テレフォン
【洗脳の怖さ オモシロいアクション・スパイ・スリラー】
(1977年・米・103分)
監督:ドン・シーゲル
原題:TELEFON
KGBは、ダルチムスキー(ドナルド・プレザンス)という名前の男を捜索していた。彼が重要なあるものを盗んだのだ。
その後、アメリカ国内では軍事基地の破壊が多発するようになったが、その犯人はどれも一見普通の市民たちだった。そして、彼らが犯行に及ぶ前には、必ずある男から電話が掛かっていた。ダルチムスキーからだった。
電話でダルチムスキーが囁く。【森は美しく暗く奥深い。でも、私には守らなければならない約束がある。・・・】
この電話の後、彼らは催眠術にかけられたように車に爆薬を積んで活動に向かった。
この洗脳に使われた言葉は、アメリカの詩人ロバート・フロストの「雪の降る夕方森に寄って」という詩の一節らしい。電話で指示を受けた市民たちは、かつてのソ連の留学生だったようだ。知らない間に「テレフォン作戦」のために洗脳された自爆工作員だったのだ。
すでに冷戦も雪解けとなって、この作戦は必要のないものとなっていたが、ダルチムスキーは国際紛争の火種を起こすためにアメリカに潜入したのだ。ソ連首脳は、事態の収拾を図るべくグリゴリー・ボルゾフ少佐(チャールズ・ブロンソン)をアメリカに派遣した。加えて、在米KGBのバーバラ(リー・レミック)を彼の妻役として送り込む。
一度かけられた洗脳が、こんな長期にわたって有効だというのが怖い。指示を出すダルチムスキーを演じるドナルド・プレザンスの挙動不審の演技もあのオドオドした目付きもよかった。
ボルゾフ少佐が写真記憶力(一度見たものを記憶する)を持っていて、関係資料を持たず手ぶらで大丈夫という。この任務では、ダルチムスキーが手にいれた「テレフォン作戦」の洗脳者名簿の2冊目を暗記したが、1冊目の内容は知らない。果たして次は誰に電話をするのか?先回りして阻止できるのか?
妻役を命じられたバーバラは実は二重スパイで、ダルチムスキーを粛清した後はボルゾフを殺さなくてはならない。ドジのようでいて案外有能。病院で看護師に扮した彼女、綺麗だった。
ダルチムスキーの先回りをして洗脳された男を助けようとするシーンや、ダルチムスキーをやっつける終盤は思いの外、盛り上がった。任務遂行後のバーバラの葛藤も。そして、ラストは堅物のボルゾフが粋なセリフを吐いて終わる。「寝るまでにはまだまだ時間がかかる」
偶々、録画の整理をしていて見つけた本作。(NHKBSのプレミアムシネマ)ドン・シーゲル監督だし、主役はチャールズ・ブロンソン。きっと面白い筈。そう思った。でも、最初はブロンソンがロシア人という設定が受け入れられず違和感しかなかった。ストーリーが進むにつれて気にならなくなったけど、今でもロシア人の顔には見えない。メキシコ人役なら納得できるかも。
トリビア情報として
・ドン・シーゲル監督は、ブロンソンに髭を剃るようにと依頼したけれど、「口髭がなければブロンソンじゃない」と剃らなかった。
・カナダ国境で入国管理局の職員に市民権と出生地を尋ねられるシーン。ボルゾフは「アメリカ人。ペンシルベニア出身」と答える。これって、ブロンソンの本当の出生地らしい。
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投稿を表示ドン・シーゲル監督は、アメリカ映画史上、最も偉大なB級映画監督と言われた時期がありました。
でも常に、 ‘いかに観客を楽しませ、或いはだまし通せるかを考え抜いた’ と自負する監督でした。
B級監督から脱皮したのが、クリント・イーストウッドと出会った「マンハッタン無宿」(68年)で、同作は「ダーティハリー」(71年)の原型と呼べるものです。
イーストウッドは、 ‘シーゲルが監督なら出演する’ と断言し、「真昼の死闘」(70年)、「白い肌の異常な夜」(71年)、「アルカトラズからの脱出」(79年)に出演しました。
逆に、イーストウッドの初監督作品「恐怖のメロディ」(71年)では、シーゲル監督がバーテン役で出演しているんです。
ウォルター・マッソー主演の「突破口!」(73年)や、ジョン・ウェイン主演の「ラスト・シューティスト」(76年)も良かったですが、この「テレフォン」はそれらに見劣りしない面白さがありますね。
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投稿を表示いやぁ、この作品をご覧になったとは幸運ですね。
ドン・シーゲルもいろいろなジャンルの映画を撮っていますが、スパイものはあまり知りませんから珍しいと思います。
しかもスパイものでもKGBの少佐が主人公というのも重ねて珍しいです。ダルチムスキーにドナルド・プレゼンスを配し、彼を追うボルゾフ少佐にチャールズ・ブロンソンという配役がうまく機能していると思います。
そこに絡むリー・レミックの現地工作員バーバラ、途中からCIAもソ連の秘密計画に気づき三つ巴の追跡が始まるのもサスペンスを盛り上げております。ドン・シーゲルの面目躍如というところでしょうか。
ところでチャールズ・ブロンソンがロシア人の設定がなかなか受け入れ難かったと書かれておりますが、なんとブロンソンはロシア移民の息子だったのです。確か、アンドレイ・タルコフスキーが遠い親戚だという話を聞いた覚えがあります。初期にはチャールズ・ブチンスキーと名乗っておりました。
冒頭のソ連国内のシーンでは撮影に苦労したと思いますが、ダルチムスキーの逮捕に向かう特殊部隊のライフルが本物のAK(カラシニコフ突撃銃)が手に入らなかったためにフィンランド製のバルメというライフルを使用しています。遠目にはAKに見えます。
「テレフォン作戦」をボルゾフ少佐に説明するために後催眠暗示をかけられた従兵が自分の頭に向けて撃つ拳銃は帝政ロシアから第二次大戦中のソ連まで使われたナガン・リボルバーです。これは本物です。朝鮮戦争あたりで鹵獲されたナガンが、そのままアメリカ兵によって持ち込まれたものだと思います。特殊な7.62㎜の弾薬を使い、シリンダーが前進して銃身後端に押しつけられるのでシリンダーと銃身との隙間から発射ガスが逃げないので威力が下がらないという特徴があります。こういう部分は割と拘っています。
ボルゾフがアメリカでバーバラから渡されるのがS&W M27という357マグナムを使用するリボルバーです。最後がいつもの”趣味の時間”になっちゃいました。