ソハの地下水道
【最初はソハを軽蔑していた私だったが】
(2011年・独/ポーランド・144分)
監督:アニエスカ・ホランド
原作:ロバート・マーシャル『In Darkness』
舞台となるのは、ナチス支配下(1943年頃)のポーランドのルヴフ。現在のウクライナのリヴィウだという。
タイトルにある「ソハ」とは、本作の主人公レオポルド・ソハのこと。下水修理を本業としながら、空き巣まがいの行為で家族を養っていた男だ。空き家になっているユダヤ人の家で金目の物を盗み、金に換えていたのだ。そんな折、収容所行きから逃れるために家の床下から地下水道までつながる穴を掘っているユダヤ人たちと遭遇する。
ドイツ軍に通報すれば報奨金が得られるのだが、ソハは彼らを地下に匿ってやる見返りにユダヤ人から金を取ろうと考えたのだ。
地下水道とは、つまり下水道のことである。汚物が流れ、悪臭が立ち込め、ネズミが這い回るような過酷な環境だ。おまけに暗闇。汚水に浸からずに寝起き出来る場所を確保するのにも限界がある。迷路のような下水道の構造を知り尽くしているソハであっても、匿う人数が増える程、危険度が高まるのだ。
隠れ場所の移動、食料の調達など、何とかユダヤ人狩りの目から逃げ果せて来たソハだったが、ある日、自宅に帰ると、懇意にしているウクライナ将校が下水道を案内しろと言って来た。下水からタマネギを調理するニオイがしたと通報があったらしい。
下水道内を案内するソハ。将校とその部下がソハの後ろをついて来るが、悪臭と漂う汚物に怖気づく彼らに代わって、ソハが様子を見てくると言って何とかその場を凌ぐことが出来たのだった。自分の周囲(家族)にも危険が迫っていると感じたソハは、ユダヤ人たちと距離を置こうとする。しかし、長い期間を彼らと過ごしたことによって彼らに同情し、「彼らも自分と同じ人間である」という思いが芽生えて来て、彼らに寄り添い続けることを選択したのだった。
ユダヤ人の弱みにつけ込んで金品を得ようとするソハの狡猾さに、当初は嫌悪感すら覚えた。しかし、動機は何であれ、命の危険を冒してまで彼らを守り続けた姿に、次第に彼の人間性が浮かび上がってくる。
映像はまるでモノクロかと錯覚するほど暗く沈んだトーンで描かれていたが、14カ月の潜伏の末、やっと戦争が終わってマンホールから顔を出した時、頭上には青空が広がり一気に色彩が戻って来た。マンホールから出てくる彼らを見て、地上の人々は「一体誰なの?」と怪訝そうな顔する。「僕の家族だ」と言うソハ。
拙レビューで紹介したあらすじは、まだまだ核心に迫っていない。
極限状況下にある人々の疑心暗鬼、男女の惹かれ合う気持ち、妻や子供よりも愛人を選ぶ夫、地下水道での出産(14カ月の潜伏期間中の妊娠・出産だから、原因と結果が地下水道内にあったということだ)強制収容所に仲間を助けに行ったり、相棒が処刑されたり・・・
大雨で地下水道に大量の水が流れ込み、絶体絶命かと思われるシーン、その地下水道内でウクライナ将校を裏切ってしまったソハの心情など、ご自身の目で確認して頂きたい。
運命とは皮肉なもので、その後ソハはソビエト軍の暴走トラックから娘を守って事故死したそうだ。
本作は、実話である。戦争下での生存への執念と葛藤、善にも悪にもなれる人間性が描かれていた。 『シンドラーのリスト』や『アンネの日記』と並び、立場は異なれど、ユダヤ人を救おうとした者たち、そして、迫害された者たちの「声」を、今一度しっかり受け止めたいと思った。