Discover us

私の好きな映画

3Dメガネ
2024/01/31 08:08

『哀れなるものたち』~籠から解放された 彼女の行く末とは?~

(c)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 

 

≪導入文≫

第96回アカデミー賞にて、作品賞を含む11部門にノミネートされた『哀れなるものたち』。監督はギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス。主演は『ラ・ラ・ランド』等のエマ・ストーンだ。実はこのコンビ、監督の前作にあたる『女王陛下のお気に入り』で一度タッグを組んでおり、この作品の撮影後に『哀れなるものたち』の話が進んだそうだ。

本作はR18+の作品となっており、大胆な演出が多い。だがそれは決して見世物的なものではなくこの作品の主題と合致した表現方法だった。今回のコラムでは、『哀れなるものたち』のみどころを中心に紹介していく。最後には本作が社会に提示した鋭い問いかけについても少し記載しているので、興味のある方はぜひ読んで欲しい。

≪簡単なあらすじ≫
舞台はヴィクトリア朝時代、天才外科医ゴドウィン(ウィレム・デフォー)の禁断の手術によって蘇ったベラ(エマ・ストーン)。その特異な性質から彼女は自宅にずっと閉じ込められていた。ある日、彼女を観察するためにゴドウィンの助手が家に訪れてきて。。


目次

【みどころ①】籠から解放された女性

【みどころ②】まるでおとぎ話のような世界

【おわりに】本作の鋭い問いかけ



【みどころ①】籠から解放された女性

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

天才外科医による脳の移植手術により、死から奇跡的に蘇った女性ベラ。身体は大人、頭脳(=精神)は子供という特異な状況に置かれたベラは、外科医の実験体として社会から隔離されて暮らしている。ゴッドと呼ぶ父のような存在と暮らす家から出られない状況で本作は始まる。

一家における権力者である父という存在に所有物のように支配される設定は、監督の過去作で2009年に公開された『籠の中の乙女』と同じだ。実は『哀れなるものたち』の企画は2011年頃に一度あったという。だが当時は却下され、14年後の2023年にようやく初のお披露目となった。『籠の中の乙女』では"支配からの解放"という主題を余白を持って表現した一方、今作でベラは家という籠から解放され社会と触れ合っていく。この設定の繋がりと近い年代に企画されていた事実を踏まえると、『哀れなるものたち』は『籠の中の乙女』の精神的な続編と位置付けることができそうだ。

解放されたベラがその純粋さ故に社会規範に縛られない行動を繰り返していく様子は本作の最も魅力的な要素。自らの探求心をドライブさせながら世界を知る彼女の姿はとても痛快だ。劇中何度か出現する"良識ある社会"が女性に課したガラスの天井を壊す彼女の生き様は、自律的な女性像の象徴のようだ。『籠の中の乙女』で画面上に収められなかった支配から解放する姿は、今作ではエマ・ストーンという役者と共に画面上で昇華される。
 

(c)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

社会と触れ合い、困惑しつつも好奇心からくる喜びを抑えることができずに思わず溢れてしまう彼女の表情を観るだけでも相当価値がある。また劇中中盤にダンスをするシーンでは、社会規範を壊そうとする彼女の抵抗が輝くように躍動する。

また未知なる世界への好奇心や発見の喜びは、色彩と共に美しく表現されていた。
 

【みどころ②】まるでおとぎ話のような世界観

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は前半30分くらいがモノクロで、後半からカラーに変化する構成だ。家に支配されている期間は無味乾燥さを表現する為、社会に出てからは彼女の好奇心をカラーで色鮮やかに表現している。

(c)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

半ばおとぎ話のようなビジュアルについて、あるインタビューでランティモス監督はこう語っている。「ベラの目を通して外の世界を見るので、その都市らしさを感じさせながら、少し変わっていなければなりません。(中略)当時の人が想像する未来のような雰囲気を出したかったのです。ベラのいる世界にふさわしくするために」(参照先)

いままで生きていた環境とはあまりに異なる世界の姿は、脳に強烈な刺激を与えるに違いない。その刺激の強さを撮影監督のロビー・ライアンは鮮やかで濃いトーンで画面上に設計している。このおとぎ話のような世界を味わえるのも、今作の大きな魅力の1つだろう。一見美しい場所ばかりに見えていた世界のそうでない場所を訪れた時、ベラが示す反応は本作の素晴らしいシーンの1つ。こちらも注目してほしい。
 

【おわりに】本作の鋭い問いかけ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで見どころを紹介してきたが、本作を最も映画的にしているのが終盤の彼女の選択だと思う。一見強い女性像を描いた希望的な作品のように思えるのだが、そう断定できない決定的な要素がある。ネタバレになるので詳細は伏せるのだが、彼女の選択と父との関係性にまつわる要素が問いを読み解くカギだろう。

過去作である『籠の中の乙女』から通ずる父性による支配というテーマは2作とも描かれている。今作では脳を移植した人物の為、血統という遺伝的要素は彼女の決断の原因にはならない。だが脳科学の分野で証明されているように、脳は可塑性を持ち人物の人格は遺伝的要素と環境的な要素のバランスで形成される。ただこの2作品からランティモス監督は、幼少期の家庭環境がその後の人格形成に大きな影響を与えるという考えを支持しているように思えてならない。

ベラを手術したゴドウィンと彼の父親の関係性は、ベラとゴドウィンの関係性とほとんど同じではないか?ベラは自らの探求心の結果を基に最後の選択をしたように思えるが、実は幼少期の環境に支配された選択だったのではないか?『籠の中の乙女』のラストから発展したように見える"支配からの解放"というテーマは、実は一貫した主張をするための経過でしかなかったのだとしたら、これほど哀れな結末はないのかもしれない。非常に鋭く映画的な問いかけを残した結末に注目して鑑賞してみてほしい。ランティモス監督はやっぱり最悪で最高だった。


Instagramの方では、最新映画の考察レビューや配信・レンタルで観られるオススメ映画の紹介など発信しています。今回の記事で面白いこと書いてるな!と思った方は、ぜひ遊びに来てください!また次回のコラムでお会いしましょう!
 

>>Instagramアカウントに遊びに行く

 

コメントする
2 件の返信 (新着順)
かこ
2024/01/31 16:39

すごい!素晴らしいコラム😳🔥
私もこんな感じのコラム書きたいです🤩


3Dメガネ
2024/02/06 22:46

ごめんなさい気づくのめっちゃ遅れました…!そう言ってくださってとても嬉しいです😆 一緒に頑張っていきましょ!

takae
2024/01/31 13:13

ふーむ、興味深い。
世代間遺伝とまではいかないけど、親との関係性が繰り返されるっていうところまでは考えが及ばなかった!
メガネくんのレビュー、コラムは本当に色んなことに気づかせてくれる🤝


3Dメガネ
2024/02/06 22:47

すみませんめっちゃ気づくの遅れました…!このコラムで何か一つでも発見があったのなら、本望です笑 これからも頑張って発信していきます😎