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かこ
2025/10/21 11:15

第32回キネコ国際映画祭・上映作品『ふつうの子ども』が描く、10歳の内なる革命

アジア最大級の子ども映画祭「第32回キネコ国際映画祭」が、10月31日から11月4日まで二子玉川の街を中心に開催されます。
今回ご縁をいただき、キネコPRアンバサダーとして、映画『ふつうの子ども』を試写鑑賞いたしました。
 


家と学校の往復がすべて。そう言っても過言ではない子どもたちの世界。
放課後の昆虫採集、駄菓子を食べながらの他愛ない会話、家族との食事。そんな身近な場所のなかで、自分なりの“好き”を見つけていくのが、子どもたちの日常だ。

けれど、もしその「家と学校のあいだ」に、今まで知らなかった魅力的な世界を見つけてしまったら、子どもたちの心は、どんなふうに揺れ、どんなふうに変わっていくのだろう。
映画『ふつうの子ども』は、そんな世界を見つけた小学4年生・上田唯士(ゆいし)を中心に、クラスメイトたちの心の成長を描いた作品だ。
監督は呉美保、脚本を高田亮が務め、本作が三度目のタッグとなる。
子どもたちの“好き”から始まる無垢な暴走と、それに向き合う大人たちの葛藤を描きながら、私たちに「ふつう」とは何かを問いかける。

目次

▶︎恋が呼び起こした正義。
無邪気なエネルギーはどこへ向かう?
▶︎あとには引けない同調圧力。
純粋な心が呼ぶ残酷さと、内なる革命
▶︎等身大の子役たち、心で会話するリアリティ
▶︎我が子の暴走が露わにした、親子の価値観の違いと葛藤

 


恋が呼び起こした正義。
無邪気なエネルギーはどこへ向かう?


唯士のクラスには、環境問題に強い関心を持つ少女・三宅心愛(ここあ)がいる。
いつも環境保護の本を読み、堂々と理想を語る彼女の姿に、唯士の中である変化が生まれる。
 

「この人が好きだ」
その気持ちは時に厄介で抗えない。
気になる人の好きなものを知って、共有する。そうすることで、少しだけ近づけたような気分になる。そんな感情は、大人になっても誰もが覚えのあるものだろう。
唯士もまた、心愛への恋心から環境問題に興味を持ち始める。
そこにクラスの問題児・橋下陽斗(はると)が加わり、3人の環境活動がスタートする。
 

男子2人と女子1人。何かが起こりそうなこの組み合わせが面白い。
本題は環境問題、しかし恋の三角関係さながらに、唯士のドキドキや嫉妬が丁寧に描かれているのだ。
思考より先に行動してしまう子どもらしいアンバランスさも微笑ましく、3人は「世界を変えられる!」と信じて突き進む。
その無邪気なエネルギーはキラキラしていて、まさに青春そのものだ。

 


あとには引けない同調圧力。
純粋な心が呼ぶ残酷さと、内なる革命


心愛に導かれるように始まった活動は、やがて思わぬ方向へ進み、地域社会の注目を集めていく。
心愛が自信をつけていく一方で、「やめたい」と言い出せない、そんな同調圧力にも似た空気が、3人のあいだに生まれていくのだ。

仲間の熱意、そして自分の本心。
 

小さな世界で起こる大波にのまれながら、唯士は自分の"好き"が歪んでいく痛みを知る。
「これも僕の“好きなもの”のはずなのに……」そのとき彼は初めて、自分の心と真正面からぶつかる内なる革命を経験する。
 

恋が正義を呼び、正義がやがて暴走を呼ぶ。
そこに悪意はなく、あるのはただ純粋な心。
だからこそ残酷なのだ。
 

 


等身大の子役たち、心で会話するリアリティ


唯士を演じる嶋田鉄太くんをはじめ、子役たちの演技がとにかく自然だ。セリフを話しているというより、心で会話しているようで、それぞれの個性を隠さずに表現している。
駄菓子屋での何気ない会話やギャグは、子どもらしい感性で溢れていて、観ているこちらまであたたかい気持ちになる。
 

その一方で、学校が世界のすべてである子どもたち。クラスで出来事は、彼らにとってどれほど本気で、どれほど切実なのか。
子役たちは、日常の自然さと心の揺れ、その両方を見事に演じきっている。
 

 


我が子の暴走が露わにした、親子の価値観の違いと葛藤


やがて唯士たちの行動が親の目に触れ、会議室で一同会することになる。この場面は本作のクライマックスだが、非常に深い意味を持つ。
 

家庭ごとの価値観の違い、親の性格、そして突発的な出来事への対応力。
それらすべてが露わになり、親子の関係性が試される。
特に心愛の母親(瀧内公美)のストレートな物言いには、清々しさすら感じられる。
 

唯士たちは、それぞれの家庭環境の違いを通して、自分たちが引き起こしたことの重さを知る。そして初めて、自分を客観的に見ることができるようになるのだ。
 

自分たちの行動が確かに社会とつながっていること、そして純粋な思いが、誰かを傷つけてしまうかもしれないという現実。
その怖さを知ったとき、子どもたちはほんの少しだけ大人に近づいていく。
 
 


「ふつう」の定義とは?
 

タイトルにもあるように、「ふつう」とは何だろう。
恋に揺れ、正義に燃え、間違えて、反省する。そのすべてが、子どもたちの日常であり成長の証でもある。
誰かにとっての“好き”や“ふつう”は、自分には合わないこともある。もちろん、その逆もある。
その違いに気づき認め合うこと、それこそが、この映画の核心なのかもしれない。
 

あなたにとっての「ふつう」とは何か。
親子で、友人と、語り合いたくなる一作だ。
 


『ふつうの子ども』キネコ国際映画祭の上映
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11/1(土) 109シネマズ二子玉川 
開場: 13:20 / 上映:13:35 

11/3(月)玉川髙島屋S.C. 
開場: 16:20 / 上映:16:35 
 



製作年:2025年|製作国:日本|配給:murmur|劇場公開日:2025年9月5日|上映時間:96分|映倫区分:G

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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