「ルックバック」すべての「創作せずにいられない人」への力強いエール
創作をする人は、なぜ創作をせずにいられないのか。
「ルックバック」は、そのことについての映画です。
創作をすることは、仕事として考えたら、とても効率の悪いことです。
漫画を描くのは、朝から晩までずーっと机に向かって、孤独に黙々と描き続ける、ものすごく時間がかかって、地味で疲れる作業です。
友達と遊ぶことも、アイスを食べることも、諦めなくちゃならない。
それで尊敬されるならまだしも、「オタクっぽい」とか言って気持ち悪がられてしまう。
努力が報われて売れっ子になっても、やはり毎日ひたすら机に向かって描き続けるだけ。
たとえお金が儲かったとしても、使う暇もない。仕事として考えたら、どこまでも割に合わない仕事。
創作って、基本そうです。効率は良くない。
漫画を描くことも、絵を描くことも、小説やエッセイを書くことも、音楽を作ることも、写真を撮ることも、映画を制作することも、同じだと思います。たぶん、映画レビューを書くことも。
膨大に時間と手間と努力だけ必要として、現実的な見返りは少ない。
それでもなお、なぜ描くのか? 書くのか? 創作を諦めずに続けるのか?ということを、「ルックバック」では丁寧に丹念に、描いていきます。
自分にとって得意なこと、みんなが褒めてくれて気持ちいい、シンプルな快感から始まったことが。
「自分より上手い奴」に出会って鼻っ柱をへし折られる衝撃を経て、本気の努力になっていく。
それでも「凄い」と思う奴には勝てなくて、一旦「やーめた」となった時に、それでももう一度引き戻すのは、初めて出会った読者の「ずっとファンでした!」という本気の言葉なんですよね。
一人で孤独に描いてきたものが、誰かに確実に届いて、誰かの心を動かしていたと知る、瞬間。
この瞬間の、心が浮き立つ感じ。
映画「ルックバック」では、あらゆる創作者にとっての原動力と言えるこの瞬間を、美しく躍動的に切り取っています。
コスパもタイパも悪い、創作するということ。それでも創作する人は、創作せずにはいられない。それはもう、理屈じゃないんですよね。
その孤独な努力の果てに、こんな美しい瞬間があることを、「ルックバック」は示してくれる。
「ルックバック」はすべての「創作せずにいられない人」に向けた強力なエールだと思います。
後半では、そんな創作する人たちを脅かす理不尽な暴力に対して、痛快なライダーキックをぶちかましてもくれます。
創作の魔力を少しでも感じたことのある人にとっては、グサグサ刺さる映画だと思います。必見です!
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