カッツ
2025/11/14 08:34
ザリガニの鳴くところ
2022年公開、ラブロマンスと殺人ミステリーが融合した、静謐でありながら力強い物語である。舞台はアメリカ南部の湿地帯。自然の中でたった一人で生きる少女カイアの人生を軸に、偏見や差別、愛と裏切り、そして殺人事件の真相が交錯していく。
主人公のカイアは、色白で細く、美しい少女として描かれている。実際には過酷な自然の中で一人で生き抜いてきたとは思えないほど洗練された容姿だが、そこは映画的な演出として受け入れるべきだろう。むしろ、彼女の美しさがあってこそ、周囲の人々の視線や偏見、そして物語の展開に説得力が生まれているとも言える。
物語には、社会からの疎外、女性への偏見、自然との共生、そして人間の本能的な生存戦略といった多様なテーマが織り込まれており、ストーリーは終始なめらかに進行する。展開に無理がなく、観る者をじわじわと物語の深部へと引き込んでいく構成は見事だった。
終盤、ほぼハッピーエンドかと思わせる展開の中で、最後の最後に明かされる真実が、作品全体の印象を一変させる。このラストによって、物語に新たな層が加わり、私の中での評価は一気に2ランクほど上がった。
「自然の中では、生き残るために、オスを食べる」という彼女の台詞が、この結末において鮮やかに意味を持ち始める瞬間は、まさに本作の核心であり、深い余韻を残す。
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