カッツ
2025/10/11 15:16
異人たちとの夏
この映画は、幻想と郷愁が交錯する不思議な作品です。夏の夜、主人公・原田英雄(風間杜夫)が浅草を訪れると、亡くなったはずの父親(片岡鶴太郎)と再会します。まるで昔のままの姿で、浅草のすし職人として生きているかのよう。鶴太郎が演じる職人の姿には、昭和の職人気質がにじみ出ていて、どこか懐かしさを感じさせます。
母親役の秋吉久美子は、鶴太郎の妻としては少し美しすぎる印象もありますが、その違和感が逆に作品に独特の味わいを与えています。シミーズ姿で親子三人が囲む食卓のシーンなど、昭和の家庭の空気感が丁寧に描かれていて、時代の記憶を呼び起こされるようです。
さらに、名取裕子が演じる、かつて同じマンションに住んでいた亡き美女も登場し、物語は次第に幻想的な色合いを強めていきます。主人公は、こうした“異人”たちに生気を吸い取られ、少しずつあちら側の世界へと引き込まれていく——そんな不思議で切ない夏の物語です。
懐かしさと哀しさが入り混じった、静かな余韻の残る作品でした。
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