DISCASレビュー

カッツ
2025/11/18 07:48

恋人たちの食卓

1995年公開の台湾映画『恋人たちの食卓』は、食と家族をテーマにした秀作であり、料理を通して家族の絆とそれぞれの人生を描いた温かなホームドラマである。監督はアン・リー。日本ではグルメやシェフを題材にした作品は多いが、“食べること”そのものを家族の中心に据えた映画は意外と少なく、本作はその点でも際立っている

物語の舞台は、台湾の五つ星ホテルで腕を振るう中国料理の名シェフである父親の家。毎週日曜日の晩餐には、父の手料理が円卓に並び、三人の娘たちが集まって食卓を囲むのが一家の習わしとなっている。この食卓が、家族の会話の場であり、人生の転機が語られる場でもある

三姉妹はそれぞれ異なる価値観と恋愛観を持ち、仕事や恋に悩みながらも、自分らしい生き方を模索していく。父親もまた、料理人としての誇りと、娘たちとの距離に葛藤しながら、静かに家族を見守っている。料理の数々は、物語の感情を視覚的に豊かに表現し、観る者の五感を刺激する

『恋人たちの食卓』は、食を通して語られる家族の物語であり、文化や世代を超えて共感できる普遍的なテーマを持つ作品である。観終えた後には、誰かと食卓を囲みたくなるような、そんな温もりが残る。

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