DISCASレビュー

1985年公開、降旗康男監督による『夜叉』は、高倉健、田中裕子、いしだあゆみ、ビートたけしらが出演する、静かな緊張感と哀しみを湛えた人間ドラマである。
かつて大阪・ミナミで「人斬り夜叉」と恐れられた伝説の男が、若狭湾に面した小さな港町で漁師となり、妻子とともに平穏な日々を送っている。
そこへ、かつての街から螢子という女が現れ、小料理屋「螢」を開く。彼女の都会的な香りと妖しい魅力は、港町の人々の心を揺さぶり、静かだった町に波紋を広げていく。
螢子の情夫役として登場するビートたけしの存在も、物語に不穏な影を落とす。
高倉健は、背中に刺青を入れた元ヤクザという役柄に、静かな威厳と哀愁をまとわせており、まさに彼ならではの説得力があった。