
斎藤工単独インタビュー前篇 / 『「パカリアン」は時代の本質を捉えている気がする』in大阪コミコン2024

2024年5月3日(金・祝)~5月5日(日)の3日間、インテックス大阪で大阪コミックコンベンション2024(以下略称:大阪コミコン2024)の公式アンバサダーを務める斎藤工に大阪コミコンに対する想いと、『パカリアン』への想いについて聞いた(取材・文 / 中谷 元)
――初の大阪コミコン、実際に自分の足でブースを歩いてみて、如何でした?
斎藤:それぞれのブースが本当に豊かで、参加者の皆さんも好奇心に溢れているので、会場の空気は“集まる人の想い“でできているように思います。ものすごくポジティブなエネルギーに満ちた会場だなと思いますし、童心に戻る瞬間がたくさんありますね。童心に一瞬で戻るキッカケが映画であり、ポップカルチャーなのだと思いました。
――大阪コミコンは東京コミコンとまた違う雰囲気ですが、コミコン自体にどういうイメージを持っていましたか?
斎藤:アメリカで盛り上がっているイメージはありましたが、日本でどう融合するのかな?という好奇心はありました。漫画文化の歴史や、日本は他国に負けない様々な歴史がありますよね。日本独自のコミコンとして成功しているからこそ、セレブの方々もリピーターで来て頂ける、とても良い循環ができていると思います。コロナ禍を経て、これだけのセレブの方々が一度に会する場はコミコンだから成立していると、会場での体験を通して、奇跡的な魔力なるものがある場所だと感じました
――作品『パカリアン』について、声優を務めることになった時に意識したことや大事にしていたことは何ですか?
斎藤:秦監督の作品は全て拝見しています。秦監督の世界観はチャップリンの映画のような、“言語ベースより引力に引き込まれるか否か”というところが、秦監督の毒素も含めて好みでした。秦監督の作品の世界観はポップなだけではなく、哲学やクリエイターのアイデンティティの部分にシニカルなものがあります。秦監督の作品は今だけではなく、その尾を引くというか、“現実につながる何か“があると思っています。映画を観たことがない世界中の子供たちに体験してもらう中で、そのリアリティは絶対に必要だなと。『パカリアン』のお話を頂いた初めてお話いただいた時、秦監督は国内でのものづくりの先にある”世界に打って出る一作品“に魂を注いでいるように感じました。秦監督の持つシニカルさや言葉、毒素のどれ一つ取ってもが純度高く、『パカリアン』にはしっかり現れているなと思いました。私はそれを”いかに邪魔しないか“と考えながら、その世界観に慕ってもらえるように心掛けました。
――ストップモーションは“セリフがなくて伝えられる”ところも魅力ですね。
斎藤:セリフや言葉という形じゃなくて、「感情音」ですね。今のインタビューのように、言葉以外にも合いの手や、その「感情音」みたいなものが実はコミュニケーションのツールになっていると思います。セレブの方とバックステージで話していても、言葉で上手く伝わらなくても、“ただ何かを捉え合う”というか、言葉を超えた会話に「感情音」があるのではないか、と感じている今日この頃です。
――個人的な意見ですが、次回作が公開されるのであれば、是非斎藤さんに声優を担当していただきたいと1ファンからの希望です。『パカリアン』の再度、魅力を教えてください。
斎藤:偶然ではありますが、とある短編シリーズのお仕事もいただいていて、それも宇宙に関わるお話でして。そして、時を同時にして、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』も非常に近い作品となっています。かつてUFOブームがあった1980年・90年代ならエンタメとして、オカルトのような括りでしたが少しずつ現実味を帯びてきている気がします。『パカリアン』の後に『シン・ウルトラマン』のような半分宇宙人・半分地球人みたいな世界観も徐々に“パカリアンの世界”が現実味を帯びてきている不思議さを感じます。
――近々、『パカリアン』の未来が来るリアルですね。
斎藤:『パカリアン』は、実は時代の本質捉えている気がします。

――『cinéma bird』や『こどもディレクター』などの活動を見受けられる中、ご自身のこの先目指すものや、大切にしていきたいことは何ですか?
斎藤:今関わっている映画が二つありまして。1つは『大きな家』という児童養護施設のドキュメンタリーで、竹林亮監督と一緒に作っている映画です。もう1つは映画の制作側に参加していて、俳優のダニー・トレホさんが出演されている保護犬の作品があります。海外では決められたサイトに企画と脚本を掲載して、それをハリウッドの役者さんや制作陣が自由に見ることができる仕組みになっています。ダニー・トレホさんが愛犬家だったことからこのようなキャスティングになりましたが、クリエイティブファーストな映画の作り方です。さらに、制作予算が全部集まってからじゃないと製作が進まないスタイルなので、日本だと曖昧な状態でクランクインしてしまうので、“未払い”の問題が発生したり、仕上げに予算が回らない現状も多々起こり得ます。海外はインディーズでもメジャーでも総予算の目途がつかない限りクランクインしないので、ある意味誠実な映画作りだと思います。日本は事務所に所属して、オーディション受けて、オーディションや作品を待つ“ウェイティング”の状態になるのが普通です。「この企画絶対成立させたい!」と企画に対して能動的に俳優が関わっていくものづくりの仕方は理想的ですね。
――映画に対して、様々な取り組みをされている斎藤さんは業界全体を見通していますね。
斎藤:俳優業を10年20年やっていくと分かってくるんですけど、この先の人生のイメージができてしまうので、そこに意外と夢がなくて。しかし“ものを作る”となると、初期の好奇心に戻り、企画から俳優が介入する強さがあると改めて感じます。みんな納得した上で1ヶ月~2ヶ月の稽古した上で、自分の役割やセリフに辿り着く舞台と似ていますね。みんなが納得の上、予算も含めて撮影に入ると、自分の役割を全うのでクリエイティビティが上がると今、まさに体感しているところです。このような思考を持っていると、山田孝之さんや賀来賢人さんのような同じ方角を向いている人が炙り出されていくので、そこが連帯していくっていうことが活路の一つになるかも?と感じています。
――映画業界に対して、メスを入れていく先駆者ですね。
斎藤:日本は“大儲けしなくても損はしない”産業に映像業界がなってしまっているので、いかに主張していくか・度量を稼ぐかみたいなところを露骨に設定するべきなんじゃないかなと思っています。『パカリアン』のような今後に期待できる作品が外貨を稼いだらいいなっていうのは強く思いますね。コミコンは夢の場所でありながら、同時に現実が真横にある精神状態でいられるので、“映画との向き合い方”を考えさせられる時間になります。コミコンでは僕の武器が『パカリアン』だと強く思いましたし、作品を纏うことで初めて人前に出られる良い体験になりました。(後篇に続く)

6月9日から、好評につきU-NEXTで再配信される『パカリアン』はこれまでショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017では話題賞を受賞し、ロンドンのDiscover Film Awardsではベストアニメーション賞を受賞しています。2018年には、カートゥーンネットワークでAdult Swim枠のコマーシャルブレイク映像『PACALIEN』を制作し、アメリカとカナダで放送されています。どちらも主人公の声優を斎藤工さんが担当。
【斎藤工 公式Instagram】
https://www.instagram.com/takumisaitoh_official/
【『パカリアン - PACALIEN』公式Instagram】
https://www.instagram.com/pacalien_official/