映画『オペレーション・ミンスミートーナチを欺いた死体ー』~世界の命運を変えたあり得ない奇策~
●概要
高級将校に仕立てた死体に偽造文書を持たせて地中海に放ち、ナチスドイツを率いるアドルフ・ヒトラーを欺いた前代未聞の作戦を映画化。
ナチスドイツ優勢の戦局を変えるためにイギリス諜報部(MI5)が実行した奇想天外な欺瞞作戦の全貌を描いた頭脳派スパイサスペンス。
映画『恋に落ちたシェイクスピア』、『コレリ大尉のマンドリン』、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のジョン・マッデンが監督を務め、映画『裏切りのサーカス』、『シングルマン』、『キングスマン』で知られる名優コリン・ファースが主演を務めた。

●Story
第二次世界大戦中の1943年。
ナチス打倒に燃えるイギリス軍はドイツ軍の防備で固められたイタリア・シチリア島を攻略するための計画を立てていた。そこでイギリス諜報部(MI5)所属のユーエン・モンタギュー少佐、チャールズ・チャムリー大尉、イアン・フレミング少佐はナチスを欺くための驚くべき作戦を提案する。
それは、高級将校に仕立てた死体に“イギリス軍のギリシア上陸計画”を記した偽造文書を持たせて地中海に放ち、ヒトラーを欺く作戦だ。
モンタギュー少佐は密かに入手した死体をウィリアム・マーティンという名の海兵隊少佐に仕立て上げ、恋人の写真を持たせたり送られたラブレターを持たりするなどあの手この手で高級将校の死体を実在の海兵隊少佐に仕立て上げていく。
ついに、“オペレーション・ミンスミート”と名付けられた作戦が実行に移されるが、この極秘作戦はヨーロッパ各国間の駆け引き、策略、裏切りへと発展していくのだった。
●映画評
第二次世界大戦後、長年にわたって秘匿とされてきた驚くべき欺瞞作戦の全貌を描いた頭脳派スパイ・サスペンスである。個人的には派手なアクションに美女との熱いロマンス、強烈な個性を持つ敵、訪れてみたい異国の地など、スパイ映画といえば「007シリーズ」を思い出してしまう。
しかし、この映画『オペレーション・ミンスミートーナチを欺いた死体ー』は良い意味で観る側の予想を裏切ってくれる。万年筆と明晰な頭脳を駆使してナチス優勢の戦局を打開するために奇想天外であり得ない欺瞞作戦を提案し、実行に移していく過程が描かれているからだ。この欺瞞作戦が実際に実行されたというのだから驚いてしまう。
スパイ映画好きとしてはイアン・フレミングが登場していることは見逃せない。なんとフレミングがこの欺瞞作戦「オペレーション・ミンスミート」の提案者であるというからさらに驚きだ。タイプライターを打って「スパイ小説を書いている」というセリフがあるが、なるほどフレミングはMI5で情報部員を務めており、誰もが知るスパイ小説にこの時の経験が活かされているとうなずける。
作戦が成功するかどうか言い知れぬ緊張感に全身が包まれるだけではなく、あり得ない作戦が発案され、死体を高級将校に仕立て上げ、偽造文書を持たせるなど作戦が現実味を帯びていく展開も良い。制服に身を包んだ頭脳明晰な男の姿に魅せられることに加え、作戦が成功するかどうかの緊張感、洗練された会話を味わえる最高の一本である。

●トリビア
ユーエン・モンタギュー少佐を演じたコリン・ファースは映画『英国王のスピーチ』でアカデミー主演男優賞を受賞した。
ジェイソン・アイザックス演じるジョン・ヘンリー・ゴドフリー提督はイアン・フレミング原作のスパイ小説「007シリーズ」に登場するジェームズ・ボンドの上司Mのモデルと言われている。ちなみに、イアン・フレミングはジョン・ヘンリー・ゴドフリーの私設秘書を務めていた。
1997年、イギリス政府はスペイン・ウエルバにあったマーティン少佐の墓石に「グリンドゥール・マイケル イギリス海兵隊少佐ウィリアム・マーティン少佐として軍務に服す」と刻んだ。
ウィリアム・マーティン少佐の正体についてはウェールズ人のアルコールに溺れた放浪者グリンドウ・マイケルであるという説がある他、イギリス軍の護衛空母ダッシャーの事故で亡くなった37歳の水兵ジョン・メルビルであるという説もある。
●映画『オペレーション・ミンスミートーナチを欺いた死体ー』本予告