DISCASレビュー

カッツ
2025/11/03 07:53

泥の河

1981年製作、小栗康平監督による『泥の河』は、田村高広、加賀まりこ主演で、昭和三十一年の大阪・安治川河口を舞台に、戦後の貧しさと人々の哀しみを静かに描いた作品である。
河っぷちの食堂に暮らす少年と、対岸に繋がれた廓舟に住む姉弟との出会いと別れを通して、社会の片隅で懸命に生きる人々の姿が浮かび上がる。
船を塒とし、売春で生計を立てる母親を加賀まりこが演じており、その佇まいには、戦後の影を背負った女性の複雑な感情が滲んでいた。
大阪が舞台ではあるが、泥のように濁った河の映像は名古屋の堀川で撮影されたと記憶している。その濁流は、登場人物たちの運命や社会の不条理を象徴しているようだった。
静かな語り口ながら、深い余韻を残すこの作品は、戦後日本の庶民の暮らしと心の奥底を丁寧にすくい取った一作である。

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