【ネタバレ】美しくも残酷な映画 ~風が吹くとき~
皆さんこんにちは
椿ですっ
さて、椿五十郎・・。
実はアニメがあまり得意でないのであります・・。
どんなアニメを今まで見てきたかなぁ・・。
とにかく数えるほどしか見ていない・・。
一番好きなアニメは『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』だけど、これすら、語れるほど熱心なファンでもない・・。アニメファンの方って、ものすごく熱く語ることができるじゃないですか。あれっ位になってみたい!と、そういう方の熱弁を伺っていると、いつも思います。
自分が、アニメで心打たれた作品、って、なんかないかなあ…
と、じっくり考えたとき、この作品が出てきました。
『風が吹くとき』(1986)
がそれです。
本作、アイキャッチ画像をご覧いただくと、とても可愛らしい、絵本のような描画に、どんなにかほのぼのとした雰囲気を感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか・・。
ところが、です。椿にとっては本作、相当にキツい。まさしくトラウマになるような作品でございました。
原作はイギリスの作家レイモンド・ブリックスの同名漫画。
登場人物は初老のブロッグス夫妻のみ。
ほのぼのとしたタッチの画風と、幻想的なシーンではデヴィッド・ボウイの歌う歌が流れたりとちょっとこじゃれた作品かな、と印象を持つのですが・・
【あらすじ】
近未来のイギリス。西欧諸国とソ連邦は非常にきな臭い状況になっておりまさに一触即発の状態。片田舎に棲む老夫婦、ジムとヒルダは仲睦まじくのんびりと暮らしているが、ラジオからは常に戦争が起きそうだな社会情勢の話が流れる。
ジムは、政府が発行した「核シェルターの作り方」の説明書を読みシェルターづくりに余念がない。と、「ソ連がミサイルを発射。到達まであと3分」という緊急放送が。急いでシェルターに身を隠す二人。やがて閃光と共に爆風が家の周りを吹き飛ばす。シェルターにより危うく難を逃れた2人。命は助かったものの、外の世界はほぼ破壊されていた。それでも仲の良い二人は日常を過ごし始めるが、だんだんと放射能が二人の体をむしばみ始める・・。
主人公のジムが、政府の発行する説明書をもとに作った核シェルターとは、家の壁に、取り外した家の扉を斜め60度に立てかけ、釘で打ち付けた屋根風のものに、隙間をクッションでふさいだもの。大人二人が横になるスペース程度のものという、とても核シェルターとは呼べない代物。
だがジムは、政府のいう事を一言も疑いもせず「非常時には政府にしたがうものだよ」といってせっせと作る。一方のベスは、戦争がおきたところで、そのレベルは第二次大戦での大砲や戦車といったレベルの戦争くらいにしか考えておらず、常に日常の他愛のないことが気になる。
そんなちょっととぼけた二人のやり取りがほほえましいのですが、「あと3分でミサイルが到達する!」という警報とともに、その幸せな瞬間がぶちのめされる様は恐怖以外の何物でもありません。
非常に明るく描かれていた村の空や山々の緑、原色が基調にされた二人の家の外観や内装。すべてが絵本の世界から現れたような風景で、ジムとヒルダの優しく暖かな感じと同様にとてもほんわかした世界観が、一瞬にして暗闇とグレーな空や土地に支配された色となる怖さ。
二人の結婚式かなにかのときに撮って額縁に飾ってあった絵も崩れ落ちてしまう。
爆風が収まり、静寂が支配する外の世界。政府の指示では2日間はシェルターから出てはならないという指導(ほとんど意味を成さないもの)もとても守ることもできず、シェルターから出て、焼け崩れた家財道具を片付け、掃除を始めるヒルダ。まわりの状況はすっかり変わってしまったものの、ジムとヒルダは、また元の通り生活をはじめます。途中で雨が降ってくれば、助かったとばかりに、雨水をため込み飲料水や生活用水につかってしまう。
そう、彼らには何の情報も提供されておらず、放射能の恐ろしさなんてものが、全然分かっていないのです。
やがて、体調不良を訴えるヒルダ。自身も体調不良を抱えながら、冗談を交え、彼女を励ますジム。朴訥なセリフのやり取りの中に、長く連れ添い、お互いを信頼しあった生活が垣間見えます。
しかし、体中に赤い斑点ができ始め、髪の毛が抜ける・・・。
もう二人の体は動けなくなり・・。
二人に待つのは「死」しかないのですが、死んでしまうところは直接見せず、映画は終わってしまいます。最後になればなるほど、重苦しい状況に陥る作品。実写の反核映画でも、ここまで辛い気持ちにさせる作品も、そうはないと思います。
この作品の原作となる漫画が発行された1980年代初頭のイギリスでは「フォークランド紛争」が勃発。領土紛争に端を発した、イギリスとアルゼンチンの、まさに戦争でした。実際に近代兵器も使用されるなど、身近に戦争の空気を感じとった人々は、核兵器使用という恐怖にも怯えることになります。それが本作を生んだきっかけの出来事であり、この1980年代前半、イギリスやアメリカで核戦争と核戦争後の人々をおった映画、テレビ映画が多く作られます。
イギリスのテレビ映画で、核戦争後の地球を描いた作品としてはシミュレーションがしっかりしていると評価の高い『SF核戦争後の未来 スレッズ』や、アメリカのテレビ映画で、日本でも劇場公開され、当時大変話題になった『ザ・ディ・アフター』、若き日のケビン・コスナーなんかも出演した映画『テスタメント』等、核戦争が起きるかもしれない近未来を予想し、核戦争後の庶民の生活がどうなるか、を突き詰めた作品が多く発表されました。それだけ、核戦争への不安が大きかったのでしょう。
監督は日系人のジミー・テルアキ・ムラカミ。戦中はアメリカで迫害をうけ、収容所に入れられたりといった生活を送ります。大人になってからはアニメーターや映画監督として活躍。ジェイムズ・キャメロンらとも映画で一緒に仕事をしたこともある。やはり日本人の血が流れていたからか、広島の原爆について思い入れがあり、作品を撮ろうとしたものの、未完に終わっています。
そんな日系人監督が描いた核戦争後の世界。核汚染の恐怖を、静かな口調で丹念に描き切りました。
どうも、アメリカ映画を見ていると。核爆弾が落とされたときの状況を過小評価して映像化しているきらいがあり、「核爆弾を落とされたこと」があまり大したことのないように描かれる作品が散見されますが、この『風が吹くとき』を見れば、もはや情報を小出しにする政府の信用無さや、与えられる情報の少なさにより、間違った対応をとらされてしまう庶民。そしてむしばまれていく体、というものを深く考えさせてくれる作品となっています。
この映画が日本で公開されたとき、大島渚が監修を行い、森繫久彌と加藤春子という名俳優たちによる吹き替えで上映されました。この2人の何とも言えないテンポの優しいセリフ回しには心打たれます。それゆえ、どんどんと身体がむしばまれて生きながらも、普段の生活を送ろうとする二人の表情が声で表現され、胸が熱くなるのを感じさせると思います。
私、個人的には、是非本作は吹き替えで見ていただきたいなぁ、と思います。
何の解説などもない、同じ言葉の羅列の作品紹介に終始してしまいました。
ただ、今世界中で起こっている戦争を前にして、もう一度、反戦・反核のこういった作品に触れることで平和の大切さに思いを馳せ、出来る限り、戦争が無くなるよう祈りたいと思います。
そして、
こういった作品を後世に残し、後世の人々が観ることで、戦争の愚かさ、恐ろしさを、知って、感じてほしいです。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示私これ昔に観た記憶があります。もう忘却の彼方ですが。確か奥さんの抜け毛を『女性はハゲることはないよ』と慰めていたような。
特に森繁久彌さんの声は覚えています。
この歳になってからまた観ると、違う感想になりそうですよね。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示本作の原作絵本の作者レイモンド・ブリッグスは「 スノーマン 」も書いていて、どんなテイストかみなさんにも想像いただけると思います。
この作品当時話題になり、単館系の劇場で公開されてヒットしました。
英語オリジナル版もジョン・ミルズとペギー・アシュクロフトというイギリスの大俳優ですが、書いておられるとおり、日本語版の森繫久彌と加藤治子がおすすめですね。
音楽のピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ
主題歌がデヴィッド・ボウイ とこれも豪華。
9.11後のアフガン戦争でタリバン支配地域で生きる11歳の少女の視点で描いた『 ブレッドウィナー 』は感動しましたが、クオリティが高いアニメなのでどんな人が作ったのか調べたらアイルランドのアニメ作家でした。
アイルランドのアニメってマイナーなイメージで意外でしたが、ジミー・T・ムラカミは後半生アイルランドで暮らし後進を育て、アイルランド・アニメの父と呼ばれているそうです。
本作が原点となって種はまかれたんですね。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示