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わたげ
2025/09/20 22:19

『バード ここから羽ばたく』レビュー 〜きっと忘れられない不思議な出会い〜



(c)2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.

バード ここから羽ばたく
2025/9/5公開
イギリス/アメリカ/フランス/ドイツ
上映時間:119分
 

後になって思い返して、ある人との出会いが重要な出来事だったんだなと、気がつくことが時々ある。価値観の変化があったり、場合によっては見える世界が、かなり角度をつけて変わる事もある。

この『バード ここから羽ばたく』という作品は、人との出会いをキッカケに、世界の見え方が少し変えられるかもしれない可能性を描いた映画だと感じられました。


当作は、イギリスの小さな町に暮らす少女ベイリーの視点で、複雑な家庭環境での日常が描かれます。
貧困、ネグレクト、DV、非行など、シビアな現実が彼女の前には横たわっていて、やり場のない孤独を抱えて暮らしている。そんなある日、彼女はバードと名乗る一風変わった奇妙な男と出会う事をキッカケに、特別で忘れられない日々を経験する事となる。

(c)2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.

ハンディカメラ撮影が特徴的で、貧困家庭の厳しい状況を、近距離でリアルに捉えていく事が物語の軸となります。
そんな中時折、ベイリーの心象風景を切り取るような場面も。それらは自然光を豊かに使った叙情的なカットとして魅力がありました。

またもう一つ、大事な脇役と言えそうなのが、登場人物たちのプレイリストから再生される音楽達で、場面の感情とリンクするように流れてきます。
UKロックのちょうど良いところを使っていて、個人的にかなりツボでした。

貧困問題への社会批判的な側面もありますが、アート的な映画の風合いもかっこよさがあって、シビアな作風に寄りすぎない、バランス感覚が好印象でした。
 

(c)2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.

メインキャストに名を連ねたのは個性派で実力もある俳優 バリー・コーガン、若いうちから子供を持ったヤンチャそうな父役を熱演。粗野で身勝手だけど、実は意外な顔も持つ…ギャップある男を体現していました。

新人にして主演女優のニキヤ・アダムズは、感情表現が本当に豊かで、思春期に入り始めた事で、心が揺れ動く少女を、見事に演じていました。

謎の男バードの登場でシナリオは動き出しますが、彼の人物像が掴みどころがなく、本当によくわからない。でも、優しげで、なぜか次第に安心感を覚えてくる不思議な役回りで、フランツ・ロゴフスキが好演しています。
 

(c)2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.


鬱屈としていたベイリーの日常だったのが
バードとの交流のおかげで、良い変化が訪れていきます。

物語の顛末は、予想のちょっと斜め上の表現が描かれ、不思議で、意外でした。
状況をリアリスティックに描写されていた分、
この仕掛けに効いていた印象で、
まさに映画ならではの魔法のような表現で、
救いの手を差し伸べてくれているようでした。

ベイリーは、一連の経験を経て
彼女自身の視座がほんの少し変わったり
今まで、気付かなかった一面を感じ取ったり
そこに成長が垣間見えて、グッときました。

家族や周囲の人達との関わり合いにも注目してほしい。


他者との交流を通じて、アイデンティティを確認する事ができた彼女。今ここ、という現在位置は変わらないけれど、足場を固めて少し前を向く。そんな姿に勇気づけられました。

いつかは巣立つだろう若者達も、応援してくれるような一作です。

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