私の好きな映画

かこ
2025/08/19 13:24

『近畿地方のある場所について』解説、レビュー、感想

邦画がいま、大きな盛り上がりを見せている。映画『国宝』が興行収入100億円を突破し、実写日本映画としては22年ぶりの快挙を達成した。そして、その熱気に呼応するように、ジャパニーズホラーにも再びブームの兆しが訪れている。かつて『リング』シリーズが社会現象を巻き起こしたように、今年も人形ミステリー『ドールハウス』が好評、そして無限ループゲームを実写化した『8番出口』の公開が控えている。
 

そんな中いま最も話題を集めているのが、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、様々な都市伝説を題材にした、
映画『近畿地方のある場所について』だ。
 

原作は、小説投稿サイト「カクヨム」に背筋氏が投稿して話題を呼んだホラー小説。のちに書籍化され、ついにスクリーンへと姿を変えた。掲示板の書き込みなど、文字で表現されてきた恐怖を、どのように映像へと転換したのか、注目が集まっている。
 

(c)2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
オカルトライターの瀬間千紘(菅野美穂)
オカルト雑誌編集者の小沢悠生(赤楚衛二)
(c)2025「近畿地方のある場所について」製作委員会


【あらすじ】
「行方不明の友達を探しています。」から始まる衝撃展開の連続!これは、あなたを“ある場所”へと誘う、禁忌(近畿)の物語。
行方不明になったオカルト雑誌の編集者。
彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪、中学生の集団ヒステリー、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件と怪現象。彼はなぜ消息を絶ったのか?いまどこにいるのか?同僚の編集部員は、女性記者ともに彼の行方を探すうちに、恐るべき事実に気がついた。すべての謎は「近畿地方のある場所」へとつながっていたのだった…。
『近畿地方のある場所について』公式より
 


本作は、主人公の千紘と小沢が目にするPOV映像によって物語が進行する。観客は彼女たちと同じ立場で映像を見せられるため、知らず知らずのうちに調査の当事者になっていく感覚がある。
VTRには30年前の映像も含まれており、当時のニュース番組のような雰囲気やノイズ、テロップに至るまで細部が作り込まれている。そのこだわりは徹底していて、特にノイズなどは、映画館そのものに異変が起きたのかと錯覚するほどリアルだ。
映像を一本ずつ確認する展開はテンポがよく、飽きることがない。そして断片が少しずつ繋がっていくことで、観客自身も謎解きに巻き込まれていく。原作者の背筋氏が年表を作ったように、時系列を自分なりに整理したくなるような知的刺激が仕掛けられている点もユニークだ。

 

映像の題材も多彩で、林間学校での集団ヒステリー、チェーンメール、とある団地での鬼ごっこ、恐怖映像を見て失踪する大学生、さらにはニコニコ生配信など、それぞれの時代感を反映している。
おそらく撮影方法を年代ごとに変えているのだろう、リアリティがある。現実的な話しをすると、かなりの手間と予算をかけていることが伺える。

文章だと説明しにくい部分もあるが纏めると、掲示板の匿名の書き込みは、POV映像や証言映像へ、雑誌記事などの資料は番組風の断片映像へと変換されている。原作のテキストの断片性が、映像の断片性としてスクリーンに落とし込まれた点こそ、本作の最大の見どころだ。

(c)2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
(c)2025「近畿地方のある場所について」製作委員会


 

そして事件の真相を追うのは、瀬野千紘(菅野美穂)と小沢悠生(赤楚衛二)。二人の共演は、日本テレビ系連続ドラマ「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(2021)以来で、ドラマファンには嬉しい顔合わせだ。
ただ『近畿地方の』はフェイクドキュメンタリーのため、主演があまりに有名すぎる点は一つのハードルでもある。しかしその壁を見事に超えてきた。
Jホラーの女王と称され『富江』(1999)を思い出す菅野美穂、本作ではPOVでは自然体に、終盤には狂気じみた熱演と、感情表現の幅で観客を圧倒する。ある喪失感から千紘の本性が現れるのだが、背筋氏の伝えたかった事と白石監督らしい演出が響き合い、『コワスギ』シリーズを彷彿させる畳み掛けるような迫力を生み出していた。このシーンを観れば、千紘役は菅野美穂のハマり役だと思える。
 

一方、小沢を演じる赤楚衛二は、ヒーロー戦隊物からドラマ、毎年映画に出演するなど、頻繁に彼を目にする機会が多い。
そして今回は、千紘のバディで、柔らかい雰囲気がありながら意志の強さを秘めた青年を演じている。重複するが『コワスギ』の行動力抜群の工藤Pが、怪異と対立し激しいバトルを繰り広げたように、それに当たるのが千紘のはずだが本作ではどうなのか。見方を変えれば、対立していたのは小沢だったのではないだろうか、しかも純粋に。
主演の魅力とともに、演じるキャラクターの関係を考察できるのも、本作の劇映画パートの魅力である。
 

失踪した佐山に代わって事件を追ううちに、意図せぬ場所へ辿り着く……。近畿地方であることは確かだが、それは背筋氏の言うコズミックホラーのような壮大な領域なのか、それとも更に壮大な千紘の愛そのものなのか。鑑賞後、本作全体を「千紘の物語」として再鑑賞したくなる人もいるだろう。
 

(c)2025「近畿地方のある場所について」製作委員会


 

映像化が難しいと言われてきた本作だが、映画化されるまでの伏線は、背筋氏の学生時代にまで遡る。白石監督の『ノロイ』(2005)を鑑賞して強い刺激を受け執筆したのが『近畿地方の』だった。白石監督も完成作を読み「どこか『ノロイ』っぽい」と感じたそうで、まさに長い時を経て伏線が回収されたのだ。
普通なら原作ファンに配慮して置きにいくとろこを、白石監督は原作を踏まえつつ自らのカラーを前面に出し、背筋氏も「もっと白石監督らしさを出してほしい」と提案したシーンもあったという。そこにはお互いの作品へのリスペクトと愛も感じられる。
 

菅野美穂、赤楚衛二のファンはもちろん、もう一度怖さを味わいたい人、千紘の物語として観たい人、それぞれが異なる視点で楽しめるはずだ。原作ファンは白石作品へ、白石監督ファンは原作へと手を伸ばし、そして再び劇場へ戻ってくるのではないだろうか。さらに韓国や台湾での上映も決定しており、ヒットの広がりはこれからますます加速しそうだ。

 





 

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1 件の返信 (新着順)
Black Cherry
2025/08/19 18:41

ホラー💦やはり抵抗がありますが、邦画が活気づいているのはうれしいですね☺️
この作品、息子(中坊なんですが)の周辺でも話題になっていて、若い世代でもホラーやミステリーの人気に火が付いてるのだなぁと感じています
菅野美穂の狂気、は気になりますね!


かこ
2025/08/19 22:46

息子さんの周辺でも話題なんですね😄『近畿地方の』は、ホラーが好きか嫌いかではなく、白石監督作品に慣れていれば、かなり面白い映画だと思います😄
と言っても怖いシーンもあります😱
ほんと、国宝を筆頭に邦画がきてますね✨私もたくさん邦画を観よう🥰
あ、菅野美穂さん!素晴らしい演技でした👍