「雪風 YUKIKAZE」は超野心作である。なぜか?
泣きまくった映画「雪風 YUKIKAZE」
これは語りがいのある映画だ! なぜか!?
予告や宣伝ではわからない、この映画の大きな試みがあるからだ。
まずはネタバレのない範囲で足早に説明したい。
雪風は実在した駆逐艦で、いくつもの作戦に参加し、救助や支援、時に攻撃にも転じ、
日本の戦局が大きく変わるミッドウェー海戦からも帰還し、戦争中から幸運艦として有名だった。
でポイントとしては
「フィクション」である点であり、時局や戦況はリアルに再現されるが
艦長の名前および、いろんなものを変えてあるので
リアリティを求めるものではないのが特色である。
インタビューで「若い世代に見て欲しい」と言っているのもこの点が大切で、
フィクションとしてではあるが、こうした想いが実在したというメッセージがストレートに表現されている。
シリアスなリアリティにばかりこだわると、ここを逃してしまう。
私は細かい部分まで詳しくなかったので
最後にフィクションと言われるまで、ほとんど本当なのかと思っていた。
フィクションに興ざめする人には向いていない映画だが、
なぜフィクションだったか、というのが大切で、
大切な想いを救いとり、繋ぐのがこの映画の野心だからだ。
主に救助を使命とする雪風にフォーカスすることでメッセージを残そうとした。
私は戦争をヒントにして今を生きる考え方を探していたので、そこがピシャリとハマって泣いた。
竹野内豊さんと玉木宏さん、実にいい顔の皺で演技も真に迫る。
ここからは少しネタバレになる。
乗組員の日常がとても重要なシーンとして進むのだけれど、
補給で還った時に、映画館(活動写真館)がやってなかったなー、
と会話になり、どんな映画が好きだ?
「俺は丹下左膳(たんげさぜん:隻眼、隻腕の剣豪)!」
と楽しくしゃべる中、
「俺は駅馬車!」
「ジョン・ウェインだな!」
とアメリカの映画の名前を無邪気に上げる。駅馬車とは1939年の映画で
名前くらいは知っている。
当然、アメリカの映画の名を口にするのはご法度なのだけれど、気にしないのも素敵なシーン。
「俺たち、あんなすごい映画作ってる国と戦ってるんだよな」
と返した言葉に、一同静まり返る・・・。
この静まった瞬間の映画館の中の雰囲気に包まれて泣いた。
そう、
日本は、アメリカが好きなのだ。当時の軍人だって
アメリカが好きでリスペクトがあったのだ、ということをこうして文化を通じて表現している。
普通、国力の差で、大きすぎる敵に挑んでいることを嘆いたり、
敵の話をするのを叱られる部分を描くが、
こうしたピュアなアプローチができるのもフィクションの自由さが成せる。
竹野内豊さん演じる「「雪風」の艦長・寺澤一利(史実では寺内正道)。
この人物の愛読書が「武士道」(新渡戸稲造)であり、江田島海軍兵学校(今は「海上自衛隊第1術科学校)
の同期との写真を挟んでいる。
この設定があるおかげで、
武士道を語る上官の美しい精神が描かれる。
「相手は丸腰だ、恥ずかしいマネはするな!」と
アメリカ兵がボートに乗って救援を待つのを機銃で撃たずに、見逃す。
驚くのがこれに近い事実が史実にあって、アメリカ兵の記録に残っている、という。
(サマール島沖海戦では勇戦した敵駆逐艦ジョンストンが沈みゆく際に、敵艦ならびに生存していた漂流者に対して雪風の艦橋から寺内が敬礼して見送った記録がアメリカ側に残っている)
もう一つ、とてもメッセージ性の強いシーンが
艦内が手紙が来た時にめちゃくちゃ大喜びではしゃぐ場面。
そう、内地からの言葉や家族からの報告が本当に嬉しく貴重なのだ。
これを現代に置き換え、
希薄になった想いとSNSの言葉を鑑みれば、もう泣かずにいられなかった。
最初に1970年の大阪万博の場面が出てきて
「報告があります・・・」と回想になるところからも
今の令和の大阪万博と重ねたメッセージがあることは明白であり、
今の日本はどうですか?
とずっとメッセージを発している。
フィクションにしつつトンデモSF設定は入れない。
この試みに意義を見出すことができるならこの映画は大成功であり、
今後も日本映画に継承されていくのではないだろうか。
原爆が出てこない点も
あまりに悲痛な部分をあえて表現せず入り口としてどうしても
全ての人に、あるいは全ての国に、伝えたかったのかもしれない。
「一億、総玉砕の先駆けとなって欲しい」
という軍部暴走の指令のパワーワードも強く激しい。
ここからさらにネタバレになるので注意。
ラスト付近、サプライズキャストが出てくる。
え? これ誰だろう・・・・
え?・・・・・
有村架純さん?!! あーーー!!!やっぱり!!とエンドロールで発覚する。
私、情報を入れてなかったからサプライズと知らなかった。(映画のホームページも載ってないサプライズ)
ちょっとしか出なかったねー、というお客さんの
終わった後の会話からも、
けっこうみんな知っていたのだろう。
どの役かは、映画館で確認して欲しい(^▽^;)
そして、
艦長の最期、というか最期なのかわかりづらいシーン。
同期の仲間の元へ旅立ったのか、
急に机の上に倒れる艦長なのだけれど、
あまりに曖昧に描かれていて
仲間の元へ服毒して旅だったのか、
ただの疲労で倒れたのかわからない・・・。
わかんないんだけど、前後を考えると死んだように思える。
いや、武士道の死は、死を自ら求めることではない、と語っていたのもあったから
メッセージ的には「生きる」だよなぁ、
どっち?!
でも泣けてくるのだ。
これも曖昧に描くことで毒を抜いたんじゃないかなぁ、
世界中の若者に見て欲しかったんじゃないかな、と私は解釈した。
そしてあれは
生きている、死んでいる、と語り合って欲しかったんじゃないかな。
これがフィクションとエンタメで楽しませる、
とんでもない野心作であるという結論である。
こう思うと、二度泣ける。
戦禍を生きた先輩方、
私は元気です。
日本は少し元気を失っておりますが、
まだまだこれからです。
望郷の念というのに憧れますが、
それのない私は日本に想いを馳せたく思います。
ダメ沢直樹でした
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投稿を表示竹野内豊は過去にも、フォックスと呼ばれた男だったかに出て居られる。
礼儀正しい役が似合うナイスガイ、イケおじが主演となれば良い作品になるだろう。
さぞかしカッコ良く切なく、哀愁を帯びた上官ぶりだと思っていた。
今回のレビューで映画館へ行きたくなった、リスケしてみよう。