【ネタバレあり】どの男の声もあなたなの。『パリ、テキサス』
パリ五輪開催中!ということでヴィム・ヴェンダース監督の傑作と名高いロードムービー『パリ、テキサス』についてお話ししていきます!
【あらすじ】
一人の男がテキサスの砂漠で行き倒れる。
その男は4年前に妻子を捨てて失踪した「トラヴィス」という人物で、病院から連絡を受けた弟の「ウォルト」が迎えに行くことになる。
何も話さず、すぐにどこかへ逃げ出そうとするトラヴィスを連れ、長い道のりを経てウォルトはロサンゼルスにある自分の家に帰る。
そこには8歳になるトラヴィスの息子「ハンター」がおり、両親に置き去りにされた彼を、ウォルトとその妻「アン」が引き取って大切に育てていた。
4年ぶりに会うトラヴィスとハンターは、当初こそぎこちない関係ながらも次第に心を通わせ、やがて2人はトラヴィスの妻「ジェーン」を探す旅に出る。
【解説】
トラヴィス一家も弟夫婦もみんな愛に溢れているにも関わらず、誰かが離れなくてはならない。愛の難しさを考えさせられた映画です。
ラストでトラヴィスはジェーンとハンターの再会を見届けてどこかへと走り去って行きますが、コメンタリーでヴィム・ヴェンダース監督は「トラヴィスは自分に価値がないと考えて去った」と話していました。
「価値がない」というと一見プラスの要素がないことを示していそうですが、4年経っても若く美しい妻と歳の離れた自分を比べて、トラヴィスは自分がかつてと同じ過ちを繰り返さない自信がなかった、そして自分の存在がジェーンとハンターの関係に悪影響を与えると考えたのではないかと思います。
覗き部屋の一幕で今でもお互いに愛し合っていることが分かったにも関わらず、去ることを選択した(せざるを得なかった)トラヴィス。
これでいい、とばかりに暗い車内で微笑みますが、どれほど悲痛な決断であったか。
最後に特にお気に入りのシーンを2つ。
トラヴィスとハンターが道路を挟んで学校から一緒に帰るシーン。おどける2人がすごく微笑ましくて、それゆえに後のトラヴィスの決断をより重く感じます。
そして覗き部屋でジェーンが自分の話している相手がトラヴィスであることに気づいて涙を流すシーン。あまりに美しく自然に溢れる涙にいつの間にか自分も泣いていました。
家族の新たなスタートに幸あれ!