DISCASレビュー

アミスタッド

1839年、スペイン籍の奴隷輸送船で起きた奴隷にされたアフリカ人による反乱・乗っ取り事件「アミスタッド号事件」をテーマにした実話。アフリカで拉致されキューバで奴隷商人の白人に買われた50名近くのアフリカ人達は、奴隷船に乗せられ物として扱われ家畜同然の酷い扱いを受ける。奴隷のシンケたちは、キューバ沖で鎖くことに成功し奴隷商人の乗組員を殺害。数名の奴隷商人を生かし「故郷に帰せ」と命じるが奴隷商人は進路をわざとアメリカ大陸の方へ向ける。アミスタッド号は、アメリカ海軍の船に捕獲されてシンケたちは、アメリカで身柄を拘束され投獄される。それを知ったアメリカの奴隷解放論者のジョッドソンたちと弁護士のボールドウィンは、シンケたちを救おうと奔走する…

監督は、「太陽の帝国」「カラーパープル」「シンドラーのリスト」のスティーヴン・スピルバーグ。主演は、アフリカ人奴隷のシンケを演じたジャイモン・フンスー。シンケたちを担当する若手弁護士のボールドウィンにマシュー・マコノヒー。新聞記者で熱心な奴隷解放論者のジョッドソンを演じたモーガン・フリーマン。そして元アメリカ大統領で弁護士のジョン・クィンシーアダムズ役のアンソニー・ホプキンス。

この映画の主役は4人だと個人的に思った。スピルバーグもそのように誰一人脇役にならぬように存在感を示す作りをしているように感じた。言葉の通じない場所で過酷な状況を身体で伝えて表現したジャイモン・スー。最初は報酬目的で近づき弁護を受けたがシンケやジョッドソンたちと出会って人権のために闘う弁護士へと成長していく男を演じたマシュー・マコノヒー。奴隷解放という目的のために弁護士たちの心を動かすきっかけを作った影の立役者でもある奴隷解放論者を演じたモーガンフリーマン。最後は最高裁の法廷で感動的な演説シーンを演じて魅せた名優アンソニー・ホプキンス。

といった重要な役回りをそれぞれ4人が演じており主役はこの4人と言っても過言ではない。

またストーリー中盤で回想シーンとして奴隷船内の描写があるのだが、それが目を覆いたくなるほどの残酷描写の数々。拉致されたアフリカ人たちが男女共に全裸で船の中へ放り込まれるシーンや船内で餓死する者や赤子を抱いて船から海へ降りるシーン、ムチ打ちをされるシーン、お玉で一杯救ったどろどろの汚い食べ物を手の上に乗せられ与えられるシーン。中でも一番衝撃的だったシーンは、積み荷(奴隷)が多すぎるから食料が尽きると言う理由で弱った病人の奴隷や刃向かう者を鎖で繋ぎ生きたまま石のオモリと共に海へ投げ捨てるシーンである。個人的にトラウマが強すぎて今でもはっきりと覚えている。シンケとボールドウィンが言葉を少しづつ通わせていくシーンや元大統領のスピーチなど感動的で泣けるシーンもあるが、こういったトラウマ的残酷描写をはっきり見せて奴隷・差別の恐ろしい歴史的事実をいつまでも忘れぬよう我々に植え付けてくるのがスピルバーグの「歴史映画」の醍醐味でもある。

 

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1 件の返信 (新着順)
spy master
2025/11/11 22:19

何度も鑑賞している映画です。
大学の授業でアフリカ系アメリカ人の講師が見せてくれましたが、中盤にある奴隷船のシーンを「観ることはできない。このシーンが終わった頃にまた戻る」という言葉を想い出しました。
その講師自身の祖先がたどってきた悲しい歴史であり、日本人である私には到底わかるはずのないことだと感じました。
スティーヴン・スピルバーグ監督の隠された名作ですね。
アカデミー賞受賞者であるマシュー・マコノヒー、モーガン・フリーマン、アンソニー・ホプキンス、アンナ・パキンが出演していますね。


アフリカ系アメリカ人の講師の方が中盤のシーンが観れない部分がとても興味深いです。
スピルバーグの歴史作品は、「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」「ミュンヘン」など、目を覆いたくなるほど辛いシーンを直接的にしっかりと撮りますね。
恐ろしい歴史を風化させない意味も込められてるのかもしれません。