るツーショットなどを意識していた。編集で整えるというより、その場で俳優にテンポをつけた。多くのカットを撮ってあとから選ぶようにした。
 


出演:
岩田剛典、白鳥玉季、門脇麦、山田真歩、
田村健太郎、内田慈

監督・脚本:坂下雄一郎
音楽:世武裕子
 

製作年:2025年|製作国:日本|配給:クロックワークス|劇場公開日:2025年11月21日|上映時間:103分|映倫区分:G
(C)2025 映画「金髪」製作委員会
 



クロックワークス様のご招待により、東京国際映画祭にて鑑賞させていただきました。
この度は、誠にありがとうございました。



 
 
 

 

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