15日までYoutubeにて無料公開中!! ジャパニーズホラーの金字塔『八つ墓村』
「八つ墓村のたぁ~たぁ~りぃ~ぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
皆さんこんにちは!
椿です。
冒頭のこのセリフ、ある映画のテレビCMで流れたナレーションなのですが、椿と同世代の皆さんなら、この言葉で♪じゃんじゃかーじゃじゃじゃじゃんじゃかーじゃじゃじゃ♪の音楽とともに、桜吹雪の中、懐中電灯を頭に刺して日本刀とライフル銃を持ちながら走って追いかけてくる真っ白な顔の男の姿をトラウマとともに思い出されるのではないでしょうか。
そうです。その作品が
『八つ墓村』(1977)
であります。
原作は横溝正史。
そう、金田一耕助の登場する推理ミステリー小説です。
『八つ墓村』は1950年代に横溝により著作された作品で、金田一探偵の登場する長編小説の4作目にあたります。
岡山県を舞台に、「落ち武者狩り」を逃れてとある村にやってきた武士たちの「隠し財宝」と、むごたらしく惨殺された武士たちの「怨念」、さらに1938年、実際に岡山県で起きた「津山三十人殺し(※)」事件に着想を得て、村の大富豪多治見家の財産相続をめぐる血なまぐさい連続殺人事件を描いた小説となっています。
1971年に角川文庫より横溝正史の選集出版に伴い大ヒットした原作を松竹が映画化権を獲得。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いの角川文庫は、映画製作に積極的に乗り出し、東宝とともに前年に『犬神家の一族』を制作して成功。本格的に『八つ墓村』にも制作にかかわろうとしましたが、松竹に拒否されるという、ドタバタの上作られました。
約3年の製作期間と15億円という破格の製作費をかけて作られた本作。松竹映画史上最大級のヒットを飛ばす作品となりました。
【あらすじ】
空港職員の寺田辰也は、自分の消息を探っている新聞記事を発見し、記事を依頼した母方の祖父と面会。しかし直後祖父は苦しみもがき死ぬ。寺田を探していたのは父方の腹違いの兄で富豪の、多治見久弥だった。久弥は大病を患い余命いくばくもない。多治見家の遺産を弟に継がせるために消息を調べさせていた。寺田は親類の森美也子とともに、故郷へ向かう。その村は戦国時代、匿っていた落ち武者8人を、報奨金欲しさに裏切り皆殺しにしてしまったが、その後、その殺戮に関わった首謀者が次々不可解な死を遂げたことから落ち武者8人の墓を建てて鎮魂した歴史があることから「八つ墓村」と呼ばれていた。
生まれてこの方、故郷を訪れたことのない寺田を歓迎する者はほとんどおらず、よそ者扱いどころか、彼を探しに行った老人が死亡したことから、寺田が村に戻ってくれば八つ墓の呪いが再び村に降りかかるとすら言われる。また、多治見の親戚筋の者達も、多治見家の財産を狙っており、そこへ多治見直系の血を引いた寺田が戻ってきたことで不穏な空気がただよう。
村では、まるで寺田の帰村を待っていたかのように、第二、第三の殺人事件が起こり、村人たちの多治見家と寺田に対する疑心暗鬼が渦巻く。この村は、かつて落ち武者殺害を企てた首謀者の祖先であった久弥や寺田の父、多治見要蔵が狂いだし、村民32人が殺害されたという恐ろしい過去を持っていた。老若男女、赤子に至るまで殺した要蔵はその後姿をくらましていた。
と、八つ墓村に事件の解決を依頼された探偵、金田一耕助がやって来る。金田一が事件の真相に迫ろうと奔走するものの、次から次へと人が殺されてゆく。落ち武者8人の呪いによって犠牲者が8人になるまで、この殺人は続くのか?果たして、呪いのなせる業なのか?それとも財産を狙う何者かの仕業なのだろうか・・。やがて、金田一は恐ろしくも因果な真実に迫ってゆくこととなる。
骨太の演出力・脚本力
本作の監督は、名匠、野村芳太郎。若いころは喜劇を中心にした娯楽映画を撮る一方、松本清張原作による『張込み』『ゼロの焦点』『鬼畜』『わるいやつら』『疑惑』等を監督。そのなかでも『砂の器』は骨太の人間ドラマをフィルムに刻み込み非常に高い評価を受けました。そのほかにも『事件』『真夜中の招待状』『配達されない三通の手紙』『震える舌』といった人間の深い業を描く社会派のサスペンスドラマを手掛けています。
原作の時代設定である大正時代を変更し、現代の物語として、その現代になってもなお残る村の因習、呪いを虚飾なく真正面から描くことで十分に今の世でも通用する説得力を持たせています。
「金田一耕助」もの、というと、市川崑監督を思い浮かべます。市川監督は独特のカメラワークや陰影の使い方、女優のクローズアップなど、市川節とも言える独特の表現方法で観る者の不安をあおり心の中にづかづかと入り込んでくるような強引さがありますが、野村監督はカットワークをあまり多用せず、俳優達がつむぎだす表情や空気感を正攻法でつぶさにフィルムに収めています。どっしりとした安定感のある撮影により観る者が物語の世界にじっくりと入り込める作風はまさに社会派サスペンス向きの監督さんです。
また、本作の脚本は橋本 忍。日本を代表する脚本家で、黒澤明らと共同で、『七人の侍』『羅生門』など黒澤映画の多くの作品を手掛けたほか、『切腹』『侍』『日本の一番長い日』『日本沈没』『八甲田山』『砂の器』等、日本映画で大ヒットを飛ばした作品に多くかかわっており、まさにヒットメーカーと言えます。本作や『砂の器』では、原作を大きく改変したものの、原作者からお墨付きをもらえるほどドラマ作りに長けた手腕の持ち主でもあります。
名優たちの競演
本作の出演陣は、松竹が満を持して発表した作品だけあって、豪華な出演陣となっています。
主役の寺田辰也に萩原健一。森美也子に小川真由美。小川の妖しい色気が何とも言えません。多治見要蔵と久弥を山崎努が二役で演じ切ります。要蔵の32人殺しのシーンはまさに恐怖とトラウマを植え付ける恐ろしいもので『シャイニング』のジャック・ニコルソンに匹敵するのではないでしょうか。辰也の腹違いの姉に山本陽子。非常に初々しく、透明感のある美しさに魅せられます。落ち武者の大将尼子には夏八木勲。その存在感と恐ろしい表情は七代祟る呪いを発するのに十分な迫力。他に田中邦衛、稲葉義男、佐藤蛾次郎らが落ち武者。落ち武者を殺害する多治見家当主に橋本功、ほか、中野良子、大滝秀治、花沢徳衛、市原悦子、下條正巳、下條アトム、島田陽子、風間杜夫、加藤嘉、綿引勝彦、藤岡琢也など、7.80年代の日本映画、テレビ界を支えた名優たちが出演しています。
また、寺田の幼少期の役を、『ゴジラ-1.0』で野田博士を演じた、我らが吉岡秀隆が演じているのです。(余談ですが、母親役の中野良子は、その子が、後に名優の仲間入りを果たした吉岡秀隆であったことをずっと知らなかったとの事)
さぁ、そして、金田一耕助。皆さんの金田一耕助のイメージと言ったら誰ですか?石坂浩二?鹿賀丈史?はたまた古谷一行??どちらかというと、やせ型で二枚目なイメージだと思いますが、本作の金田一はなんと!渥美清!!そうです。『男はつらいよ』の寅さん!!寅さんのイメージがついてしまった渥美清の金田一は、結構冒険のキャスティング、なようですが、これが朴訥とした感じでとても良い。変に騒ぎ立てることも無いし、説得力があるんです。実は横溝正史も、あくまで物語の主役は事件に巻き込まれる主人公たちで、金田一は狂言回し的な役柄であるから、ハンサムなイメージではなく、渥美清のようなイメージだ、と言っていたとか。そういう意味でも非常にベストなキャスティングなわけです。謎解きの時の渥美による説明は、そのまったく飾らない語り口から、この因果纏わる恐ろしい物語を深く伝えてくれます。その語り口は、「寅さん」のそれではなく、まさしく「金田一」のそれです。
美しい情景
古き良き時代の日本の原風景、非常に自然を美しくとらえた映像美も見どころです。深い山間に囲まれた谷間にある八つ墓村の全景、落ち武者たちが逃げ隠れしながら、厳しい自然に立ち向かってゆく前半の、険しくも美しい自然の姿、クライマックスの鍾乳洞、「龍の顎(りゅうのあぎと)」とよばれる、鍾乳洞の中など、その造形美もしっかりとフィルムに収められ、それを観るだけでもほれぼれしてしまいます。日本とは、かつて、こんなに美しかったのか、と思えるような情景です。
流麗な音楽
その美しい情景をさらにひきたたせるのが、芥川也寸志による流麗な音楽。芥川はその名の通り、芥川龍之介の息子。『ゴジラ』の作曲家、伊福部昭に師事し、師の影響を最も受けた作曲家でもあり、多くの映画音楽も手掛けています。特に野村芳太郎監督とのタッグ作品は多く、『砂の器』(音楽監督)等も手掛けています。
大自然を表現する際の同一のメロディを畳みかけ、管弦の波打つように盛り上がりや、多治見要蔵が襲い掛かってくる際のリズムの刻みなど、映画の盛り上げ方が素晴らしいです。芥川は本作で日本アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞しています。
ジャパニーズホラーの金字塔
重厚・骨太、かつ硬派な作風からは想像もつきませんが、まごうことなき「ジャパニーズホラーの金字塔」的な作品です。横溝正史の原作自体に猟奇的趣味が炸裂したミステリーであることに間違いありませんし、市川崑監督による何本もの映画作品も、横溝正史の原作に沿った形で猟奇的な殺害方法が描かれています。
が、本作『八つ墓村』は一味も二味も違います。
1970年代と言えば『エクソシスト』『オーメン』に代表される“オカルト映画”全盛の年代。本作はそのオカルト映画的趣向で作品をとらえ、遺産相続をめぐる血なまぐさいミステリー映画の態をとりつつ、実は事件の根底に流れているのは虐殺された落ち武者たちの、執念と呪いを描いたホラー映画となっています。日本映画史上、かなり怖く、ショッキングなシーンが用意されています。
【恐怖度1 霊に憑依され・・・】
物語のクライマックス。ひょんなことから犯人を突き止めた寺田でしたが、突如その犯人が豹変。口が裂け、目が黄色く濁り、生気のなくなった顔色に変わったかと思うと、笑い声とも鳴き声ともつかない唸り声をあげながら、逃げる寺田を追い詰めるシーン。まるで『死霊のはらわた』で悪霊に憑依された人間を想起させるような怖さです。犯人が何故、そのよう豹変してしまったのか?その驚愕の理由は金田一によって暴かれます。
【恐怖度2 32人殺し】
実際に起きた「津山三十人殺し」事件にインスパイアされた殺害シーン。まるで般若の形相をした多治見要蔵がライフル銃と日本刀を持ち、懐中電灯を頭に刺しながら、桜の満開の木の下、駆け抜けてゆきながら次々と人を殺してゆくシーンは、山崎努の狂気の熱演も相まって、強烈なトラウマシーンに仕上がっています。泣き叫ぶ赤子を発見し、ニヤリとひと笑いしたかとおもうと、容赦なく刀を突き立てるシーン。もちろん、直接指す描写はありませんが、ブツッっと赤子の鳴く声が止まってしまう。まさに化物の所業です。
【恐怖度3 落ち武者惨殺】
毛利の追手から逃げ延びて、ある村にたどり着いた武者たち。村人たちは彼らをかくまい、関係も良好に進んでいた。しかし、その武者たちの首に報奨金がかけられていると知った村人たちは、村の祭りに武者たちを誘い出し、毒入りの酒を飲ませて殺害。抵抗するものは容赦なく刃物で体を切り刻み、竹やりで目や腹を突き刺す。ここの殺戮描写がかなりエグい出来で、グロい映像がダメな方にはちょっとオススメできない10分弱のシーンとなっています。首を切り落とされながらも首が飛び、村人の腕に食らいついたり、寺の縁側に並べた、切り落とされた首が、にやぁ、、と口を開けるシーン等、これもトラウマ必至。ついでに言ってしまうと、この後、落ち武者殺害を指示した村の長が狂い、村人を殺し、自害するシーンも、橋本功の強烈な演技もあって、極上のトラウマシーンに仕上がっています。
ほかにも多くの人間が殺されてゆくのですが、この3つのシーンが完璧なホラーシーンであり、ここまで怨年を感じさせる殺戮シーンは洋の東西に関わらず髄一のものであると断言できます。オカルト要素がつまった犯行理由にも戦慄させられますし、これぞジャパニーズホラーの傑作!!と声を大にして、全力でおススメしたいです。
なお、野村芳太郎、橋本忍により、原作から逸脱しホラーテイストに仕上げられた作品はほかに『震える舌』『真夜中の招待状』があります。特に『震える舌』は、破傷風を患った少女とその家族の物語なはずが、まるで悪魔に憑りつかれた『エクソシスト』を彷彿とさせるホラー映画に豹変しており、観る者をトラウマの沼にに瑕りこんでしまいます。
映画『八つ墓村(1977)』の魅力をご紹介いたしましたが、いかがだったでしょうか?本作、今月15日まで公式Youtubeで無料公開されております。15日までに見られない方は、是非レンタルをご利用ください。
最後に、この物語に影響を及ぼした『津山事件』を映画化した作品
『丑三つの村』
をご紹介します。
津山事件の犯人が、いかに心を病み、事件を行動に移してゆくかを、閉鎖された村社会の息苦しさを描きつつ、人々の愛欲と残虐さを描いた、海外でもカルト的人気を得た作品となっています。その残虐さと淫乱さからR18指定された作品です。
古尾谷雅人が犯人役、五月みどり、池波志乃、大場久美子、田中美佐子がヌード、濡れ場も惜しげもなく演じていることも話題になりました。また『八つ墓村』でむごたらしく殺された落ち武者の頭領を演じた夏八木勲が、ここでは身勝手な村の長役として出演しているのも面白いです。
※【津山事件(津山三十人殺し)】
岡山県津山市(犯行当時は西加茂村)で1938年、都井睦雄によって引き起こされた大量虐殺事件。学生時代成績優秀だった都井だが、体が病弱なため引きこもり生活を送り、外界とのコミュニケーションを断つようになってゆく。
やがて結核を患い、兵役検査にも合格せず、補欠のような状態となり、それまで彼と関係を持っていた女性たちも彼から離れ、恋愛関係にあったはずの女性もほかの村へ嫁ぎにでてしまったことにより、彼の狂気が爆発。猟銃弾薬に日本刀をそろえ、綿密な計画の元、事件を実行に移す。一時、計画途中に武器を集めていたことが発覚し、重火器類が没収されるものの、再び集めて実行するといった執念であった。都井は犯行後自害している。
2019年に勃発した「京都アニメーション放火殺害事件」が起きるまでは明治以降最多の被害者を生んだ事件でもある。
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投稿を表示観ちゃいました そんなこと言うから
中坊の頃、三番館で観てから早や ○○年が経ち、光陰矢の如しじゃ
観返してみると渥美の金田一が最高、でも記憶の中では、こんなに出番あったかなー? と
鍾乳洞の前で村人達に「犯人は・・・・」とか「皆殺しにされた4家族は・・・・の子孫」とか鮮烈に脳内に残る渥美のセリフ回し ほぼこのシーンのみに出演されていたと思ってました なので
大阪キタの街を歩き回る渥美とかを今回観て、新鮮で、観れて得した感が半端ない 加えて
小川最高、山本最高、きれい。中野の悦びの表情・・・美しい。(不適切にもほどが 的で、すいません ♪女の悦び、妻ぁーのしわわっせー らんらーらららら―婦人倶楽ー部♬ 今月の付録は すぐ役立ついけ花独習書 です)
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投稿を表示わたしも久々に観ました!何気に冒頭の加藤嘉が死ぬ場面もリアル演技で怖いんですよね、、で、⚪︎ぬまで誰も手を出さず助けないという。。子役が吉岡君なのは初めて知りました!
そして、市川崑と野村芳太郎の演出の違いも際立って感じました。ミステリーとホラーの割合もありますが、大人文化の懐石と若者のビュッフェの盛り付けの差みたいなのも感じました。
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