カッツ
2025/12/11 13:00
異人たちとの夏
この映画は、幻想と郷愁が交錯する不思議な作品である。夏の夜、主人公・原田英雄(風間杜夫)が浅草を訪れると、亡くなったはずの父親(片岡鶴太郎)と再会する。まるで昔のままの姿で、浅草のすし職人として生き続けているかのようだ。鶴太郎が演じる職人の姿には昭和の職人気質がにじみ出ており、観る者に懐かしさを呼び起こす。浅草の父親像とはこういうものだったのだろう、と納得させられるほどで、鶴太郎の演技はまさに絶品である。
母親役の秋吉久美子は、鶴太郎の妻としては少し美しすぎる印象もあるが、その違和感が逆に作品に独特の味わいを与えている。シミーズ姿で親子三人が囲む食卓の場面など、昭和の家庭の空気感が丁寧に描かれ、時代の記憶を鮮やかに呼び覚ます。
さらに、名取裕子が演じるかつて同じマンションに住んでいた亡き美女の登場によって、物語は次第に幻想的な色合いを強めていく。主人公はこうした“異人”たちに生気を吸い取られ、少しずつあちら側の世界へと引き込まれていく——そんな不思議で切ない夏の物語が展開される。
懐かしさと哀しさが入り混じり、静かな余韻を残す作品であった。
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