【オシャレだけじゃない!?】ウェスアンダーソンの作家性を考察!
映画監督には特徴的な作家性を持った方がたくさんいます。今回のコラムでは、そんな映画監督の過去作品を読み解き、新作の鑑賞が更に楽しくなるような内容をお届けできればと思います。
今回紹介するのは、9月に最新作の『アステロイド・シティ』(23年)が公開するウェス・アンダーソンの作家性です。彼が創り出す世界観・ストーリー・構図の3つの要素から、作家性を読み解いてみました。
【経歴】
・1969年テキサス州ヒューストンに生まれ、現在54歳
・2001年に発表した『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01年)ではアカデミー脚本賞にノミネート
・2014年に発表した『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)では第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞
【世界観】
まずウェスの特徴として挙げられるのは作りこまれた世界観でしょう。画面を見ただけで、「これはウェスの映画だ!」とすぐに気づいてしまうくらい、彼の映画は際立っています。一体なぜ彼の映画はこれほどまでに独創的なのでしょうか?
確かなのは彩色を使ったカラーリングや、細かい小道具まで徹底して制作されているから。作品ごとに決められたメインカラーを中心に、彼が作り上げる世界観はどこかおとぎ話のようで、現実世界から別世界へ誘ってくれます。
その作品を決めるメインカラーはポスターを見れば一目瞭然で、写真下部の『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)はピンク色をメインに世界観が構成されています。(以下文章でも各作品の場面写真を貼っていますので、どの作品が何をメインカラーに据えているか、探してみてください…!)
そして彼の映画で描かれる世界観は、1つの絵本のような印象を受けます。その世界観に没入するというより、俯瞰してその世界観を眺めているようなイメージです。例えば下記の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(22年)の1シーン
中心にそびえる建物の中には窓を開ける人がいたり、画面下部には街中を歩いている人の姿が同時並行で描かれていきます。このシーンは、定点カメラで撮られているので観る側は視点を自由にして、まるで絵本のようにウェスの世界観を楽しむことができます。
こうした画作りはフランスの巨匠ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(58年)のオマージュでもありウェスの作品をきっかけに過去の名作をチェックするのもいいかもしれません。
※『ライフ・アクアティック』(04年)の潜水艦内部を紹介するシーンも同じ画作りなのでぜひ。
【ストーリー】
独特の世界観はウェスの代名詞ですが、ここでストーリーの特徴も紹介できればと思います。彼が語る物語には、”家族の再生”という主題が度々描かれていきます。長編3作目の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01年)では父と3人の兄弟が失った絆を取り戻す物語ですし、『ダージリン急行』(07年)では父の死をきっかけに絶交していた3人の兄弟が再会する話です。
そしてアニメーション表現に移れば、『ファンタスティック Mr.FOX』(09年)で、父が自らの偉大な背中を見せようと奮闘する物語を描き、『犬ヶ島』(18年)では父の過ちを息子が正していきます。家族の再生という主題は同じですが、家族全般というよりは”父と子”という関係性に焦点を当てた2作品だったように思います。
そして近年の実写2作では失われゆく”場所や文化”に対する哀愁のようなものを感じます。かつて栄華を誇ったホテルの閑散とした場面から始まる『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)、ある雑誌媒体の始まりと終わりを描いた『フレンチ・ディスパッチ~』(22年)。
時代が移り変わる中で、衰退してきた”場所”や文化について、ウェスは少なくとも思い入れがあり、その移り変わりについて哀愁を交えて描いているように感じます。新作『アステロイド・シティ』(23)はある町の話だと思いますが、これも場所にまつわるタイトル。今回は一体何が描かれるのが、楽しみです。
※ちなみに彼の出身であるヒューストンはNASAがある宇宙都市。アステロイドは直訳すると「星のような」という意味で、最新作は彼の地元について描かれた内容なのかもしれません。
【構図】
最後に画の構図について、少し書いていければと思います。ウェスの作品の特徴としては、やはりシンメトリーな構図。左右対称にカチッと組まれた映像は、どこか秩序だった、創られた空間であることを思わせます。そしてカメラが動く時も、直線的な動きをすることが多いですね。縦横に直前的に動くカメラは、決してぶれたりせず幾何学的で美しいです。
下の写真は『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)の1シーン。真ん中に直線を入れてみると左右対称な構図になっていることが分かるかと思います。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか。ウェス・アンダーソンという映画作家の特徴を、世界観・ストーリー・構図の観点から読み解いてみました。これで分かったのは、彼が映し出す世界観はどこか創り上げられた人工物のような、そんなイメージを想起させるということだと思います。彼が撮る画には非現実的で美しい色彩を帯び、画面構成も幾何学的で秩序だっています。これは彼が映画を製作するうえで、自分が理想とする世界観を創造したいという欲求でしょうか?
まだ彼は54歳という年齢なので、これからも多くの作品を製作するでしょう。そこで描かれるテーマや題材の変遷を追いながら、1つ1つの作品を味わうのもまた映画鑑賞の醍醐味だと思います。
2023年9月には劇場公開作『アステロイド・シティ』(23年)とNetflixで配信される『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(23年)が控えています。今日紹介した過去作品を振り返りながら、彼の新作を楽しんではいかがでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
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