億万長者
【市川崑監督の社会風刺コメディ】
(1954年/日本/83分)
脚本・監督:市川崑
脚本協力:阿部公房・横山泰三・長谷部慶次・和田夏十
撮影:伊藤武夫
音楽:團伊玖磨
ひとことで表現するなら「とんでも映画」
皮肉が効いたコメディで、ぶっ飛んでた。
画像の粗さは我慢できるけど、みんなが早口で喋るのでついて行くのが大変だった。日本語字幕が欲しかったな。
主演は木村功。税務署勤務の館香六という無口で気の弱い男を演じている。戦争を未だ引きずっているらしく、ジェット機の音が聞こえると耳を塞いで机の下に隠れてしまう程。雨が降り出すと、放射能が混じっているかもしれないと、慌ててコウモリ傘を広げるような人物。
この館香六が税金の納付が滞っている贋十二(信 欣三)の家を訪ねると、貧乏人の子沢山で襖はボロボロ、畳は擦り減って・・・
この家の二階には、本作冒頭で「かよわき平和を守るため、私たちは原爆、水爆を作りましょう」と街頭で演説していた鏡すて(久我美子)が下宿していた。そして、一人で原爆を作る実験をしていた。
それを知った館香六は、一目散に贋家の家を飛び出して逃げるのだが、何と沼津まで走り、下校途中の中学生に「ここは東京から何キロ離れているか」と尋ねる。「123.5㎞」と聞いて、やっと安心する。それは、熱線による火傷の危険性は半径100㎞と言われていたから。
香六が勤務する税務署の所長・伝三平太(加藤嘉)の娘・麻子に左幸子。ポニーテールで若々しい彼女は当時24歳。ついでに調べてみたら前出の久我美子は23歳。二人とも自分の頭で考え、自分の意見を持っている利発な女性を演じていた。
本作は原水爆問題の他、官僚汚職、政治腐敗、貧困問題などを取り上げ、深刻ではなく笑いのうちに風刺したもの。
「億万長者」というタイトルも何だか皮肉っぽい。
戦後、9年が経過した東京の町が映し出されるが、国会議事堂の周辺にまだ原っぱが沢山残っていて、香六が訪ねた贋家のボロ家があるのも国会議事堂が直ぐ近くに見える場所だった。子だくさんで生活困窮する庶民が税金を払える筈もなく、一家心中を思い詰めるなど、社会的弱者が追い詰められていく様は悲壮感が漂っていた。
撮影当時(1954年)、アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験で日本の漁船「第五福竜丸」が被爆した事件があった。船員のみならず、積んでいたマグロも放射能汚染したのだが、劇中、魚屋がビキニのマグロを土中に埋めていたという話が出ていた。その様子を見ていた贋家の次男(松山省次/7歳くらい)が落ちていたマグロを拾って、真似して埋めたのだ。空腹の家族はそれを皆で食べた。その結果は・・・
他にも芸者の花熊(山田五十鈴)に香六が唆されて、悪徳政治家の賄賂や汚職を暴いてしまうなど事件がいくつか起きて盛沢山の展開。ラストでは、ついに鏡すての原爆が完成し、それを知った香六と贋家の長男・門太(岡田英次)が沼津を目指して走り去って終わる。
岡田英次と言えば、1950年の『また逢う日まで』で久我美子とのガラス越しのkissで一世風靡した後。岡田英次は汚れたランニングシャツ、果てにはズボンを売ってしまいパンツ姿。久我美子は汚れた一張羅のワンピースを着て、実験で顔も煤けている。こんな役をよくぞ引き受けたものだ。アッパレ!役者魂。
本作の面白さをお伝え出来たかどうか自信がないけれど、これはオススメの1作。
※シネマニストLOQさんからのご紹介です。面白かったです。有難うございました。