【ネタバレあり】『PERFECT DAYS』で描かれた現代人が失いつつある2つの感覚とは?
昨年2023年の12月22日(金)に公開となった『PERFECT DAYS』。
もうすでに観たよ!という方も多いのではないでしょうか?
ドイツの巨匠、ヴィム・ヴェンダースが監督を務め、
日本が誇る名優、役所広司を主演に迎え制作されたこの作品。
この作品では現代社会を生きる我々がいま、失いつつある感覚を描いていると思いました。
果たしてその失いつつある感覚とは何なのか?そしてどのシーンからそれが言えるのか。
2つの視点からまとめてみましたので、鑑賞済みの方はご一読いただけますと幸いです。
目次
1.現代人が失いつつあるもの
2.重なり合う影が示すもの
3.新しい朝
1.現代人が失いつつあるもの
トイレ清掃品の平山(役所広司)という男の生き方を通して、
本作では現代人が失いつつあるものが2つ描かれていました。
1つ目は【確かにそこに存在するものに対する手触り】です。
平山には毎日行うルーティンがありましたね。
朝は自宅で育てている植物に水をやり、家の前にある自販機で缶コーヒーを買って、
車の中でお気に入りのカセットテープを聴くという日々。
平山にはその1つ1つの動作に集中し、注意を向ける姿勢があったように思います。
そこにはスマホにばかり気を取られた現代人が失いつつある、
【確かにそこに存在するものへの手触り】がありました。
そしてこの手触りの感覚に、私は日々を豊かに過ごすヒントを貰いました。
そして2つ目が、【共生の感覚】です。
私達人間は地球に住んでいます。そして街に住んでいます。
この街を自分と他の生物と共に、一緒に生きているという感覚が
平山にはあったように思うのです。
トイレ清掃という仕事の中で出会う人達との微かな交わり。
人間だけではなく、この世界に存在している自然への眼差し。
こうした平山の共生の感覚は、経済的な成功が最も価値を持つようになった現代社会から
失われつつあるものではないでしょうか?
資本主義の台頭によって生じた環境破壊や階級格差は、
自分さえよければ他者は関係ないという考えが少なからず根底にあると思うんです。
話は少し脱線しますが、個人主義的な価値観が主流な西洋社会と対比させる形で
東洋に目を向ける欧米の映画監督が近年増えているの資本主義に対する
ある種の危機感なんだと思います。
※直近だと『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のジェームズ・キャメロンや
『ザ・クリエイター/創造者』のギャレス・エドワーズなど
2.重なり合う影が示すもの
現代人が失いつつあるものとして2つ目に紹介した【共生の感覚】について、
劇中で鋭い問いを投げかける印象的なやり取りがありました。
平山が姪っ子(中野有紗)と自転車で話している場面。
彼女の母親と平山は別々の世界に住んでいると話すくだり。
平山はこの主張に同意するんですね。確かに生きている世界は別々だと。
【共生の感覚】を持っている平山がこの主張に賛同するのはなぜでしょうか?
私には平山は世界と交わろうとしているように見えていました。。
この疑問に対するアンサーとして描かれていた場面がこの後あったんですね。
行きつけのスナックであるママの元パートナー、友山(三浦友和)と話すシーンです。
ここで平山と友山は、2人の影を重ね合うという遊びをします。
影が重なり合えば、その影は濃くなるのか?という実験をするんですね。
そこで平山は、濃くならないとおかしいでしょうと言います。
これは別々の世界に生きている人間同士が、少し交わることで
各々の人生に変化を与えることを肯定しているんだと思います。
だからこそ平山は、別々の世界に住んでいることに賛同しながらも
異なる世界同士の交わり、つまり【共生の感覚】を持っているんです。
街には大勢人間が住んでいます。
経済レベルや価値観は全然違います。
そうすると、住んでる世界自体は違うんですね。
でも同じ街に、一緒に暮らしています。
少しの間かもしれないけど、別々の世界に住んでいる人間同士が
交わる瞬間、言わば影が重なり合う瞬間はあります。
色んな世界が瞬間的に重なり合うことで、人生は少し変化していく。。
平山が過ごす手触りのあるルーティンと、異なる世界同士の交わり。
その積み重ねで各々の人生は形成されています。
そんな人生を賛美するように、ラストシーンではある曲がかかっていました。
3.新しい朝
ラストシーンではニーナ・シモンの『feeling good』がかかります。
歌詞はこうです。
--
It’s a new dawn,
it’s a new day,
it’s a new life for me,
And I’m feelin’ good.
--
心を穏やかにするルーティンと、
異なる世界と少し交わること。
この反復と差異が蓄積されて、
人生は形作られていくんだと言うように。
そしてまた、新しい朝がやってきます。
ラストの平山の表情には、山あり谷ありな人生に対する複雑な感情と
それでも朝がやってくることに対する歓びが表現されていました。
いかがでしたでしょうか。
本作について、2つの視点から読み解いてみました。
近年西洋的な価値観を批判的に見つめ、東洋的な価値観に美を見出している欧米圏出身の監督が
増えていますね。本作もそのうちの1作のように感じました。
個人主義的で経済至上主義的な価値観を批判的に見つめる中、
私達は何を大事にして生きていくべきなのか。
本作には平山の人生を通して、そのヒントがたくさん散りばめられていました。
目の前にある確かに存在するものへの手触りを噛み締めながら
日々の偶然を受け入れ、生きていきたいと思える1本でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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