異色の戦争ロードムービー《シビル・ウォー アメリカ最後の日》
🎦シビル・ウォー アメリカ最後の日🎦
(アメリカ / イギリス 109分)
監督:アレックス・ガーランド
出演:キルステン・ダンスト 、 ワグネル・モウラ、 ケイリー・スピーニー 、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン
最初から最後まで戦慄の戦闘シーンに、体が強張り、緊張の連続。面白かったと素直に言ってしまってもいいのだろうかと思わせる重厚な内容です。決してあり得ないことではないアメリカの内戦を、4人のジャーナリストの視点から描いています。ただのドンパチ映画ではありません。キャッチコピーにあるように、『それは、今日、起こるかもしれない』、まさに今起こるかもしれない世界を目の当たりにし、恐怖心でいっぱいになりました。
あらすじ(allchinemaより) 「エクス・マキナ」「MEN 同じ顔の男たち」のアレックス・ガーランド監督が、極端に分断が進み、ついには内戦へと発展した架空のアメリカを舞台に贈る戦慄の戦場アクション。大統領の単独インタビューを狙う女性ジャーナリストを主人公に、各地で壮絶な市街戦が繰り広げられる内戦の行方を、圧倒的な迫力と臨場感でリアリティ満点に描き出していく。主演は「スパイダーマン」「メランコリア」のキルステン・ダンスト。共演にワグネル・モウラ、ケイリー・スピーニー、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン。 権威主義的な大統領に反発し、連邦政府あから19の州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアは西部同盟を結び、政府軍との間で内戦が勃発、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていく。勢いを増す同盟軍は政府軍を追い込み、着実にワシントンD.C.へと迫っていた。そんな中、ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストたちは、14ヵ月のあいだ一度もメディアの取材に応じていない大統領の単独インタビューを敢行すべく、ホワイトハウスへ向けて戦場と化したアメリカの大地を突き進むのだったが…。 |
アメリカの大統領は何をしたのか?何をしなかったのか?
そこは全く描かれてはいませんし、何の説明もありません。ただ、今この国は分断され内戦が起こっているということだけいきなり観せられるのです。大統領の力は既に衰退しており、TV演説で国民に冷静になるよう呼び掛けるも、もはや何の効果もなく、市街戦があちこちで繰り広げられ、市民の命が奪われ悲惨な状況であるところから、物語は始まります。
ベテラン戦場カメラマン リー・スミス(キルステン・ダンスト )
14か月もの間、メディアの取材を拒否し続ける大統領にインタビューをするため、ニューヨークからワシントンDCを目指すことを提案するリー。それは大統領を守っている政府軍へ強行突破をしなければならず、命がけの危険な行為。死ぬかもしれない、でも、ジャーナリストとしての使命感にかられ行動を起こす彼女は、なんとかっこいいことか!
演じるキルステン・ダンストはスパイダーマンでM.Jを演じた頃の可愛らしさはもうありません。多くの修羅場を潜り抜けてきたのであろう女性戦場カメラマンという役どころに相応しい風貌になっていました。ほとんどノーメイクなのではと思える感じにかなりのリアリティーがありました。(この状況で化粧やシャワーなんて皆無ですから)
特ダネを狙うジャーナリスト ジョエル(ワグネル・モウラ)
リーと共に大統領へのインタビューを敢行し、特ダネを狙うジョエル。この状況下で精神的な不安定さも見られる彼は、リーの良き友であり、良き相棒。そこに恋愛関係は全く存在しないのもいいです。
演じるワグネル・モウラはブラジルの俳優であり、出身地を問われるシーンでは、いったいどこと答えるのか?とドキドキしましたが。。。
リーに憧れて戦場カメラマンになりたい23歳 ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー)
実はこの物語は、ジェシーの戦場カメラマンとしての成長の物語でもあるのです。23歳の割には幼く見えるジェシーですが、最初は悲惨な状況を目の当たりにして、動揺し震えていた彼女も、最後はジャーナリストとしての成長を見せるのです。リーは当初彼女を同行させることに反対していたのですが、ジェシーにかつての自分の姿を投影していき、彼女を受け入れるようになります。
演じるケイリー・スピーニーは実年齢は26歳。本作では10代にも見えるので、23歳と年齢を偽っているのかと思ったほどです(笑)『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』と主演映画が立て続けに公開されていて絶賛売り出し中のケイリーです。
リーとジョエルの師である老記者サミー
(スティーヴン・ヘンダーソン)
リーとジョエルがワシントンDCを目指すことに大反対するも、自分も同行することを決断。老体な上に巨体なので歩くことが不自由ですが、長年の経験と勘で二人にアドバイスをする良き師匠。時には彼らを叱咤し、時には激励します。
演じるスティーヴン・ヘンダーソンは現在75歳。数々の映画でお見掛けするベテラン俳優ですが、最近では『ボーはおそれている』での博士役が印象的でした。
4人のジャーナリストたちが見たアメリカの現実は?
道路が寸断されているので、ニューヨークからピッツバーグ、ウェストバージニア、バージニア州を経由してワシントンDCを目指します。およそ1500kmの旅です。高速道路で東京から鹿児島までが、1353.8kmですから、1500kmとは途方もない距離であることが判りますね。その長い道のりの間に4人が目にしたもの、体験した恐怖、混乱したアメリカという国の実情は、カメラのシャッターを切ることも躊躇わせる場面ばかり。誰が味方であり、誰が敵なのかももはや分からない現状を目の当たりにして、恐怖に震える夜もあります。
中でもジェシー・プレモンスが演じる謎の兵士の存在は、差別主義を増長させた結果の行く着く先を象徴していて、恐ろしかったです。ドキドキしました。恐怖で氷つきました。
ジェシー・プレモンスはまだ36歳だったのですね。売れっ子ですね。同時期に公開の『憐みの3章』にも出演していますよね。それにキルステンの夫でもあり、夫婦共演と相成りました。
本作を観て、世界中で起こっている内戦が、アメリカで起こらない保証はどこにもないな、と戦慄を覚えました。
人の命がどうしようもなく軽くなるのが戦争や内戦。自分の隣で死んでいく人を顧みることなど出来ないのが戦争や内戦。憎しみや差別意識が強まれば、いつでも起こり得る話です。
はたして、アメリカでこんなことが起こっているとき、日本はどんな顔をして見守っているのでしょうか?いや、見守っていられるのでしょうか?アメリカ軍基地が沢山あるのですから、無理でしょう。巻き込まれるでしょう。
この先、どうかこんなことが起こりませんように、と祈るばかりです。
そしてどんな状況にあっても、例えその人が何かしたにせよ、死体を囲んで笑顔で写真に写るような人にはなりたくない、そう心から思いました。