Discover us

私の好きな映画

じょ〜い小川
2024/09/19 13:55

【配信記念特別コラム】『極悪女王』に見られるNetflix配信ドラマ制作と映画制作のボーダーレス化

〈『極悪女王』配信記念特別コラム〉

ゆりやんレトリィバァ主演、白石和彌総監督作品『極悪女王』を全話見た興奮冷めやまぬ中で、昨年と今年で話題になった一ノ瀬ワタル主演、江口カン監督作品『サンクチュアリ -聖域-』と綾野剛主演、大根仁監督作品『地面師たち』を改めて全話見て、ふと思うところがあったので書いてみたい。


『極悪女王』を見た時も思ったが、『サンクチュアリ -聖域-』も『地面師たち』もドラマの内容もしかりだが、キャスティングといい、特えに『サンクチュアリ』と『極悪女王』は役作りにおける準備期間も含めて、まるで映画制作のような、いやそれ以上のテンションで作られている。

それは9月12日に後楽園ホールで行われた「『極悪女王』配信記念イベント ネトフリ極悪プロレス」のクオリティーから見てもその高さが伺える。

いわば、Netflixの配信ドラマのプロモーションイベントで、通常の映画作品なら作品公開前のジャパンプレミアイベントなどに当たる。けど、Netflixの配信ドラマなので試写会という形でのイベントが出来ない。おそらくその代わりに題材にした女子プロレスにちなんでの後楽園ホールでの大プロモーションイベントになったのであろう。

それにしても、これまでのジャパンプレミアに相当するプロモーションイベントでここまで熱量が高いイベントがあったか、というぐらい物凄いプロモーションイベントだった。メインキャストと監督が総出で登壇のフォトセッション付きトークショーに現役の女子プロレスラー達による試合、さらに会場にも全日本女子プロレスのレジェンドOGを集結させただけでなく、実況に志生野アナウンサー役の清野茂樹を起用し、解説にはレイザーラモン、さらには黒田大輔や仙道敦子などの脇役キャストやNetflix配信ドラマつながりで『サンクチュアリ -聖域-』の主演の一ノ瀬ワタル、タレントのアンミカを来場させる豪華さはまさしくジャパンプレミアイベント並み。それに加えて、製作・宣伝のスタッフが総出で質が高い煽りをしていた。

そもそも、後楽園ホールでイベントをやるには最低でも半年から1年ぐらい前からスケジュールを押さえておくというのを聞いたことがある。おそらく配信初日が決まった段階で押さえたのであろう。


その上、さらに思い起こすと約2年前にこの『極悪女王』の撮影でゆりやんレトリィバァが負傷して2週間程入院し、撮影日程が延期した、というニュースがあった。これがそのニュース。
つまり、2年前の撮影だか制作準備期間の段階で2年後の配信初日とその1週間前に後楽園ホールでイベントをやることが決まっていた可能性が高い。


そして『サンクチュアリ』は『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』の江口組のスタッフ陣、『地面師たち』は主に『SUNNY 強い気持ち・強い愛』を中心とした大根組のスタッフ陣、『極悪女王』は主に『ひとよ』と『死刑に至る病』を中心とした白石組のスタッフ陣で制作されている。

特に『極悪女王』は音楽担当の木村秀彬と衣装統括の加藤優香利以外は過去に何かしらの白石和彌監督作品に携わったスタッフで形成された純白石組と言ってもいい。なので、『極悪女王』は音楽という点ではこれまでの白石和彌監督作品とは違った雰囲気の作品になっている。
また『サンクチュアリ -聖域-』も『地面師たち』も音楽に特徴がある作品でもある。『サンクチュアリ -聖域-』は『ザ・ファブル』シリーズの茂木英興が手掛けているがファンクやロックなど大相撲の文化とはかけ離れているジャンルの音楽を上手く取り入れ、作品の尖った雰囲気を演出している。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」2023年5月4日(木)独占配信

『地面師たち』の音楽担当は石野卓球。独特なテクノのセンスを生かした音楽は『ソーシャルネットワーク』や『ゴーン・ガール』といったデヴィッド・フィンチャー監督作品の音楽を手掛けたトレント・レズナーに非常に近い。


それと、『サンクチュアリ -聖域-』と『地面師たち』、『極悪女王』にはもう一つ共通点がある。それは

どの作品も続編を作ることが非常に難しく、ほぼ不可能に近いという点である。

特に『地面師たち』と『極悪女王』はネタバレになるので詳しくは書けないが続編となるとキャストがほぼ総入れ替えになる。唯一『サンクチュアリ -聖域-』ならメインキャストもほぼ変えずに出来るかもしれないが、その『サンクチュアリ -聖域-』の制作秘話(検索して見つけた)にも撮影のハードさが書かれていたし、こちらも身体づくり等の準備段階を含めて4年半も時間をかけて作っているから、続編となるとキャスト・スタッフにとっては酷な話になる。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」2023年5月4日(木)独占配信

ハードな撮影・身体づくり等の厳しさに関しては『極悪女王』も同様である。「『極悪女王』配信記念イベント ネトフリ極悪プロレス」に参加した女子プロレスラー役を演じた女優たちは作中の女子プロレスラーそのもののような体型から既に
女優の体型に戻っている。

それに『サンクチュアリ -聖域-』も『極悪女王』もスタントやボディダブルがほぼ不可能。
役者本人が役作りとして身体を変え、相撲なりプロレスを体得し、さらには投げられ、殴られ、泥だらけになる。当然、一部メイクやCG等はあるが、フィジカルの負担がかなり大きい。『サンクチュアリ -聖域-』で言えば大相撲、『極悪女王』で言えばプロレス及び女子プロレスを取り扱った作品自体基本的には続編というのは厳しい。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」2023年5月4日(木)独占配信

しかしながら、あの『サンクチュアリ -聖域-』のラストを見ると続編の可能性はゼロではないし、『極悪女王』も主人公を松本香/ダンプ松本でなくて別の誰かにして、タイトルが違うかもしれないが続編は出来なくない。ゼロではない。それは直ぐには出せなくても早くて2,3年、時間をかけて数年かもしれない。
その続編の微かな可能性を見せるギリギリの所をNetflixは作っている。実に巧妙である。そう考えると『地面師たち』の続編もゼロではない。実際に韓国の配信ドラマ『イカゲーム』はシーズン1を配信した後にシーズン2制作を発表し、そこから約3年かけてシーズン2を作り上げている。


そもそも『極悪女王』において一番目を引き付けたのはこれまで映画を中心として制作した白石和彌監督が総監督(=監督)として関わったことが大きい。

白石和彌自体、配信ドラマの作品はいくつかある。dTV配信の『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』にAmazon Prime Video配信の『仮面ライダーBLACK SUN』がある。あとNetflix配信ドラマも今回が初めてではなく、『火花』で3話と4話を監督している。しかし、Netflixの作品全体を総監督として関わったのは初めてになる。毎年ハイクオリティの映画監督作品を1、2本、世に送り出している白石和彌監督が本腰を入れて配信ドラマを作った。大袈裟かもしれないが、この意味は極めて大きい。

映画界で名のある監督がNetflix配信ドラマに関わった例はいくつかある。『地面師たち』の大根仁監督や『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の福田雄一監督などがそうだが、大根仁監督も福田雄一監督も映画中心というよりかはテレビドラマも同時に手掛けているので、Netflix配信ドラマを手掛けるのも自然な流れと見ている。それと是枝裕和監督や沖田修一監督もNetflix配信ドラマを1作品内の何話か手掛けてはいるが、作品全体ではない。

つまり、

映画監督作品が10本以上ある監督がNetflix配信ドラマの作品全体を手掛けた国内初めての事例になる。

国内と言葉を濁したが、海外なら何人かいる。『ファーゴ』や『ノー・カントリー』を手掛けたコーエン兄弟監督や『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督、『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督、『オーシャンズ』シリーズのスティーブン・ソダーバーグ監督、『アフター・ウェディング』や『真夜中のゆりかご』を手掛けたスサンネ・ビア監督など錚々たる顔ぶれだが、ついに日本国内のNetflixにおいて白石和彌監督を起用したことはそれに相当する。しかも、白石和彌監督は映画だけでなく、『仮面ライダーBLACK SUN』において配信ドラマでも非常に高いクオリティで作り上げた実績があるし、事実、『極悪女王』は白石和彌監督のキャリアにおいても屈指のクオリティの配信ドラマであった。

ひょっとしたら、大根仁監督の『地面師たち』や白石和彌監督の『極悪女王』に相当する第2弾、第3弾の企画が水面下で動いているのかもしれないが、配信ドラマ制作と映画制作が本格的に交差している。白石和彌総監督作品『極悪女王』はその証でもある。

■極悪女王

〈作品データ〉
1980年代に社会現象にもなった全日本女子プロレスのヒールユニット「極悪同盟」のダンプ松本の自伝でもあり、熱狂の80年代の全日本女子プロレスの模様を描いたNetflix配信ドラマ。1974年に埼玉県熊谷市に住む少女・松本香は、ある日、ひょんなきっかけで巡業に来ていた全日本女子プロレスの練習風景を見て女子プロレスラーに憧れを持ち、高校卒業後に苦しい家計を助けるために地元の製パン会社に就職するが、夢を諦めきれず、全日本女子プロレスのオーディションを受ける。主人公・松本香orダンプ松本役をゆりやんレトリィバァ、長与千種役を唐田えりか、ライオネス飛鳥役を剛力彩芽が演じ、他鴨志田媛夢、芋生悠、水野絵梨奈、根矢涼香、隅田杏花、安竜うらら、えびちゃん(マリーマリー)、堀桃子、戸部沙也花、鎌滝恵利、仙道敦子、村上淳、黒田大輔、斎藤工、音尾琢真が出演。

・9月19日(木)よりNetflixにて配信開始!
・制作:Netflix
【スタッフ】
総監督:白石和彌/企画・プロデュース・脚本:鈴木おさむ/監督:茂木克仁/脚本:池上純哉
【キャスト】
ゆりやんレトリィバァ、唐田えりか、剛力彩芽、えびちゃん、隅田杏花、水野絵梨奈、根矢涼香、鎌滝恵利、安竜うらら、堀桃子、戸部沙也花、鴨志田媛夢、芋生悠、仙道敦子、野中隆光、西本まりん、宮崎吐夢、美知枝、清野茂樹、赤ペン瀧川、片岡礼子、プリティ太田、音尾琢真、黒田大輔、斎藤工、村上淳
・公式HP:https://www.netflix.com/jp/title/81351263?preventIntent=true

コメントする