デジタル配信映画『コンパニオン』感想・レビュー
名作『きみに読む物語』のスタジオが、異才クリエイターたちと組んで放つ衝撃作。
常識を覆す予測不能の『コンパニオン』。
日本ではデジタル配信限定ながら、映画ファンの間で静かな熱狂を呼んでいる。

【あらすじ】
豪華な別荘で起きた億万長者の死をきっかけに、アイリスとその友人たちは想像を超える衝撃的な事件に巻き込まれる。
人里離れた山小屋で静かな週末を過ごすはずだった数人の男女。だが、その中のひとりが“人間”ではなかったと明かされた瞬間、空気は一変する。彼女は人間のために作られた従順なアンドロイドだったのだ。しかし、ある過去の記憶と感情に支配され、彼女の“プログラム”は暴走を始める。 『コンパニオン』公式より引用
本作は、人間に従順な女性ロボット・アイリスと、持ち主の男性ジョシュを中心に展開するサイコスリラーだ。ただのAI暴走映画ではなく、「感情」「支配」「自己肯定感」という非常に人間的な問いが、じわじわと浮かび上がってくる。
物語は、人里離れた豪華な別荘で週末を過ごす数人の男女から始まる。最初は穏やかに見える空気だが、アイリスがある事件を起こしてから、場の緊張感は一変する。
印象に残ったのは、完璧すぎる天気予報や、特定の合図でアイリスが沈黙する場面。初見ではスルーしてしまいそうな小さな違和感が、後半になって「あれも伏線だったのか」とつながっていく。そういう回収の面白さが、この作品の緻密さを物語っている。
けれど本作の核心は、アイリスとジョシュの関係性にある。
ジョシュは自分が幸せではないと感じており、狭いアパートに住み、恋人はロボット、自分のことをダメな人間だと諦めている。
自己肯定感が低く、自分も幸せになっていいはずだと思うが、その根拠はどこにもない。
ただ自分を肯定したいがために、思い通りに動く存在にすがりつく。
やがてその思い込みは、ロボットが事件を起こすことも仕方ない、と罪の正当化にまで至ってしまう。
自分より下の存在を持つことで、どうにかバランスを取ろうとする、その姿は醜くも、決して他人事とは思えない。
一方、ロボット・アイリスもまた、人間の思惑通りに生きるよう設計されながら、それで本当にいいのか、と心の奥で揺れ始めているように見える。命令通りに行動することと、自分の意思とのあいだで引き裂かれるような姿には、どこか切実な人間味すら感じた。
そしてなにより興味深いのは、
「嘘をつく人間」と「嘘をつけないアンドロイド」という対比だ。
人間は感情が複雑で、矛盾していて、時に自分をも欺く。一方でアンドロイドは構造的に嘘がつけないぶん、言葉も行動もすべてがむき出しだ。その純粋さが、かえって怖くもあり、また美しくもある。
作中には、人間とロボットの純粋な恋愛を描いた同性カップルも登場する。
彼らは、ジョシュとアイリスの関係とは対照的で、その対比がAIに理想を託すことの意味をよりくっきりと浮かび上がらせている。
わかりきった安定した関係を求めることは、安心にも繋がなるが、同時に違和感のない地獄でもあるのかもしれない。
何もかも予定調和で、刺激も衝突もない世界は本当に幸せなのだろうか? 鑑賞後そんな問いが、ずっと頭の中に残っている。
『コンパニオン』は、人間の感情の複雑さと、AIのシンプルな構造を巧みに交錯させながら、理想という名の孤独と欺瞞を描く。観終わってもなお心に残る、静かで鋭い寓話だ。



原題:Companion
監督:ドリュー・ハンコック
主演:ソフィー・サッチャー
製作年:2025年|製作国:アメリカ|配給:米国・ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/日本・ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント|上映時間:97分|映倫区分:PG12
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