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2025/07/12 01:20

愛されなくても許されたい

最初から最後まで、ずっとクライマックス!!みどころ満載な109分。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

原作 : 武田 綾乃

監督・脚本 : 井樫 彩


3人それぞれが抱える毒親の物語


週6バイトの他に単発のバイトも掛け持ちし、大学にも通い家事もこなす宮田陽彩(南沙良)だが、母親(河井青葉)は娘よりも女である事を優先させていた。おまけに娘の稼ぎもあてにした浪費家だ。

バイト先にはいつもイヤホンして人と壁を作る江永雅(馬場ふみか)。見た目も髪を青く染めていつも男と居る様子。

大学に友達が居ない陽彩だが、同じようにボッチ女子の木村水宝石(本田望結)にノートを写させて欲しいと話し掛ける。今どきの子ってこんなトゲトゲしく会話する?って程で恐ろしくなったが、この時耳にした噂は『江永は殺人犯の娘』というものだった。


毒親:陽彩の場合


毒親の中でも同性である母と娘。父親の存在が無い、もしくは機能していない場合に多く現れる。3人の共通点はそこだ。『搾取された人生』

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

個人的には、主人公陽彩の母娘関係から目が離せなかった。この母親の言う『愛してるよ、陽彩』の言葉の後には『陽彩のお金や家事、それが無くなったら私が困るじゃん』ってのが丸見え。陽彩は賢いので、それに薄々気付いてる。見て見ぬフリをしているだけだ。だから精神安定剤として、芳香剤の匂いに救いを求めていた。それでもやはり子供って、どこかで親の愛を信じたいもの。だから本当の父親から打ち明けられた養育費の話で現実を目の当たりにした時、彼女の中で何かが弾けた。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

親に金銭面で搾取される娘という事では、2024年の作品『あんのこと』を思い出す。こちらも毒親である母親役を、河井青葉さんが好演している。


毒親:江永の場合


江永の親は、確かに人を殺していた。飲酒運転による交通事故で相手を死なせたのだ。そもそも酒を飲んで飲まれる奴ってのは、精神的に弱い場合が多い。自信がなかったり、認めてもらえてなかったり、基本的に何かと向き合い乗り越えられず、逃げたい人だ。それだけなら彼女は耐えられたはずだ。彼女は性的虐待とそれを知った母親にある意味捨てられたのだ。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

この母親は、1番傷付いた娘よりもその現実を受け入れられなかった自分が1番可愛いのだ。

このエピソードは江永の語りだけで進む。脚本が上手いので、両親との回想シーンは無いが印象に残る。


毒親:木村の場合


作品の中心は、この陽彩と江永が出逢った事で起きるケミストリーなのだが、とても興味深いスパイスとなるキャラクターが木村だ。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

この木村の名前「水宝石(アクア)」だが、キラキラネームからして母親が子供の事より自分の事しか考えられないタイプとわかる。心配して過保護といえば聞こえが良いが、母親は娘の事を自分の所有物として見ている。1日に何度も電話してくるのは、束縛そのもの。彼女がそんな母親から逃げたくて辿り着いたのが、カルト宗教。そこでは自分を1人の自立した人間と初めて認めたもらえたからだろう。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

江永というキャラクターが、最初あまり好きになれなかったのだが、陽彩と行動を共にしてから魅力的になっていく。ある意味シスターフッドの様相を呈していくのだが、新興宗教の教祖を相手に持論を展開する辺りからは、謎の安定感と頭のキレを感じさせた。特にパチンコの確変演出や名乗りを刑務所みたいと言っちゃうのは、私のツボを刺激するワードセンスで、江永をどんどんと好きにさせた。


【愛されたら子供は全てを許さなきゃならない?】

【誰かに愛されなくても幸せに生きる事を許されたい】

この作品は、金言が沢山出てくる。同じような環境・状況で生きている、または生きてきた人が聞くと、自分を認めて肯定してくれるような台詞があるのだ。それは決して優しい言葉ではないけれど、それでいて絶対に傷つける事のない言葉たちだ。


【不幸を比較するな】

ここでは『不幸中毒』と表現されていたが、不幸自慢をしてしまう事がある。私の方が不幸な経験が多い、世界の不幸を背負ってるみたいな顔をしてしまう時だ。そんな必要は無いし、これ以上そんな経験が増えて欲しくない。

Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

本来ならば、矯正が必要なのは母親側であり更にはその母親を創り出したその親に問題があるのだと思う。


愛してるという言葉の呪い、呪縛


Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会

これらの状況にある子供というのは、早めに親が自分を愛しているという夢から醒めて、自立する事が幸せへの近道だ。そして、陽彩がそうしたように離れて暮らすべきだろう。その時にはやはり、江永みたいに静かに寄り添ってくれる理解者がいたら、いいなと思う。

 

2025年7月4日 新宿ピカデリーほか全国ロードショーです!!

是非、劇場で。超絶オススメです。

 

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