【ネタバレ】これぞ『ゴジラ -1.0』の真の姿
『ゴジラ -1.0/C』(2024年)
白と黒、光と影。
そこにあったのは、まぎれもなく『ゴジラ -1.0』の真の姿でした。
2023年11月3日。
『ゴジラ七〇周年記念作品』という大看板を背負い、満を持して世に放たれた『ゴジラ -1.0』。
山崎監督が描いたのは、アイコニックな国民的“キャラクター”でも人類を別の脅威から守るヒーローでもなく、本能のままに街や人を蹂躙し敗戦の深手を負ったこの国を完膚なきまでに叩き潰す恐るべき巨大生物の姿でした。
それでいて、物語の中心は、特攻から逃げた挙げ句仲間も見殺しにしてしまったという自責の念で自分の命を肯定できなくなった一人の青年です。
そんな彼が心の傷の象徴であるこの巨大生物と再び対峙することで「まだ終わっていない戦争」にけじめをつけ、生きてもいいという自己承認と生きたいという意志を取り戻していく再生の物語です。
みんなが観たかった大迫力のゴジラ・スペクタクルと涙なしでは見れないドラマティックな物語を見事に両立させた『-1.0(マイナスワン)』は、まさに「ゴジラ七〇周年記念作品」を冠するにふさわしい傑作となりました。
そして、2024年1月12日。
『-C(マイナスカラー)』という名を冠して新たに公開された本作。
実は、第1作『ゴジラ』(1954年)の公開から数えて70周年を迎えるのは、昨年ではなく今年です。
真のアニバーサリー・イヤーだったからなのか『-C』を観て真っ先に思ったのは「こっちが完成版やん」でした。
そのくらい素晴らしかったです。
前置きが長くなりましたが、色を引き算したはずのこちらの方をなぜ「完成版」だと感じたのか、その点について語っていきます。
目次
1. 白と黒 −時代設定との融和
2. 光と影 −共感の増幅
3. おわりに
1. 白と黒 −時代設定との融和
まず何と言っても、白黒という演出が劇中の1940年代後半という時代設定との間で融和性が高かったことが挙げられます。
1940年代というと遡ること70年以上前の世界です。
今の私たちが当時の街や人々の営みを視覚的に捉えるには、必ず白黒の写真や資料映像を媒介しますので、白黒で切り取られた当時の世界は私たちにとってまぎれもなくリアルです。
つまり、白黒であることが、当時の世界を忠実に固定化するために非常に重要な要素になっているということです。
この意味において、白黒は1940年代当時の世界を描き出すのに最も適した色情報といえます。
実際、戦闘機、軍艦、焦土と化した町並み、そこに点在するおびただしい数の瓦礫など、戦争の痕跡や戦争が遺した深い爪痕は生々しさを増し、市場の活気や市井の様子など、過酷な時代を懸命に生きる人々の放つ並々ならぬエネルギーや活気までもが圧倒的な実在感を伴って目の前に迫ってきました。
カラー版では「よくできたセットだなあ」「これどうやって撮ったんだ」という感情が頭の中を占めていましたが、モノクロ版ではただただ戦後の町並みを見ている感覚しかありませんでした。
大げさかもしれませんが、白黒になったことで「時代考証と描写が丁寧な戦後映画」から「戦後のドキュメンタリー映像」に成ったとまで感じました。
マイナスカラーとして打ち出された本作ですが、私にとっては「色を失った」というよりも「本当の色を取り戻した」という表現の方がしっくり来ます。
映像のリアリティーが大幅に向上したことによる効果は他にもありました。
圧倒的にリアルな世界で圧倒的にアンリアルな怪物が跳梁跋扈するという現実と虚構が継ぎ目なく入り混じっていることの奇妙さと、それゆえに際立つゴジラの異物感です。
白んだ空を背にそびえ立つ巨大で禍々しい漆黒の体躯というコントラストの美しさにも目を見張りました。
ちなみに、画面の中心から四隅に向かうにつれて光量を落とす映像処理をしていて、映写機で上映した白黒映画かのような見え方まで再現していました。
「芸が細けぇ!」と山崎監督の職人芸に感心するばかりでした。
2. 光と影 −共感の増幅
色がついていると、画面からは思った以上に多くの情報が目に飛び込んできます。
画面の中心にキャラクターを捉えても、色がついているだけで、その場所の広さ、奥行き、明るさ、配置されている物・人といった物理的な情報だけでなく、温度、湿度、においなどの感覚的な情報なども見えてきます。
これらの情報は、全て、キャラクターの心情を描くのに抜群の効果を発揮します。
例えば、開けた場所で柔らかい光に包まれていれば「幸福」を演出できますし、狭くてじめじめした場所で暗闇に覆われていれば「絶望」を演出できます。
俳優の演技以外の情報でいくらでもキャラクターの心情描写を味付けできる、それこそがカラー映画の強みといえます。
これに対し、白黒にすると光と影のみが強調されることになります。
光と影以外の視覚情報が捨象されていくと、空間の広がりや空気感はぼかされていき、自ずと中心に据えたキャラクターの言動や表情に焦点が絞られていきます。
そして、光と影の強調により顔の陰影もよりくっきりするので、表情筋の僅かな動きなどミクロレベルでキャラクターの表情の変化を読み取れるようになります。
その結果、敷島(神木隆之介)が生き延びてしまった己の命に苦しむ姿や典子(浜辺美波)の敷島に対する「生きなきゃだめ」という慈愛心の強さをより高い熱量で受け取れたように思います。
むき出しの感情を全面に浴びるといったところでしょうか。
白黒になったことで、ゴジラという怪物に人生を翻弄された人々の一挙手一投足に心を揺さぶられ、彼らへの共感はどんどん増幅していきました。
カラー版でもストーリーのエモさはとてつもなかったですが、白黒で観たらそれがカンストしてしまいました。
3. おわりに
長々語りましたが、つまるところ言いたいのは「やばいからみんな観て!」だけです。笑
映像はよりリアルかつダイナミックに、物語はよりドラマティックに。
カラー版で度肝を抜かれてモノクロ版で感情の限界点を突破したこの作品は、死ぬまでに何度も観返すことになるなと確信できるほど私の心にぶっ刺さりました。
Blu-ray買うので、出すなら4K版でマイナスカラーも収録してください。お願いします。
ちなみに、2023年12月1日に海外で公開された『ゴジラ -1.0』は、全米で邦画実写映画の歴代興行収入ランキング1位を塗り替え(東宝HP)、イギリスやアイルランドでも同様の現象が起きています。
また、映画批評サイトRotten Tomatoesでは、なんと批評家、観客ともに驚異の98%の高評価を獲得。
勢いは止まらず、ついに第96回アカデミー賞(2024年3月11日開催)の視覚効果賞に邦画作品として史上初めてノミネーション候補リスト(Shortlist)に名を連ねました。(ノミネーションは2024年1月23日に発表予定です。)
自国IPの強さを改めて認識するとともにVFX技術の目覚ましい進化も感じられて、日本人としてとても誇らしいです。
日本映画の未来は明るい!
ではまた次の記事でお会いしましょう。
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投稿を表示素晴らしいコラムですね!ほんと的確にマイゴジの魅力を言い当てられてて、どうやったらこういうものをかけるのか、羨ましい限り!
でも本当に皆さんに、ヤバいから見て!ですねっ
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