【蔵出しレビュー】パンクと言うのに相応しいアナーキーな時代劇映画!『パンク侍、斬られて候』
※8月23日から公開の永瀬正敏主演、石井岳龍監督作品『箱男』にあわせて、石井岳龍監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■パンク侍、斬られて候
《作品データ》
町田康原作、『狂い咲きサンダーロード』や『蜜のあわれ』の石井岳龍監督が手掛けたアクション&コメディの時代劇大作。浪人の掛十之進は黒和藩に取り入るために恐るべき災いを引き起こすとされている新興宗教「腹ふり党」が藩にやって来るために討伐すると吹聴し、重臣の内藤はこれを利用し対立する重臣を失脚させる。主人公・掛十之進役を綾野剛が演じ、他北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、村上淳、若葉竜也、近藤公園、渋川清彦、國村隼、豊川悦司が出演。
・丸の内TOEI他全国ロードショー中!
・配給:東映
・公式HP:http://www.punksamurai.jp/
《『パンク侍、斬られて候』レビュー》
日本のパンクバンド「INU」のボーカリストだった町田町蔵が町田康と改名して出した小説を、『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市 BURST CITY』を監督した石井聰亙がここ数年で石井岳龍と改名して監督している似た者経歴の原作者と映画監督の作品でもある『パンク侍、斬られて候』。予告編を見た感じでは特に石井岳龍の作品のテイストに合わなそうな気もしたが、蓋を開ければパンクでクレイジーな原作を大人のパンクな監督がやった感じの映画で、もっと言えば宮藤官九郎の脚本の相性もいい時代劇エンタテインメント大作に仕上がっていた。
全編宮藤官九郎による早さと間のコメディ脚本が生き生きとし、見事にパンクと言うのに相応しいアナーキーぶりを発揮。主人公の掛十之進がハッタリ・でたらめでうまく世を渡る姿が痛快で、この掛の周りにいる連中もボンクラでポンコツ。浅野忠信も「どうしちゃったの?」と言いたいぐらいイカれていて、全体的に見事なまでにパンクな感じの時代劇になっている。
毎シーン派手な仕掛けに満ちてるけど、筋はしっかりしている。決して『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』のような勢いではない。円熟の石井岳龍監督の大人のロックのような作品だった。綾野剛、豊川悦司、染谷将太など緩急自在なフランクでラフな現代人の会話をそのまま時代劇にまぶし、見事なコメディになってる。嘘まみれの狂った世界のディストピア時代劇はタイトルに偽りなく、『少年メリケンサック』でも見られたクドカンのキレッキレの脚本が冴え渡る。
全編にベンチャーズやアニマルズ、『パルプ・フィクション』のエンディングでも使われた曲などをアレンジしたロックなBGMがいかにもロックな映画になっている。エンディングテーマ曲でセックス・ピストルズの「Anarchy In the U.K.」を大胆に使用し、これまた感動。
後半に若干のダレを感じはするが、石井岳龍、宮藤官九郎にとって新たな代表作になったことは間違いない。