2023年に観た映画(39) 「北極百貨店のコンシェルジュさん」
「お仕事映画」って何でしょう?
ネットで検索してみると、「お仕事映画xx選」と題して様々な作品が紹介されていますが、選ばれている作品は「えっ?、それってお仕事映画の範疇?」と疑問を感じる作品ばかり。医者、弁護士、料理人、銀行員、、、何かの仕事についている主人公を描いたら、それがお仕事映画と言えるんでしょうか?
絶対失敗しない医者・・・否。何でも嗅ぎ分けるソムリエ・・・否。謎解き法廷劇・・・これも否。自分を陥れる上司に徹底的に歯向かう銀行員・・・うーん、ぎりセーフ?
お仕事映画を小説に倣い、
「その業界や仕事自体のディテールが描かれ、その中で主人公が仕事に取り組む姿を描き、プロ意識や職務を全うする大切さを教えてくれる作品」
と定義して、おススメの作品を挙げてみました。
「ハケンアニメ!」(2022年)
何も知らない無知な私は、何だこのタイトルはと。プロモーション含め観賞意欲をそそる要素が全く見当たらない本作がコケるのも当然だと思いつつ、唯一巷の評判の良さのみに期待して観に行きました。
原作は辻村深月。2015年本屋大賞第3位。「an・an」誌で連載。累計発行部数18万部(ってどの程度のヒット?)。全て映画を観終わって知りました。勿論原作未読。
「バクマン。」でも感じたのですが、漫画やアニメといった作品を生み出すクリエイター達が、読者アンケート一位とか視聴率競争の勝ち負けとか、そういった勝負事にばかり一喜一憂する姿を描くのって私的に精神衛生上よろしくない。営業がコンペに勝つのとはわけが違う。読者や観客はそんな事で作品の優劣などつかないことを判っているというのに。
と思いつつも、本作はお仕事小説を原作とした映画として実に良く出来ていました。
他局が覇権を握る時間枠に、対抗馬として投入する新作アニメの監督に突如抜擢された新人女性監督。かつて「アルプスの少女ハイジ」の放送時間に「宇宙戦艦ヤマト」が挑んだようなものでしょうか。しかも相手は伝説のアニメ監督という圧倒的に不利な状況の中、進退をかけた彼女の戦いが始まる・・・というお話。
ライバル関係にある2人の監督、両陣営の作品作りの過程と関係者の苦悩をテンポよく畳み掛けけてきて、心ならずも登場人物たちの頑張りを応援し、時にウルウルしてしまう。極々オーソドックスな展開であるにもかかわらず、このジャンルの作品としてのツボが見事に押さえられている。
吉岡里帆さん、「レンアイ漫画家」でファンになりました。しっかりコメディエンヌとしての才能と魅力を感じる女優さん。本作でも周囲に翻弄される新米監督、斎藤瞳を好演していて、観終わった後に清々しさを感じる成功要因は多分に彼女のおかげ。
実はアニメの世界では放送当時視聴率で惨敗しながらも再放送で挽回した作品が幾つもあり、興行的に成功しなくても良い作品が再評価される、作り手と受け手の幸せな関係が確立している。
そんな業界を舞台に視聴率争いを描いた本作が、佳作でありながらも興行的に失敗しているのは実に皮肉な話です。
日付:2022/6/9
タイトル:ハケンアニメ!
監督:吉野耕平
劇場名:シネプレックス平塚 screen1
パンフレット:あり(¥850)※通常版
評価:6点
「ようこそ映画音響の世界へ」(2020年)
アカデミー賞において音に関するノミネートは長らく2部門あって、
・録音賞(Best Sound Mixing) 1930年に創設(当時はSound Recording)
・音響編集賞(Best Sound Editing) 1963年に創設(同Sound Effects Editing)
前者が撮影現場での録音と、音源の組合せやバランス調整、後者が持ち込まれた音源の選定・加工や特殊効果音の創作に携わった人向けの賞らしい。これが2021年に音響賞(Academy Award for Sound Mixing)に統合され今に至ります。
本作品は、公開当時まだあったこの2つの賞にノミネートされるような音響の仕事に焦点を当てながら、映画表現における音の重要性と作品への貢献ぶりを詳らかにしてくれています。
映画創成期から現代に至るまでを時系列に、懐かしい作品と監督・俳優のインタビューを交えながら、音響スタッフのレジェンド、スターたちが次々と登場し、映画音響の進化の過程も明らかにしてくれる。監督やスター俳優が語る音の重要性とそこに関わるスタッフ達へのリスペクトに溢れる言葉の数々は、金言でもあり、アカデミー賞の授賞式でのプレゼンターの前口上のようでもあり、映画好きはテンション上がります。映画音響の世界を紹介する入門編としても秀逸なドキュメンタリー作品。
私が中学生の頃の映画館は、上映中にフィルムが燃えたり前の観客の頭が邪魔だったりするのが日常的で、煙草を吸いながら鑑賞している不届き者もいたりしました。シネコンを中心とする今の鑑賞環境はまさに隔世の感がありますが、5.1chがもはや当たり前の音響設備もまた、当時を考えると進歩著しい。
私が初めて音のエフェクトを如実に意識させられた作品はヒッチコック監督の「知りすぎていた男」でしたが(ヒッチコック作品は本作にも登場)、この名監督が今のテクノロジーの進化を目の当りにしたら、一体どう作品に生かしていたのだろうと思ってしまう。この作品を観た後は、オスカー授賞式でのこの賞への関心度合いが上がってしまいそうです。
日付:2020/11/13
タイトル:ようこそ映画音響の世界へ | MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND
監督:Midge Costin
劇場名:シネプレックス平塚 screen2
パンフレット:あり(¥700)
評価:8点
「あれ?面白そう♪」
TVの映画コーナーで紹介されていて、その動きや絵柄に惹かれて劇場に足を運びました。
擬人化された動物達しか訪れない、懐かしさ漂う百貨店(日本橋高島屋風)を舞台に、新米コンシェルジュの成長を描いたお仕事アニメ的作品。
この不思議な客層の百貨店の成り立ちについては、終盤サラッと触れる程度で良く判らない点も多いまま。こちらも原作を試し読みしてみたところ、出だしはほぼ原作通りの展開だった。
百貨店を訪れるお客の期待に応えようと奮闘し、時に空回りもする彼女の悪戦苦闘ぶりをユーモラスに描きながら、ほっこりとさせるエピソードを積み上げつつ、最後はホロっとさせてもくれる。
文科省選定作品に申請すれば間違いなく選ばれそう。私が小学校の教師なら、クラスの子全員を引き連れて観に行きます。上映時間70分も丁度良い。アニメ化する上でディテールにも拘ったのが良く判る。良い作品なんだけどなぁ、、、
漫画を動かすって、それ自体が一つのロマンでもあります。そしてこの点において今の日本アニメは実に巧み。「BLEACH」なんて、アニメ化された当初と比べると同じ作品とは思えないくらい進化している。先日山崎貴監督がBSのTV番組で、日本におけるアニメ制作の状況について「セルっぽい作品がこれだけ覇権を握れているのは日本独自の状況」であり、「やっぱり日本は浮世絵の国なんだ」と評していましたが、最大の理由は手書きの漫画を原作とする作品の隆盛にこそあり、それが最大の魅力でもあるからだと言えます。フルC.G.の世界では決して再現できない独自の世界がそこにある。
本作もそんな日本アニメらしさ一杯の作品。ただ、興行的に成功させる為の最後のピースが足りないような、そんな気掛かりは残りました。
№39
日付:2023/10/31
タイトル:北極百貨店のコンシェルジュさん
監督:板津匡覧
劇場名:109シネマズ湘南 シアター9
パンフレット:あり(¥1,000)
評価:5
<CONTENTS>
・ストーリー&イントロダクション
・原作者コメント
・スタッフ・インタビュー 板津匡覧監督
・キャラクター
・スタッフ・インタビュー 大島里美(脚本)
・スタッフ・インタビュー 森田千誉(キャラクターデザイン・作画監督)
・キャスト・インタビュー 中村悠一×大塚剛央×川井田夏美×飛田展男
・キャスト・インタビュー 藤原夏美×川井田夏美×藩めぐみ
・キャスト・インタビュー 福山潤
・スタッフ・インタビュー 広瀬いづみ(コンセプトカラーデザイン)
・スタッフ・インタビュー 田中宏侍(撮影監督)
・フロア・ガイド
・キャスト・インタビュー 諸星すみれ×川井田夏美×津田健次郎
・キャスト・インタビュー 寿美菜子×家中宏
・キャスト・インタビュー 入野自由×花澤香菜
・キャスト・インタビュー 村瀬歩×陶山恵実里
・キャスト・インタビュー 花乃まりあ×七海ひろき
・キャスト・インタビュー 氷上恭子
・キャスト・インタビュー 清水理沙
・北極百貨店の動物学 新宅広二(動物行動学者)
・コンシェルジュの“おもてなし”の精神 敷田正法(元高島屋コンシェルジュ)
・音楽 tofubeats
・主題歌 Myuk
・クレジット
と、やたらと声優さんへのインタビューが多い