『ドライブ・イン・マンハッタン』感想・レビュー
配信がスタートした『ドライブ・イン・マンハッタン』。
一見、ただの会話劇のように見えるが、思わず心の奥を掴まれる。
夜のタクシー車内で、人はどこまで本音をさらけ出せるのだろうか。
見逃すには、あまりにも惜しい作品だ。

▼あらすじ
ジョン・F・ケネディ空港からマンハッタンへと向かう真夜中のタクシー。ハンドルを握るのは、幸せも失敗も経験したベテラン運転手。乗客は愛に悩む女性プログラマー。和やかに他愛ない会話をしていた2人だったが、2度と会うことのない関係だからこそ、思いがけず秘密と本音がこぼれだす。やがて女性は誰にも打ち明けられなかった秘密を告白し始めるが…。
(引用元:allcinema)
〜 会話が導く、人生の再生物語 〜
真夜中のニューヨーク。
ジョン・F・ケネディ空港から、マンハッタンへ向かうタクシーの中で始まる物語、『ドライブ・イン・マンハッタン』。
監督・脚本はクリスティ・ホール、キャストのダコタ・ジョンソンとショーン・ペンによる会話劇だ。
愛に悩み、愛に後悔する二人を乗せたタクシーは、夜の街を進みながら心の中を鮮明に映し出す。
運転手と乗客、二度と会わないであろう遠い存在だからこそ、話せることがある。
本作は、一時的な親密さが持つ奇跡のような力を描き出している。

本作で長編監督デビューを果たしたクリスティ・ホールは、脚本家出身。やはり言葉の使い方が上手い。会話の間(ま)やトーンの変化が計算し尽くされており、まるで言葉の建築物だ。
そして、サスペンスのような緊張感も感じさせ、画面に釘付けにする。
監督はこの会話劇を通して、言葉が持つ力を証明し、誰かを導く深いテーマを追求しているのだ。
乗客役のダコタ・ジョンソンは、本作の主に感情的な場面を演じる。
ある人物とのチャットに戸惑う表情や、運転手に話すときの表情には、女性と子どもが同居しているような危うさがある。目線、微笑み、困惑、その全てが、彼女が抱える葛藤を物語る。
運転手の客観的な視点で自分の現在地を知り、あふれた涙にはカタルシスを感じる。
そこには、演技とは思えないリアリティがある。
そして、運転手役のショーン・ペンは、全てを悟った貫禄がある。
今回の役は決して紳士とは言い難いが、余分な言葉を省き、ストレートに真実を語る。その様子は、『ミスティック・リバー』で見せた激昂型の父親像とは正反対、落ち着いた雰囲気があり、まさに当たり役といえる。
酸いも甘いも経験したからこその鋭い洞察力と、ついつい話してしまう聞き上手な人柄が、ダコタ演じる乗客に自分自身と向き合うのを容赦なく促すのだ。


やがてタクシーは目的地に到着し、ふたりは握手を交わす。
そこには運転手と乗客ではなく、孤独を共有しあった同志のような関係があった。
この感動的な余韻をさらに盛り上げるのが、エンドロールで流れる音楽だ。
もし歌詞がついていれば、俳優の言葉の効果は半減していただろう。音楽だけが流れることで、余韻と考える余白が得られる。
さらに、この余韻のなかで、邦題『ドライブ・イン・マンハッタン』の秀逸さがわかる。
タクシに乗車することは珍しいことではなく、まさにドライブそのもの。
映画の舞台がマンハッタンというだけで、車内の出来事は、誰もが抱えるパーソナルで普遍的な悩みに繋がっているのだ。
そして、このオシャレな邦題が物語に都会的な雰囲気を感じさせる。
本作は、大人の物語として余波が心地よく残る一作だ。
人生は必ずしも上手くいくわけではない。誰もが何かを抱えながら日々を過ごしている。
そのため、どこか不器用な二人に温かさと共感を覚えるのだ。
観終わったあと、ふと「いい映画だった」と心でつぶやいてしまう。そんな一夜の物語だ。


キャスト:
ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペン
監督:クリスティ・ホール
製作:ダコタ・ジョンソン、ロー・ドネリー、エマ・ティリンジャー・コスコフ、クリスティ・ホール、パリス・カシドコスタス=ラトシス|製作総指揮:ジャン=リュック・デ・ファンティ、コスタス・ツカラス、マックス・ワーク、クリストファー・ドネリー|脚本:クリスティ・ホール|撮影:フェドン・パパマイケル|美術:クリスティ・ズイー|衣装:ミレン・ゴードン=クロージャー|編集:リサ・ゼノ・チャージン|音楽:ディコン・ハインクリフェ
英題: Daddio|製作年: 2023年|製作国:アメリカ|配給: 東京テアトル|劇場公開日:2025年2月14日|上映時間:100分|映倫区分:G
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