私の好きな映画

カッツ
2025/12/09 16:35

しとやかな獣

『しとやかな獣』は1962年、新藤兼人脚本による作品で、山岡久乃と伊藤雄之助が主演を務める。物語は、狭い団地の一室に据えられたカメラの前で展開され、まるで舞台劇のような緊張感あふれる密室劇である。私も子供の頃、友達は同じような団地に住んでいたことを思い出し、若いころの社宅の2DKの記憶が重なった。
元海軍中佐・前田時造(伊藤雄之助)は、戦後のどん底の生活を経験した過去を持ち、二度とその境遇に戻りたくないという強い執念から、子どもたちを操り、他人の金を巻き上げては狭い部屋で贅沢な暮らしを続けている。その空間に漂う緊張感と登場人物たちの複雑な心理の交錯は、人間模様が濃密に描かれる密室劇として強い印象を残す。若尾文子は登場時間こそ短いが、その存在感は鮮烈で、物語に深い余韻を与えている。
50年以上前、テレビの土曜映画劇場で初めて観たときの衝撃は今も忘れられない。最近DVDで改めて鑑賞したが、改めてその素晴らしさを実感した。時代を越えて心に残る、静かで力強い日本映画の傑作である。
 

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