涙が止まらない『父と僕の終わらない歌』。認知症が教えてくれた、本当の家族の愛。
「もし、自分の大切な家族が認知症になったら…?」
考えたくないけれど、誰もが心のどこかでよぎる不安かもしれません。この映画『父と僕の終わらない歌』は、そんな厳しいテーマに正面から向き合い、私たちに「困難の先にある、かけがえのない宝物」を教えてくれる作品でした。
父との間にわだかまりを抱えていた息子。その父が認知症になったことをきっかけに、家族がもう一度、純粋な心で触れ合い、愛を確かめ合っていく。その姿に、鑑賞中、涙が止まりませんでした。これは、単なるお涙頂戴の物語ではありません。観る人の心を洗い流し、温かい勇気を与えてくれる、最高の感動作です。
ある日、父(寺尾聰)が認知症と診断される。しっかり者だった父の変化に戸惑いながらも、息子の僕(松坂桃李)と母(松坂慶子)は、一丸となって父をサポートしていく。その過程で、今まで気づかなかった父の深い愛情や、母が父に寄せる想いを一つ一つ再発見していく。失われていく記憶の中で、家族は最も大切な時間を取り戻していく物語。
「毎晩プロポーズする父」に見た、夫婦の究極の愛
記憶を失っていく父が、毎晩、妻である母にプロポーズをすると母が話すシーンがあります。そのプロポーズに、母は「心がドキドキする」と、少女のように微笑みながら話します。
長い年月を共に過ごしても、決して色褪せない二人の愛の深さ。病気が記憶を奪っても、魂に刻まれた「愛している」という気持ちは消えないのだと、胸が熱くなりました。自分がもしそうなった時、愛する人に「愛している」と伝え続けられたら、どれほど素敵だろうか。そんなことを思わせてくれる、忘れられない名シーンです。
車の中で歌う父と息子。
音楽が繋ぐ、最高の親子の時間
僕(松坂桃李さん)が、父(寺尾聰さん)を乗せた車の中で、楽しそうに一緒に歌うシーン。それは、私がこの映画で一番心を揺さぶられた場面かもしれません。
私には父がいないので、そんな何気ない親子の触れ合いが、本当に羨ましく、輝いて見えました。「将来、自分の子どもたちとこんな風に心が通う瞬間を持てたら、どれほど素晴らしいだろう」。音楽が、父と子の間のわだかまりを溶かし、心を一つにしていく。そんな奇跡のような時間が、この映画にはたくさん詰まっています。
この映画のパワーは、認知症という”重さ”を吹き飛ばす、ピュアな愛
この映画の本当に凄いところは、認知症という重いテーマを、決して暗く描くだけで終わらせない点です。
むしろ、その病気がきっかけとなって、家族が本来持っていたピュアな愛情が溢れ出してくる。その愛のパワーが、辛さや苦しさを乗り越える力となり、観ている私たちの心まで軽くしてくれるのです。
こんな人におすすめしたい
家族が病気を抱えていたり、何か辛い思いをしていたりする人が観たら、きっと涙が止まらないでしょう。
でも、それは決して辛いだけの涙ではありません。 「困難は、ただ辛いだけじゃないんだよ」 この映画は、そうっと肩を抱いて、温かい勇気をくれるはずです。今、何かに苦しんでいる人にこそ観てほしい、優しさに満ちた一作です。