第10回 米アカデミー賞・作品賞受賞「ゾラの生涯」
フランスの文豪エミール・ゾラの生涯と、ドレフュス事件を大きく扱ったワーナー・ブラザースの伝記映画。
「ゾラの生涯」(1937年・アメリカ、モノクロ、116分)
監督:ウィリアム・ディターレ


19世紀のフランス。パリの屋根裏部屋で暮らす若き作家エミール・ゾラ(ポール・ムニ)は、画家のポール・セザンヌ(ウラジミール・ソコロフ)と同居し、貧乏ながら創作活動に専念していた。ある日、出版社主と対立して職を失ったゾラは、街中で警察に追われていた娼婦のナナ(エリン・オブライエン・ムーア)を助け、彼女の身の上話を題材にした小説「ナナ」を発表した。その小説はベストセラーとなり、ゾラは一躍有名な作家として富を手に入れ、世界的な名声も得た。そんな折、フランス陸軍参謀本部将校のアルフレッド・ドレフュス大尉(ジョセフ・シルドクラウト)がスパイ容疑で逮捕される。フランス陸軍の機密情報を記した手紙を、ドイツ大使館の武官に送っていたというもの。軍上層部は、確かな証拠がないにも関わらず、ユダヤ人というだけでドレフュスを犯人にでっち上げ、反逆罪で有罪としたのだ。ドレフュスは終身刑を言い渡され、流刑地の悪魔島に送られた。一方、ピカール中佐(ヘンリー・オニール)はエステラジー少佐(ロバート・バラット)が真犯人であることを突き止めるが、上層部は聞く耳を持たない。ドレフュスの妻ルーシー(ゲイル・ソンダーガード)はゾラのもとを訪れ、世論に夫の無実を訴えてほしいと嘆願した。心を動かされたゾラは、大統領宛の公開質問状を新聞に投稿した。だが、世論は軍に味方し、ゾラは軍から名誉棄損で起訴される。やがて裁判が行われるが、ゾラの友人ラボリ弁護士(ドナルド・クリスプ)の熱弁も叶わず、ゾラは有罪判決を受けることに...。

ファシズムとの戦いにテーマを絞ったこの映画は、ナチス糾弾、ヒューマニズム謳歌の旗印のもと、参戦を目前にしたアメリカの世論喚起を促すものになったと思う。
映画の前半は、ゾラと画家ポール・セザンヌの貧しい生活ぶりや、巷の女ナナと知合ってからのゾラのことが淡々と描かれていく。だが、ドレフュス事件発生後から、裁判劇への流れに至っては、俄然サスペンス性も出てきて引き込まれる。
裁判とは名ばかりで、国家権力(軍の権力というべきか)によって、まったく裁判の体をなしていないのには呆れるばかり。

エミール・ゾラを演じたポール・ムニは、出演時42歳。
若き作家のゾラから、老人になったゾラまでを巧みなメイクと話術で演じきっている。
本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされているが、前年の36年「科学者の道」で既に同・主演男優賞を受賞している。
「暗黒街の顔役」(32年)の用心棒役、「大地」(37年)の中国人農夫役など、いずれも主演で個性的な演技をみせていた。

ドレフュスを演じたジョセフ・シルドクラウトはアカデミー賞・助演男優賞を受賞、冤罪によって投獄される大尉を威厳をもって演じている。
彼はオーストリア生まれのユダヤ人で、1920年代初頭からアメリカの舞台・映画で活躍しており、後年は「アンネの日記」(59年)の父親役が代表作。

共演陣では上述のほかに、グローリア・ホールデン、ルイス・カルハーン、ハリー・ダヴェンポートら個性派が揃っている。
実際に起きた冤罪事件であるドレフュス事件を、ロマン・ポランスキー監督が映画化した「オフィサー・アンド・スパイ」(2019年)という映画があった。


ドレフュス事件に興味のある方は、是非ともご覧いただきたい。
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投稿を表示ゾラの生涯は、最近、2回目を観たので、「Officer and Spy」のピカール少佐の存在を意識してみました。