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趣味は洋画
2024/10/09 11:06

懐古 アメリカ映画の1964年

昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
 

「1960年」、「1961年」、「1962年」、「1963年」の名作紹介に続き、今回は「1964年」(昭和39年)の話題作を懐かしむ。

 

 

 

「マイ・フェア・レディ」 監督:ジョージ・キューカー

 

何と言っても、第37回アカデミー賞で作品賞受賞の本作が筆頭に位置する。

バーナード・ショーがギリシャ神話をもとに書いた戯曲「ピグマリオン」をもとにした、ブロードウェイのヒット・ミュージカルを映画化したもの。

 

言語学者のヒギンズ博士(レックス・ハリスン)は、ロンドンの劇場の前で花を売っていた貧しい娘イライザ(オードリー・ヘプバーン)のひどい訛りを、研究のために観察していた。友人と賭けをしたヒギンズは、6カ月のうちにイライザを社交界最高のレディに仕立てると約束する。その日から、ヒギンズは邸にイライザを住み込ませ、厳しいレッスンの日々を始めるのだが...。

 

元々ブロードウェイで大当たりをとった舞台劇とほぼ同じ設定になっており、アスコット競馬場や、大舞踏会での見事な色彩効果は映画ならではの名場面だ。

 

ヘプバーンのイライザに、前半ぎこちなさが目立つものの、彼女のキャリアの中では最高の演技をみせたといっても過言ではない。(舞台ではジュリー・アンドリュースが演じている)
ヒギンズ教授役は舞台からの続投でR・ハリスンが演じ、 ‘これぞイギリス紳士’ というべき完璧な演技と歌を披露し、見事アカデミー主演男優賞を受賞している。
‘ヘプバーンが最高の演技をみせた’...では、なぜオスカーにノミネートすらされなかったのか?
彼女の歌唱部分がマーニ・ニクソン(ハリウッドの歌手で、多くのミュージカルの歌の吹き替えを担当)の吹き替えだったためである。

 

踊りあかそう」「スペインの朝」「君が住む町」といった名曲の数々も抜群の相乗効果を生んでおり、まさに非の打ちどころがないミュージカル作品

 

 

 

 

「ふるえて眠れ」 監督:ロバート・アルドリッチ

 

稀有の名女優、ベティ・デイヴィスオリヴィア・デ・ハヴィランドの、狂気を超越したような凄まじい演技に圧倒される。
大傑作「何がジェーンに起ったか?」(62年)のロバート・アルドリッチ監督が、再びベティ・デイヴィスと組んで製作したサスペンス・スリラー。

 

シャーロット(ベティ・デイヴィス)は37年前に目撃した残忍極まりない殺人事件に強いショックを受け、世間から逃避して生きている。彼女の財産を狙っている医師(ジョセフ・コットン)と、彼の愛人でシャーロットの従妹のミリアム(オリヴィア・デ・ハヴィランド)は、シャーロットを精神異常に追いやってしまおうと、様々な手段で彼女を脅かすのだが...。

 

ベティ・デイヴィスは、出演時56歳。
大きな瞳と独特のハスキーボイスで、難役を迫真の演技でこなしている。
家の中では裸足、時には銃もぶっ放す。でも、両肩に長く垂らした三つ編みの髪型が可愛い。
彼女のキャッチ・フレーズである「半分は天使、半分は妖婦、そしてすべてが女性」...その魔性は本作でも十二分に発揮されている。

一方、満を持しての登場オリヴィア・デ・ハヴィランドは、見るからに貴婦人のミリアムに扮している。出演時48歳。
ストーリーが進むにつれ、ミリアムの柔和な表情が、少しずつ険しくなっていくのが恐ろしい。

彼女がベティ・デイヴィスの頬を何度も平手打ちするシーンは、まさに狂気を超越している!

 

ジョゼフ・F・バイロックのモノクロ映像が絶妙な不安感を煽り、原題が歌になっている ‘♪ さあお眠り かわいいシャーロット’  も不気味だ。

 

 

 

 

「未知への飛行」 監督:シドニー・ルメット

 

シドニー・ルメット渾身の骨太映画。
核兵器を搭載した米空軍戦略爆撃機の編隊が、フェイル・セーフ・ポイント(進行制限地点)に向けて巡回飛行中、 ‘モスクワを攻撃せよ’ との指令が入った。それが指令ミスだったことが分かり、空軍司令部は復帰命令を出す。しかし、既に事態は手遅れとなっていた...

ヘンリー・フォンダ扮する米国大統領は、命令ミスでモスクワを消滅させてしまった代償として、ニューヨークを犠牲にする。それも、自らの指示で...第三次世界大戦に勝利国は存在せず、ヒロイズムも勲章も無縁であることを、これほど痛烈に皮肉った映画はほかにない。
シドニー・ルメットは一貫して、現代社会の歪みの中で、人間の良心や正義裏切りや偽善正攻法で描き続けてきた監督である。本作でもそのスタンスが変わることはまったくない。

本作公開の2年前(1962年)、キューバ危機は米ソの全面衝突が世界の破滅につながる恐怖を見せつけた。そうした核時代における今日的な(...といっても60年代の作品だが)危機を描いた、64年「博士の異常な愛情」(スタンリー・キューブリック監督)と、64年「五月の七日間」(ジョン・フランケンハイマー監督)は、本作を語るうえで欠かせない。
前者は、米空軍の基地司令官が発狂して、ソ連へ核攻撃を命じたことから起きる騒動をブラック・ユーモアたっぷりに描いたもの。
後者は、ソ連との核軍縮条約に反対する米軍のタカ派グループがクーデターを実行しようとする1週間を描いたもので、ここでも核戦争の恐怖が色濃く投影されている。


1964年は、アメリカの政治機構および権力構造を扱った力作がそろっていたが、奇しくも日本では東京オリンピックが開催された年である。

 

 

 

 

「メリー・ポピンズ」 監督:ロバート・スティーブンソン

 

ウォルト・ディズニー製作のミュージカル・ファンタジーで、お手伝いさんとなった魔法使いと、子供たちの交流が、数々の名曲とともに描かれる。

 

1910年のロンドン。2人の子供のことは使用人に任せっきりの銀行家のパパ(デヴィッド・トムリンソン)と、ウーマン・パワー運動に夢中のママ(グリニス・ジョンズ)のところに、ある日、左手にパラソルを差し、右手にはカバンを下げたメリー・ポピンズ(ジュリー・アンドリュース)という若いお手伝いさんが、風にのって空から舞い降りてきた。
彼女がパチッと指を鳴らして、おまじないの歌を歌うと、散らかっていた部屋もあっという間に片付いてしまう。子供たちは、たちまちメリーに夢中になっていった...

 

この映画の成功は、1964年という時代が導いたともいえる。
人々の感情にかけひきや表裏があまり見られず、映画を作る側も観る側も、心底素直に「映画」に向き合っていたのではないだろうか。
短い期間ではあったが、1963年~1966年頃は、日本(日本人)が特別に「洋画」に対して愛着を持ち始めた時期ではなかったか...

そこにジュリー・アンドリュースという、生粋の芸人育ちファンキーな魅力を持つミュージカル・スターの登場である。
持ち前の親しみやすさに加え、声と発音の美しさは当代一といわれ、本作でのアカデミー主演女優賞受賞が、翌65年「サウンド・オブ・ミュージック」での修道女マリアの名演に繋がったことはいうまでもない。

劇中挿入歌の「チム・チム・チェリー」を聞けば、この映画が永遠に甦ってくるだろう。

 

 

 

 

「博士の異常な愛情 / または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」 監督:スタンリー・キューブリック

 

本作は「英・米合作」であるが、本欄で取り上げたい1本。それにしても、何とも長い作品タイトルではある。

 

米ソ間の冷戦下の不安な時代を戯画化したブラック・コメディで、アメリカ空軍基地の司令官が精神に異常をきたし、ソ連爆撃を命令したことから起こる狂気の様を、シリアス且つ痛烈な風刺で描いた傑作。

 

ある日、米戦略空軍基地の司令官リッパー将軍(スターリング・ヘイドン)が突然発狂し、核兵器が搭載されたB-52爆撃機34機に対し、ソ連への核攻撃を命令した後、リッパーは基地に立て籠もった。英国空軍のマンドレイク大佐(ピーター・セラーズ)は副官としてリッパーを宥めるが、執務室から出られなくなる。状況を知った米政府は、大統領(ピーター・セラーズ/二役目)を中心とした政府高官と軍部首脳に加え、ソ連大使を交えて、事態解決に向けて激論を交わす。爆撃機は既に飛び立っており、編隊の呼戻しも不可能な状況になっていた。パニックに陥った作戦室では、ストレンジラブ博士(ピーター・セラーズ/三役目)が人類の生き残るチャンスについて不気味な演説を始める。


本作の洒脱な出来栄えについては、米空軍大佐役、米大統領役、米兵器開発局長官兼博士役の三役を演じ分けたピーター・セラーズの貢献が大きい。特にストレンジラブ博士のヘアスタイルや、義手の右手を左手で押さえつけようとする仕草など、とても大統領役とはかけ離れていて興味深い。

 

B-52爆撃機の機内の様子(映像)が詳しく描かれているうえ、同機の映像シーンでは、なぜか「第十七捕虜収容所」のテーマ曲が流れる。懐かしいメロディーだ。そうかと思うと、ブラックなラストシーンでは、 ‘いつか ある晴れた日に’  の甘いメロディが流れるのだ。
 

 

 

 

「何という行き方!」 監督:J・リー・トンプソン

 

名作・傑作が多い1964年のなか、シャーリー・マクレーンが輝いている1本を選出。

次々と豪華な衣装を身に纏い、72着に及ぶファッションを魅せて(見せて)くれるのだ。
黒い水着で登場するシーンでは、ダンスで鍛えたプロポーションにも圧倒される。

 

 

4月1日。内国税収入局に、2億1100万ドルの小切手を持って来て、寄付したいという女性がいた。大富豪のルイーザ(シャーリー・マクレーン)である。にわかに信じがたい係官は、エイプリルフールだからと勘違いしてまったく取り合わない。悲嘆にくれたルイーザは、自らの現金の処分に困った末、精神医カウンセラーのステファンソン(ロバート・カミングス)の元を訪れ、自らの過去を語り始める...
ルイーザは質素な結婚生活を理想とし、富や名声に全く執着がなかった。最初の夫は、金物店経営者のエドガー・ホッパー(ディック・ヴァン・ダイク)。ある日、ルイーザの母(マーガレット・デュモン)のお気に入りだった大金持ちのレナード(ディーン・マーチン)が夫婦を訪ねたが...

 


タイミングよくモノクロ・シーンが挿入されていて、シャーリー・マクレーンとディック・ヴァン・ダイクの動きは、まるでチャップリンの映画を観ているよう。

 

驚いたのは、監督がJ・リー・トンプソンであるということ。
ナバロンの要塞」、「恐怖の岬」、「隊長ブーリバ」、「マッケンナの黄金」等々、そして80年代にはチャールズ・ブロンソンと組んで数々のアクション映画をヒットさせた人物。

 

因みに邦題は「何という行き方!」が正当。「何という生き方!」ではない。

 

次回は「1965年」のアメリカ映画を振り返る。

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1 件の返信 (新着順)
飛べない魔女
2024/10/09 13:03

待っておりました!懐古シリーズ!
今回は1964年ですね。唯一見ていないのが、【未知への飛行】でした!
凄い面白そうですね。
近日中には見てみたいと思っています。
ご紹介有難うございましたm(__)m


趣味は洋画
2024/10/09 21:59

早速コメントをいただき有難うございます。

「未知への飛行」は実に恐ろしい映画でした。
どこがどんなふうに恐ろしいのか、是非とも魔女さんの目でお確かめいただきたいと思います。

シドニー・ルメット監督はヘンリー・フォンダに絶大な信頼をおいていたのだと思います。
ルメット監督のデビュー作である「十二人の怒れる男」で、ヘンリー・フォンダの存在感を十二分に認識していたのですから。

シドニー・ルメット40歳、ヘンリー・フォンダ59歳のときの作品です。

脚本がなんと、「荒野の七人」(60年)の脚本を手掛けたひとり、ウォルター・バーンスタインなんですよ。

飛べない魔女
2024/10/10 09:51

ますます鑑賞意欲が沸いてきました!