懐かしき1930年代の映画「ヨーロッパ編」
今まで、1940年代、1950年代、1960年代、1970年代と、懐かしの名作を「アメリカ編」「ヨーロッパ編」「日本編」に分けて振り返ってきました。
今回は更に遡り、1930年代の「ヨーロッパ映画」を懐古してみたいと思います。
「バルカン超特急」(1938年・イギリス) : アルフレッド・ヒッチコック監督
ヒッチコック監督作品は44本観ているが、本作は彼がイギリス時代の作品で、ユーモアと気品を感じるサスペンスの傑作。
米国の富豪の娘アイリス(マーガレット・ロックウッド)は、バルカンからロンドンへの帰路の車中で、貴婦人フロイ(メイ・ウィッティ)と仲良くなる。ところがアイリスがひと眠りして目覚めたとき、フロイの姿はどこにも見当たらなかった。周囲の乗客や車掌に聞いても ‘知らぬ存ぜぬ’ で埒があかない。同乗の医師ハーツ(ポール・ルーカス)には、アイリスの頭の怪我の後遺症とまで云われる始末。フロイの存在を信じてやまないアイリスは、乗客のギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)の助力を得ながら、列車内を探し回る。そんな折、列車が停止し、全身包帯の病人が運び込まれる...。
いったいフロイはどこへ消えたのか、失踪なのか、事故なのか...主人公と同じ気持ちで映画に入り込んでいく。
アイリスを演じたマーガレット・ロックウッドが、鼻っ柱は強いが気立ての良い女性をコミカルに演じて好感がもてる。
一方、ミス・フロイを演じたメイ・ウィッティはDameをもつイギリスの重鎮で、出演作は少ないものの、41年「断崖」、44年「ガス燈」などの脇役で存在感をみせた。
お馴染みの ‘ヒッチコックの出演シーン’ は、終盤、ロンドン駅のホームをタバコを吸いながら歩いている男。未見の方はお見逃しなく。
「嘆きの天使」(1930年・ドイツ) : ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督
マレーネ・ディートリッヒの代表作で、彼女の挑発的な姿態とハスキーな歌声は、多くの映画ファンを惑わせ、魅了した。
権威主義的な高校教師が踊り子の虜になり、破滅へと向かう姿を冷徹に描いた名作。
実直なイマニュエル教授(エミール・ヤニングス)は、学生が落とした1枚の絵葉書写真を見て驚いた。それは町に巡業に来ている「嘆きの天使」一座の踊り子の写真で、卑猥さを感じるものだった。
受持ちの生徒がキャバレーに出入りしていると悟った教授は、事実を確かめるため、初めてキャバレーに出向いた。案内されたのはローラ(マレーネ・ディートリッヒ)という踊り子の部屋。艶やかなローラに魅せられた教授は我を忘れ、なんと翌日はモーニングを着て再び店に出向くのだが...
マレーネ・ディートリッヒは既に20本近い映画に出演していたが、本作で幻想的な魔女の魅力を放ち、退廃的な雰囲気を合わせもって、一躍、世界の映画ファンを虜にしたのである。
一方、生真面目な教授を演じたエミール・ヤニングスは、1927年「肉体の道」と翌年「最後の命令」の演技によって、第一回の栄えある米アカデミー賞男優賞に輝いている。(当時は2年にまたがっての受賞対象であり、主演、助演の区別はなかった) スイス生まれだが、ドイツ映画で最も成功した俳優のひとりだ。
尚、本作に関わった多くのスタッフ、大半の出演者は、映画完成後にアウシュビッツ収容所に送られ、処刑されたとの某誌記述がある。
「M」(1931年・ドイツ) : フリッツ・ラング監督
フリッツ・ラング最初のトーキー作品であり、映画史上初の連続殺人を描いた作品といわれている。
効果的なモノクロ撮影、言葉に言い表せないほどの緊迫感、まさに犯罪映画の名作である。
ドイツの、とある町で少女の連続殺人事件が発生。人々は恐怖で震えあがり、警察に非難が集中するが、事件解決の糸口すら見いだせないでいる。ある日、町の風船売りの盲目の老人が、聞き覚えのある口笛の曲を聞いた。それは、老人から風船を買っていった子供連れの客が吹いていた、ペールギュント第一組曲の一小節、「山の魔王の宮殿にて」なのだが、そのときの子供は殺されている。老人は通りがかりの青年にそのことを告げるのだが....
この映画は光と影が効果的に使われ、犯人の恐怖感や民衆の狂気を巧みに描きだしている。
何と言っても主人公、ペイター・ローレの異常性格者ぶりが際立っている。
167Cm、63Kgという小男ながら、特異なマスク(飛び出たような眼)は無類の凄みを感じさせるが、おどおどと脅えた表情も興味深い。
本作でローレは殺人を犯す時に必ず口笛を吹く。観客は口笛を聞くたびに不安と恐怖に震えるのだが、実はローレは口笛が吹けず、ラング監督が吹き替えで入れていたという逸話が残っている。
「望郷」(1937年・フランス) : ジュリアン・ディヴィヴィエ監督
主役、ジャン・ギャバンの名声を決定づけた作品。
舞台は北アフリカ・アルジェリアの首都アルジェ近郊のカスバ。パリから逃亡して来た凶悪犯は港の女と激しい恋に落ちるが、やがて別れを迎える。
ペペ(ジャン・ギャバン)は強盗や銀行襲撃を繰り返したお尋ね者だが、このカスバの街では、住民から妙に敬愛されており、忠実な子分たちにも守られている。この迷宮カスバの街からペペが出ない限り、警察当局も手が出ないのである。ペペの情婦イネス(リーヌ・ノロ)との関係や、パリから来た女ギャビー(ミレーユ・バラン)に夢中になるペペの純粋さが、人間臭く描かれる。それらが異国の街カスバによく合っているのだ。
カスバの街を上空から見ると蟻塚のようで、大きな階段に沿ってテラスが海へ階段のように続いている。中は一日中暗く、道は迷路のように入り組んでいる。いきなり何が出てきてもおかしくない。素人がいきなり入ったら二度と出てはこられない... ⇒ これは地元警察の刑事が、パリからやって来た刑事に「カスバ」について紹介している文言である。
さて、ラストシーンは有名だ。
ギャビーが乗った船に向かって、波止場からペペが叫ぶ声が汽笛にかき消される...
ペペに気づかない(?)ギャビー、無念のペペ、ペペに泣きすがるイネス、無情。
「三十九夜」(1935年・イギリス) : アルフレッド・ヒッチコック監督
本作はヒッチコックの ‘芸術的テクニック’ が既に確立されていたかのように、次から次へと登場し、それらがすべて観る者をくぎ付けにする。
カナダの外交官ハネイ(ロバート・ドーナット)は休暇を利用し、ロンドンを訪れた。ある小劇場に入ると、舞台では ‘記憶の達人’ と称するMr.メモリー氏(ウィリー・ワトソン)が観客のあらゆる質問に答えている。ふざけた質問をする客もいるが、ハネイが ‘ウィニペグとは?’ と訊いてみると、即座に正確な回答が帰ってくる。とその時、一発の銃声が響く。出口に殺到する観客達。ハネイは自分に身体を摺り寄せてくる女性(ルーシー・マンハイム)に助けを求められ、せかされるように自分の住まいに連れ帰るのだが...。
列車内の逃走シーン、農場での小作人夫婦とのやりとり等、小気味よいサスペンスに引き込まれる。
そして、得体の知れぬ犯人像をはじめ、観客に不安感を与える特殊効果や、小道具の使い方、細部にもこだわりが感じられ、さすがヒッチコックだ。
ラストシーン、全てが急速に終結に向かうシークェンスの爽快な流れも、彼ならではの世界。
「獣人」(1938年・フランス) : ジャン・ルノワール監督
列車は走る。走り続ける。人間の感情など知らぬとばかりに。
牽引する機関車の、左横に取り付けたカメラが、スピード感を煽る。
牽引する機関車の、最前部に取り付けたカメラは、大迫力だ。
そこに音が入る。
ずっと、そのまま観続けていたい映像だ。ずっと。
パリのバティニョール機関区の鉄道機関士ジャック・ランチェ(ジャン・ギャバン)は、自分では制御できない突然の暴力衝動という悪い遺伝子を祖父や父から受け継いでいる。ジャックは発作を恐れ、故郷の恋人フロール(ブランシェット・ブリュノワ)との結婚を諦めている。一方、ジャックが勤める鉄道会社の助役ルボー(フェルナン・ルドゥー)は、妻のセブリーヌ(シモーヌ・シモン)と彼女の養父で富豪のグランモラン(ジャック・ベルリオーズ)が愛人関係であることを知った。激怒したルボーは、セブリーヌに逢引を誘う手紙を書かせ、グランモランを列車の個室におびき出して殺害するのだが...。
ジャン・ギャバン扮するジャックと、ジュリアン・カレット扮するペクーは、顔が煤(すす)で真っ黒になっている。相棒の二人が、機関車に石炭をくべたり、あらゆる運転操作をするシーンは、まるで本物の機関士のようだ。
原作はフランスの文豪エミール・ゾラ。
デジタル・リマスター版で、モノクロ映像を生かした機関車の映像が素晴らしい。
そこに、ジャン・ギャバンの哀愁が漂う。
「ウィンナー・ワルツ」(1934年・イギリス) : アルフレッド・ヒッチコック
監督
ヨハン・シュトラウスの名曲「美しく青きドナウ」を前面にもってきたクラシックの名作。
ヨハン・シュトラウス1世(エドマンド・グウェン)の息子シャニー(エズモンド・ナイト)は、音楽的才能に恵まれながらも父から認められず、パン工房を営むエバセイダー(ロバート・ヘイル)の娘で恋人のレジ(ジェシー・マシューズ)との関係にも悩んでいた。一方、グスタフ伯爵(フランク・ヴォスパー)夫人のヘルガ(フェイ・コンプトン)はシャニーの才能を高く評価し、自身の作詞に曲を付けてほしいと依頼、音楽出版社のドレクスラー(マーカス・バロン)の助力を得、シャニーを一流音楽家として世に送り出すことを画策する。やがてシャニーは、永遠のワルツの名曲「美しく青きドナウ」を作曲する....
オープニングからコメディ調で展開し、そこにミュージカルの流れが加味され、後半に差し掛かった頃からラストに至る展開は実に見事。
映画のクライマックスで演奏される「美しく青きドナウ」、この4分30秒にも及ぶ演奏シーンはまことに荘厳で、メロディーが人の心を動かすことをあらためて実感させられる。
名作「2001年宇宙の旅」(68年)で、スタンリー・キューブリック監督が採用したのも頷ける。
「大いなる幻影」(1937年・フランス) : ジャン・ルノワール監督
気まぐれな作家と自称するルノワールが、収容所に入れられたフランス兵とドイツ兵の交流と脱走の経緯を描写しながらも、ルノワールらしい逸脱と主題が息づいている名作。
1916年。第一次世界大戦中、敵情偵察の任務をもつマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とポアルディウ大尉(ピエール・フレネー)を乗せたフランスの飛行機は、ドイツの飛行隊長ラウフェンシュタイン(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に撃墜され、ドイツ軍の捕虜となった。マレシャルはパリの機械工の出、ポアルディウは貴族として、国こそ違うが同じ貴族であるラウフェンシュタインは、二人を捕虜扱いにせず、不運な勇士として食卓にさえ招待するのだが...。
公開当時ルノワールの映画の中で最も評判になった作品で、アメリカのルーズヴェルト大統領が米国全国民に見に行くように叫びかける一方で、ドイツのゲッペルス宣伝相は公開禁止映画に指定した。
上述の俳優陣に加え、マルセル・ダリオ、ガストン・モドなど、ルノワールの作品を体現する俳優たちが、スクリーンを躍動させている。
国境を越えていくギャバンたちを見守る、簡潔なラストが素晴らしい。
他の作品群では、「会議は踊る」(31年・ドイツ)、「巴里の屋根の下」(30年・フランス)、「自由を我等に」(31年・フランス)、「民族の祭典、美の祭典」(38年・ドイツ)、「にんじん」(32年・フランス)、「ゲームの規則」(39年・フランス)といった名作が思い浮かぶ。
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投稿を表示洋画さん、さっそく要望にお応え頂きありがとうございます。やはり正しい画像があると気持ちがしっくり来ますね。
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投稿を表示おはようございます。
未見の作品。昔に観た作品。興味を惹かれるものばかりです。
今まで、旧作はディスカスさんのレンタル8の見放題のお世話になっておりましたが、
プランの内容変更で「見放題」は無くなるそうですね。残念です。
昔は、一日1作品を観ていたものですが、現在はペースが落ちてしまい(体力的に?視力も落ちてるから?)単品レンタルしても直ぐに返却期日が来てしまいます。
北海道在住だと、配送日数でも不利ですし。
体力に合わせてゆっくり、のんびりでいくことにします。
「嘆きの天使」観てみたいです。
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投稿を表示こんにちは。獣人と望郷、リストインです!
ギャバンさんの若きころ、ハンサムなんですね。
ところで、Mの画像が間違っていますね😅
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