感動できなければ、音楽は作れない・・ 『マエストロ~その音楽と愛と~』
皆さんこんにちは、椿です。
レナード・バーンスタイン(1918ー1990)
皆さんはこの人をご存知ですか?
アメリカが産んだ偉大な作曲家であり、20世紀最高の指揮者の一人です。
このバーンスタインを描いた伝記映画
『マエストロ~その音楽と愛と~』
が公開されました。
Netfrix制作による映画なので、劇場で先行上映され、このたび12月20日よりNetfrixにおいて配信されております。
バーンスタインの大ファンであります椿、本作を早速鑑賞したのですが・・・・
いや、もう、感動いたしました。
実に素晴らしい作品です。
彼が没して30余年経っているとはいえ、当然、彼の親族は存命だし、彼の偉大さを目にし、耳にしたファンが世界中に居る中、そういった人物の光と影を刻銘に描くことは、かなり勇気のいったことでしょうし、単なる功績の羅列になってしまいかねない「伝記映画」を作ることは、挑戦だったに違いありません。
【類まれな演出力】
そこを劇映画として見事に成立させたのは、監督・脚本・製作をてがけ、自らバーンスタインを演じたブラッドリー・クーパーの情熱と才能によるところが大きいですね。
ある日唐突に訪れた成功とその一日で世界の楽壇の注目の的となり最愛の妻、フェリシアとの出会って充実な日々を送る前半をセピア色のカラーで統一。まるでファンタジーを見ているかのように、若かりしバーンスタインの作曲によるミュージカル曲をふんだんに使用し、明るい未来しか感じられない、と思いきや、バーンスタインの性趣向と多忙によるすれ違いから生まれる夫婦関係の亀裂を描く後半は、現実の色使いで、少しタッチも乾いていて、観る者の心の中にも、なにか、気まずさのようなちょっと胸に詰まるような苦しい感覚を投げかけてくる。
そんなところを、映像で魅せるのですから、本当にただ者ではない。
しかも、彼だけでなく、スコセッシとスピルバーグが製作に名を連ねているのですから、そんな大物監督を前にして躊躇なく、これだけの演出力を発揮するなんて、なかなかできることではないと思うのです。
【バーンスタインが憑依!?】
更に輪をかけて素晴らしいのが彼の演技。もちろん、特殊メイクが手伝っているのですが、いや、もう、バーンスタインそっくり。まるで憑依したのではないかと思うほどです。しゃべり声、しぐさ、指揮ぶり、徹底して研究されている。役に成り切っている、なんて一言では言えないくらい。自由奔放、誰からも愛され、自分も誰かに常に愛されていないと気が済まない、孤独に耐えられない、少年のようなバーンスタインの青年期から晩年までをその時々の表情をしっかりととらえた堅実な芝居に驚かされます。クーパーは余程、バーンスタインのファンなんだろうなぁ・・。そうでなければあそこまでの再現性は発揮できないはずです。
バーンスタインの音楽性と、指揮でみせる情熱、多くのメディアへの露出で、彼のポジティブな面のみで我々ファンは彼を語りがちですが、その裏の顔、ナイーブな面や人としての醜い一面にもスポットを当て、どうしたらよいかわからずもがき苦しむバーンスタイン像も浮き彫りにしています。作品を作るにあたり、相当取材、研究もしたのでしょう。
【最愛の妻フェリシア】
バーンスタインは性格が奔放でしたが、性癖は特に顕著で、かなりゲイ寄りでした。フェリシアという妻が居ながら、男性のパートナーを作ってしまう。フェリシアはそれでも懸命に尽くしてゆきますが、彼の名声が高くなればなるほど、二人の間には溝ができ、子供も、父親の性癖の噂を聞かされるなどして、家族が乖離してゆく。バーンスタインを愛し、尽くし、家族を守ろうと身を粉にするフェリシア。彼女を演じたのはキャリー・マリガン。非常にキュートな娘時代から、自身が壊れそうになりながらも、必死に夫との愛を模索し、家族を守り抜こうとする凄みある芝居を見せてくれます。明朗快活な少女から、母としての強さを備えた女性、そして別れと死を迎えることとなるまでを、非常に説得力を持って演じてくれています。彼女の存在があったからこそ、バーンスタインが素晴らしい音楽を作曲することができ、情熱的な指揮で音楽を作り上げ、名声を勝ち取ることができた。映画の中でフェリシアがバーンスタインへ語るせりふ
「感動できなければ、音楽は作れない」
「夏を喜べなければ、何も感動できない」
は、マリガンの言の葉に乗せて、バーンスタインを越えて、我々観客に響いてくるのです。
ネトフリ映画はアカデミー賞の対象となるのか分からないのですが、クーパーとマリガンの演技、クーパーの監督賞はノミネートに値するものだと思います。
【たばこ】
本作では、とにかく喫煙シーンが多く出てきます。というか、作品の3分の1強は、たばこを吸うシーンが出てきます。コンプライアンスが声高に叫ばれる昨今、これだけの喫煙シーンを盛り込んだ作品は近年、例を見ないのではないでしょうか。
しかし、バーンスタインを語る上で、彼がヘビースモーカーであったことを無かったことにするわけにはいきません。伝え聞くところによると、フェリシアも相当な喫煙者だったようで、とにかく二人とも吸う、吸う。たばこを嫌悪する方には、ちょっと見られない作品かもしれません(笑)
たばこの持ち方、吸う仕草、たばこの煙、スクリーンの向こうから臭いたってくるのではないかと思わせる感じ、シルエット・・・。バーンスタインの人生にたばこは欠かせなかったことを強く印象付けます。
【復活】
ひょんなきっかけで、崩壊に向かっていた二人の関係は再び強固なものへと転じてゆくのですが、まさにその愛の「復活」と、マーラー作曲 交響曲第二番『復活』がシンクロするという、感動的な演出がなされています。
劇中、この交響曲の終楽章部分の演奏シーンがあるのですが、このシーン、1972年に、イギリスのイーリー大聖堂で行われたロンドン交響楽団とのライブをほぼ完コピで行われているのです。元ネタの映像はちゃんと残っていて、伝説的な演奏となっているのですが、あまりに情熱的な指揮ぶりを、本当にそっくり、クーパーが演じています。
マーラーは、バーンスタインのライフワーク的な作曲家で、マーラーの真価を決定づけた指揮者がバーンスタインであるとも言われています。数多くの録音、録画を残しているので、彼のマーラーの音楽に対する向き合い方は並々ならぬものであったと、聞いていただければ実感してもらえると思います。
この交響曲は5楽章からなる1時間20分程度の作品で、その終楽章のラスト10分程度に合唱が入るのですが、それが非常に効果的かつ感動的で、特にバーンスタインの音楽性に合っているといえます。
「私が勝ち取った翼で、私は飛翔するだろう。私は生きるために死ぬ。そう、私は復活するのだ!」
そう歌い上げる歌詞。まさに、生前は評価されなかったマーラーが、死して何十年と経過してから、バーンスタインによって生命を吹き込まれ、復活したのです。そして、また、本作では、バーンスタインとフェリシアの愛も、この『復活』によって復活した、とされているのです。
このシーンは本当に素晴らしいものです。いかに完コピか、元の画像を添付しますので、ネトフリ加入されている方は見比べてみてください。
と、いいますか、生バーンスタインのすごさを少しでも感じていただけると嬉しいです。
ちなみに、演奏のロンドン交響楽団は『スターウォーズ』『スーパーマン』『レイダース』等、映画音楽でも有名な一流オーケストラであります。
【レナード・バーンスタインとは】
最後に、バーンスタインのことを少しだけ挙げておきたいと思います。
映画をご覧になった方の中には、バーンスタインの事をもう少し知っておけば、なお楽しめたとおっしゃる方もいますので・・。
作曲家として
ミュージカル:『ウェストサイド物語』『オン・ザ・タウン』『キャンディード』等
ミュージカルの分野では早くから頭角を現す。
交響曲:『エレミア』『不安の時代』『カディッシュ』
オペラ:『タヒチ島の騒動』(妻フェリシアがチリ出身だったことから作品に協力)
映画音楽:『波止場』アカデミー賞ノミネート。(エリア・カザン監督、マーロン・ブランド主演)
等を作曲。
指揮者として
アメリカで活躍したセルゲイ・クーセヴィツキーに師事(映画の中でバーンスタインに改名を迫る人物として登場)
アルトゥール・ロジンスキーの推挙でニューヨークフィルの副指揮者となる。
大指揮者で、マーラーの愛弟子でもあったブルーノ・ワルターが急病となり、急遽呼び出され、リハーサルも無しのぶっつけ本番で代役指揮。ラジオでその模様も放送されていた為、アメリカ中にそのセンセーショナルなデビューを飾る。その日、演奏された曲目には、映画『ベン・ハー』の作曲家でもあったミクロス・ローザの純音楽も含まれる。
そのデビュー以来、ニューヨークフィルとの関係は蜜月状態になり、以後何十年にもわたり同オーケストラを指揮。
しかし、作曲に時間を費やしたかったため、きまったオーケストラの常任指揮者のようなポストにはついておらず、客演という形で各地のオーケストラを指揮。アメリカ生まれの初の国際的な指揮者となる。
20世紀最高の指揮者として、ドイツのベルリンフィルを率いていた「帝王」ヘルベルト・フォン・カラヤンと人気を二分し、ベルリンフィルと、世界最高峰のオーケストラを二分していたウィーンフィルと蜜月の関係を築き、カラヤンとは対照的な音楽づくりで人気を博す。マーラーは彼のライフワークで何度も演奏、録音を行う。マーラーに自身を投影したかのような指揮ぶりは多くのファンを生んだ。
カラヤンの君臨んしていたベルリンフィルは、たった一度だけ指揮をしたのだが、その演奏はマーラーの交響曲第9番で、これが伝説的な名演奏となった。
ベルリンの壁崩壊を受けて、記念演奏家としてベートーヴェンの第九交響曲を演奏。歌詞の「歓び」を「自由」に変えて歌わせたことが話題になる。
指導者として
若手の指揮者、音楽家を教えること、育てることにも熱心で現在活躍している指揮者も多く輩出。日本では、小澤征爾(小澤征悦のお父さん)、佐渡裕など。映画『ター』のリディア・ターもバーンスタインの弟子、という設定。映画内で、マーラー5番のラジオ放送で目を覚ましたターが、その演奏に難癖つけるのだが、その演奏は同門(!)のマイケル・ティルソン・トーマスだったりする。
まだ若いころテレビ番組で、クラシック音楽の楽しみ方を教え(日本でいう『題名のない音楽会』のような)アメリカのお茶の間(?)でも人気に。これも映画『ター』で、指揮者としての名誉も地位も失ったターが、この番組を録画したビデオを見て、初心に帰る決心をするシーンがある)
ヘビースモーカー
1日に100本吸う。
ゲイ
彼の性嗜好はゲイで、それを隠すこともしなかったため、フェリシアに嗜まれたこともあったが、辞めることも無かった。恋多きオペラ歌手としても有名なマリア・カラスが「いい男はみんなゲイなのよ」とバーンスタインのことを言ったらしい。
日本での演奏
ニューヨークフィル、イスラエルフィルなどとともに数回来日。やはりファンの間では語り草になっている。1990年札幌でパシフィックミュージックフェスティバルを開催。若手指揮者の登竜門的音楽祭にするつもりだったが、体調不良でほぼキャンセル。ちょっとした騒動になった。
妻フェリシア
バーンスタインは性嗜好はゲイであったが、フェリシアを心から愛していた。彼女のがんが発覚すると、すべての演奏会をキャンセルし、彼女のもとを離れなかった。そして彼女を失った喪失感は大変なものだったらしい。
またまた、なが~くなってしまいました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ネトフリに加入されていたら、是非ご覧ください。
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投稿を表示見逃がしていますが、是非聴き(観)たいです
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投稿を表示バーンスタイン愛が溢れまくってますね!素晴らしい👍凄く興味わきました。劇場で観るべきでしょうけど😭配信になっちゃうかなぁ。
ちなみに椿さんのインスタのアカウントが探せませんでした。教えて欲しいです!
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