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2025/10/05 23:43

トルストイの名作「アンナ・カレニナ」を2本

作品タイトルを聞いた(見た)だけで、その内容に想いを馳せる人は少なくないでしょう。

文豪トルストイの代表作「アンナ・カレニナ」は何度も映画化されていますが、ここでは人気の高いグレタ・ガルボの1935年版と、ヴィヴィアン・リーの1948年版の2本を取り上げます。

 

「アンナ・カレニナ」(1935年・米国、モノクロ、94分)

                       監督:クラレンス・ブラウン

 

神秘の大女優グレタ・ガルボの美しさが際立つ作品です。政府高官の美しい人妻と、彼女を熱愛する青年将校の悲恋を描いた物語。皆様よくご存じのストーリーです。

1870年代のロシア。休暇でモスクワへやって来た若い将校ヴロンスキー(フレデリック・マーチ)は、友人スティーヴァ(レジナルド・オーウェン)の妹アンナ・カレニナ(グレタ・ガルボ)に偶然、駅で出会った。彼女は政府高官カレーニン(ベイジル・ラスボーン)の妻で、一人息子セルゲイ(フレディ・バーソロミュー)の母でもあった。アンナは、不仲のスティーヴァと妻ドリー(フィービー・フォスター)の仲裁をするためにやって来たのだが、ドリーの妹キティ(モーリン・オサリヴァン)と再会するのも楽しみだった。キティは護衛隊所属のヴロンスキーに好意を寄せているが、キティを愛する田舎貴族のレーヴィン(ガイルズ・アイシャム)の存在もあった。舞踏会の日、ヴロンスキーはアンナへ接近し、2人は踊った。その様子を見ていたキティは悲嘆にくれる。翌日、夫と息子が待つペテルブルクに帰るため、モスクワから列車に乗ったアンナだが、なんとヴロンスキーが追ってきた。アンナは頑なにヴロンスキーを拒絶するが...。

モスクワ駅にもうもうと煙を吐きながら列車が到着する。一瞬、煙が途切れた列車の降車口に、スーッと降り立ったグレタ・ガルボのなんと美しいこと。本作出演時の彼女はちょうど30歳で、既に29年版「アンナ・カレニナ」に主演しており、「アンナ・クリスティ」(30年)、「マタ・ハリ」(31年)、「グランド・ホテル」(32年)などの名作に立て続けに出演、世界的なトップ女優になっていました。

彼女は怒ったときが1番美しい。

 

 

それにしても、ヴロンスキーという男はなんと自分勝手で独りよがりなのでしょう。
一目ぼれしたからといって、相手の気持ちや周囲の迷惑も顧みず、とにかく ‘押しの一手’ でアンナに迫っていきます。まあ、古今東西、こういう積極的な男がモテるのかもしれませんが、一人の男の横恋慕が不幸を生んだといえるのかもしれません。
本作を観るまでは、ヴロンスキーを演じたフレデリック・マーチという俳優には一目置いていました。
我等の生涯の最良の年」(46年)の復員兵役は見事でしたし、「ジキル博士とハイド氏」(31年)の二重人格者役も忘れ難い好演です。ほかにも「重役室」(54年)や「五月の七日間」(64年)といった傑作がありました。しかし本作の彼には、どうも感情移入できませんでした。
女性に愛を告白するも、いざとなれば外見ばかり気にする男、いわば偽善者でしょうか。


映画の冒頭、列車の車輪を叩く(点検のため)金属音が聞こえますが、不吉な予感がします。
最後も同じようなシーンが登場しますが、哀しい響きです。

 

 


 

「アンナ・カレニナ」(1948年・英国、モノクロ、110分)

                      監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ

 

トルストイの名作小説3度目の映画化です。

フランスのジュリアン・デュヴィヴィエが渡英して監督にあたり、国際色豊かなスタッフによって製作されました。

1870年代のモスクワ。アンナ・カレニナ(ヴィヴィアン・リー)は兄夫婦の離婚仲裁のため、モスクワ駅へ向かう。兄ステファン(ヒュー・デンプスター)の浮気が原因で、立腹の義姉ドリー(メアリー・ケリッジ)を宥めるためだった。モスクワへの車中で同席だった婦人との会話で、婦人の息子が駅に迎えに来ていると聞かされた。アンナは駅で兄と再会したが、婦人の息子というのが、ドリーの妹でアンナの義妹にあたるキティ(サリー・アン・ハウズ)の婚約者アレクセイ・ヴロンスキー伯爵(キーロン・ムーア)であった。ヴロンスキーはアンナに一目惚れする。一方、キティは地元の農業経営者から求婚されていたが、ヴロンスキーに想いを寄せていた。アンナの尽力で兄夫婦の離婚危機は解決し、彼らは貴族階級が集う舞踏会へ参加する。ここでアンナはヴロンスキーから猛烈に求愛され、キティに気を遣いつつも彼からのダンスの誘いを受けてしまう。一方キティはこの状況に気持ちが混乱し、体調を崩してしまう。アンナはキティに多少の罪悪感は覚えつつ、郷里の息子が心配で翌朝モスクワを発った。帰路の途中、列車が給水のためクリン駅に停車したが、アンナを忘れられないヴロンスキーが彼女を追いかけて来た。アンナには俗物的官僚の代表者たる夫カレーニン(ラルフ・リチャードソン)がおり、ヴロンスキーの求愛をキッパリ断るのだが...。

 

当然のことながらストーリーは35年版とほぼ一緒ですが、駅での人身事故のシーンや、舞踏会のシーンは、多少の演出の違いが感じられます。又、アンナと夫カレーニンのやりとりも、グレタ・ガルボとフレデリック・マーチのそれとは違い、なんとなく本音が出ているようでした。
(アンナの浮気心を知って)カレーニンが  ‘離婚する!’  と言うと、アンナは  ‘悪意はないの。分かっていてもつい流されてしまって...’ と答えます。
カレーニンは  ‘愛を盾にすればすべて許されると思うなよ!’  と言い、続けて ‘(私はアンナへの)義務は怠っていない’  と。 ⇒ この「義務」という言葉、非常に違和感を感じました。

後半のワンシーンで、カレーニンが  ‘妻を見捨てない。ヴロンスキーも許す’  というセリフがあります。ここは35年版と決定的に違うような気がします。

 

後に精神を病んだ予兆が仄見えるような、ヴィヴィアン・リーのどこか病的であるような美しさが哀しみを誘います。

グレタ・ガルボと比較すること自体、意味のないことですが、やはりヴィヴィアン・リーは「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラであり、「欲望という名の電車」のブランチ・デュボアなのです。

 

 

 

 

 

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