2025年に観た映画(51) 「平場の月」

欧米の作品にはシニアな男女の恋物語を描いた名作が結構あるように思えるのですが、これが邦画となるとティーンばかりが中心でなかなか見かけることがない。そんな中、土井裕泰監督が描いた中年男女の切ない恋物語にしてやられました。
この歳になると、どうしても色々と振り返りがちな過去の恋愛遍歴。中学時代の同級生、青砥(堺雅人)と須藤(井川遥)の(かつて想いを寄せていた相手との)恋愛第二章は、ある意味ちょっと羨ましくもあるシチュエーションでありながら、その後二人が各々歩んだ時間に積もる人生の堆積物が、大人の恋愛ならではの足枷となる様子も土井監督らしい筆致で描かれている。二人が別々に過ごした年月の長さに比例する、恋を再始動させる際の静止摩擦力の大きさは、観ているこちらも身につまされます。井川さんがちょっとサバサバ系の“太い”須藤を魅力的に演じれば、彼女の心の扉を優しく真正面からこじ開ける青砥を演じる堺さんも同性として愛おしい。青砥と須藤の中学時代を演じた坂元愛登君と一色香澄ちゃんの二人も本当に良かった。登場人物の中のキーパーソンが皆素敵なだけに、その他チョイ役に豪華俳優陣を無駄に配するのは逆効果な気がした。
坂元裕二氏とタッグを組んだ「花束みたいな恋をした」「片思い世界」も秀逸でしたが、向井康介氏脚本の本作も沁みました。登場人物が交わすなんでもない会話の積み重ねが、エンドロールと共に感情の襞(ひだ)をざわつかせる。星野源ちゃんの主題歌が拍車をかける。パンフレットのインタビュー記事に「自分が描きたいのはこういうささやかな人たちのささやかな物語なんだ」と改めて思ったとありましたが、今から新作が楽しみな監督さんになってしまいました。朝倉かすみさんの原作も少し間をおいて読んでみたいです。
№51
日付:2025/11/22
タイトル:平場の月
監督:土井裕泰
劇場名:109シネマズ湘南 シアター5
パンフレット:あり(¥990)
評価:7





(c)2025映画「平場の月」製作委員会

- イントロダクション
- ストーリー
- インタビュー 堺雅人
- インタビュー 井川遥
- インタビュー 坂元愛登
- インタビュー 一色香澄
- キャスト・プロフィール
- インタビュー 土井裕泰
- レビュー 土井裕泰監督が描く、“作品ファースト”の姿勢 西森路代(フリーライター)
- インタビュー 朝倉かすみ
- 対談 堺雅人 × 朝倉かすみ
- インタビュー 向井康介(脚本)
- インタビュー 五辻圭(美術)
- 『平場の月』撮影日誌
- インタビュー 『平場の月』における医療及びストーマ監修について 医療監修:小野麻紀子(がん研有明病院/総合腫瘍科副医長)&ストーマ監修:松浦信子(看護師:がん研有明病院/WOC支援室師長)
- クレジット
