【カナダ・アカデミー賞8冠】映画『ぼくらの居場所』レビュー:孤立、貧困、虐待…それでも見つかる居場所と小さな希望
胸に深く刺さり涙が止まらない、出会えてよかったと思える映画。
多くの人の心にも届いてほしいと願う。

▼あらすじ
多様な文化を持つ人々が多く暮らす、カナダ・トロント東部に位置するスカボロー。そこに暮らす3人の子供たち。精神疾患を抱えた父親の暴力から逃げるようにスカボローにやって来たフィリピン人のビン。家族4人でシェルターに暮らす先住民の血を引くシルヴィー。そしてネグレクトされ両親に翻弄され続けるローラ。そんな彼らが安心して過ごせる場所は、ソーシャルワーカーのヒナが責任者を務める教育センターだった。厳しい環境下で生きながらも、ささやかなきずなを育んでいく3人だったのだが。
引用元『ぼくらの居場所』オフィシャルサイト
「居場所」とは、血のつながりや国籍ではなく、他者と心を交わす瞬間に生まれるもの。
多様な人々が暮らす一方で、経済格差や教育環境の課題を抱える、カナダ・トロント東部の街スカボロー。
映画『ぼくらの居場所』は、この街を舞台に、教育センターで出会う三組の親子を通して、人が人を支える、という小さな奇跡を描き出す。
ニュースなどで度々耳にする、虐待、ネグレクト、差別、貧困、いじめ。
これらは、決して遠い国の事ではなく、私たちのすぐ隣にある現実。本作でも、生き延びようとする人々のリアルがスクリーンから伝わってくる。
そして、カナダ・アカデミー賞8部門受賞の実績の通り、描かれる内容は深く心に刺さる。

制作のリアリティとこだわり
監督を務めたのは、ドキュメンタリー出身のシャシャ・ナカイとリッチ・ウィリアムソン。
二人はスカボローの教育支援プログラムを取材し、半年かけて子どもたちのオーディションを行った。
演技力ではなく、“この街で生きている”と感じられる人々を選び、主役の子どもたちをはじめ多くのキャストが演技未経験者。
撮影は春夏秋冬の一年に渡り、季節ごとの空気の匂い、子どもたちの表情までもが変化していく。その時間の積み重ねが、作り物ではない“今"を生み出している。


子どもたちの生きる力
子どもたちは、自ら居場所を選ぶことができない。苦しくても逃げられず、困難な環境の中で生きるしかない。それでも彼らは、ほんの一瞬の笑いや友情の中に生きる力を見せてくれる。
カメラは常に彼らと同じ高さに寄り添い、ローアングルでその日々を見つめる。
主人公のビンと親友のシルヴィーも、どんなときもユーモアを忘れない。彼らが笑うとその場が明るくなり、子どもの世界の小さな光が、こんなにも強いものなのだと気づかされる。
絆を築き安心できる環境があれば、子どもは自分の個性をのびやかに表現できる。
そんな希望を教えてくれる。


孤立する親たちと、その居場所
視線を少し上げると、悩みを抱えた親たちの姿がある。
仕事や家庭の責任に追われる大人たちは、親は強くあるべきという重圧から、自分の悩みを隠しすべてを抱え込む。
子どもを守るために立ち向かう姿や、今の状況をどう打破すべきか答えが見つからない様子。
しかし彼らも、居場所を探しているのだ。
大人だって、弱さを見せたり誰かに相談できる場所が必要。本作を鑑賞し、そう強く思った。



支援者の葛藤
そして、イスラム教徒のヒナ先生。
教育センターで子どもたちを見守るソーシャルワーカーだ。
懸命に寄り添おうとしながらも、見守ることの難しさと向き合っている。
家族のプライベートな領域に、教育センターはどこまで踏み込むべきか。
子どもたちを支えたいという願いと、他者の人生への介入という現実の壁。その狭間で揺れる彼女の姿を見ていると胸が痛んだ。
しかし、もし自分だったら踏み込む勇気を持てるだろうか。自分に問いかけていた。

誰かと繋がること、それこそが希望
『ぼくらの居場所』を観て感じたのは、人は誰かと繋がることで、確実に強くなれるということだ。
大きな奇跡ではなく、日々育まれる小さな支え合い。その積み重ねが誰かの明日を照らし、やがて自信となり、居場所を見つけられるのではないだろうか。
それは、子どもたちだけでなく、親も、支援者も、私たち一人ひとりの中にあるべき場所。
そこに希望を見つけられたら、私たちはまた明日を生き抜く力を得られる。
「この声が、届きますように。」
制作陣の熱い願いが込められたこの言葉は、あなた自身の心にも響くはず。
困難な現実に立ち向かい、小さな絆を力に変えていく子どもたちと大人の物語を、ぜひ劇場で見届けて欲しい。
2025年11月7日(金)より
新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、
シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
※シアター・イメージフォーラムは11月8日(土)より公開


▼キャスト
リアム・ディアス:ビン
エッセンス・フォックス:シルヴィー
※現在はエミール・フォックスに改名
アンナ・クレア・ベイテル:ローラ
フェリックス・ジェダイ・イングラム・アイザック:ジョニー
アリーヤ・カナニ:ヒナ先生
エリー・ポサダス:エドナ
チェリッシュ・ヴァイオレット・ブラッド:マリー
コナー・ケイシー:コリー
▼スタッフ
原作・脚本:キャサリン・エルナンデス
監督:リッチ・ウィリアムソン&シャシャ・ナカイ
プロデューサー:シャシャ・ナカイ
撮影:リッチ・ウィリアムソン
音響録音:エリック・テイラー&マイルス・ロバーツ
美術:ニコル・シモンズ
衣装:クリス・ジャイ・センテノ
ヘアメイク:ナタリア・アンドレア・ポゾ
音楽:ロブ・ティーハン
編集:リッチ・ウィリアムソン
原題:Scarborough|カナダ|2021年|138分|カラー|英語|スコープ15.1ch|G
日本語字幕:島崎あかり|後援:カナダ大使館|配給・宣伝:カルチュアルライフ
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