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DISCASレビュー

じょ〜い小川
2024/07/29 22:13

ユーミンとスキーリゾートとダメリーマンが織り成すバブル時代のスキーリゾート恋物語『私をスキーに連れてって』

■私をスキーに連れてって

 

《作品データ》
ホイチョイ・プロダクションズを代表するだけでなく、スキーリゾートブームの到来や直後のバブル景気・バブル時代などを象徴する映画となった原田知世主演のスキーリゾートでのラブストーリー。OLの優と恭世は志賀高原へスキーをしに行き、ゲレンデで矢野文男・泉和彦・小杉正明・羽田ヒロコ・佐藤真理子のグループと出会い、仲良くなる。この中で文男は優に一目惚れをするが、優のある勘違いから都内に戻ったあと連絡が取れなくなってしまう。池上優役を原田知世が、矢野文男役を三上博史が演じ、他原田貴和子、沖田浩之、高橋ひとみ、布施博、田中邦衛、竹中直人が出演。

・公開日:1987年11月21日
・配給:東宝
・上映時間:98分
【スタッフ】
監督:馬場康夫/脚本:一色伸幸

【キャスト】
原田知世、三上博史、原田貴和子、沖田浩之、高橋ひとみ、布施博、田中邦衛、竹中直人


〈『私をスキーに連れてって』考察〉
映画の中には公開当時はピンと来ないどころか映画作品の性質・作風から食わず嫌い、いや、テレビ放映でなんとなくは見たけど進んで見るにはちょっと…という映画がある。

が、そういった映画でも時が経つと映画作品の作風とは別に、俳優や言葉、アイテムから醸し出される時代の空気から価値が爆上がりする映画がたまにある。昭和のプログラムピクチャーのコメディ映画にはこの手の作品が多々あるが、プログラムピクチャー期から外れた、80年代後半に公開されたこの映画こそ、バブル時代の空気、アイテム、言葉、俳優を見ることでお宝映画に昇格した。そんなように思えてならない。

 

というのも、この映画が公開された1987年末、

筆者は小学6年生。

ようやく小川家でもVHSのビデオデッキを買い、三郷駅近くのレンタルショップで『トラック野郎』シリーズや『男はつらいよ』シリーズ、『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズを嬉々として借りたものだが、埼玉県吉川市や隣の三郷市、越谷市には映画館がなかったこともあり、話題作があってもすぐには見に行かなかった。いや、住んでる街に映画館があったとしても『ゴーストバスターズ』や『グーニーズ』ならまだしも、『私をスキーに連れてって』のような流行り全開なラブストーリーは見に行く気にはならなかった。もう一歩突っ込むなら、正直『私をスキーに連れてって』を見に行くのが恥ずかしかった。

 

これは筆者が小学6年生だったからではなく、後のフジテレビの月9のトレンディドラマもまた個人的には非常に苦手、というか見なかった。中学〜高校ともなると異性を意識するということもあってかトレンディドラマ&小田和正やチャゲアスの曲が他の同級生の間でも流行りに流行ったが、ボクはまるで受け付けられず、ひたすら日本・アメリカのプロレスやHM/HRの世界観で防御をしたものである。ある意味、いわゆる中二病だったのかもしれないが、当時はこうした時代の空気を嫌ってた人も少なくなかっただろうし、その反動でヤンキー文化や応援団、極度なオタク趣味他特殊な趣味の世界に入る人もいたはずである。

 

そして、30年以上経った令和の今。

いい加減にいい大人になり、恋愛映画も抵抗なく、しかも元ジャニーズ勢が主演を張るスイーツな女子高生ラブコメも率先的に見る。そうなると、TSUTAYAの店舗の邦画ドラマ映画のコーナーに置いてある『ワタスキ』もうっかり「あ、見てみようかなー」って思ったりするので、今回借りて、早速見てみた。


あ、これ、三上博史が演じる主人公・矢野文男を含めたスキー好き軍団が男女5人で、これに原田知世が演じる池上優&友達のOLコンビを加えた男女七人冬物語じゃないか。っていうか、まさしく80年代後半のTBSドラマ「男女7人夏物語」&「男女7人秋物語」のスキーリゾート版と言っていいんじゃないか。もちろん、7人全員が超豪華な「男女〜」の方が遥かに格上感があるが、三上博史や布施博、沖田浩之の方が「男女〜」にはないフレッシュさを30年以上経った今見ても感じられる。


さらにはキャストの中で一番目に付いたは主人公を演じた三上博史よりも布施博だったりする。ちょっと大柄でグループ内随一の陽キャで、不器用な主人公にお節介をしている。その脇で要所で「とりあえず」とカメラをパシャパシャ撮ったり、アマチュア無線でやり取りをしているのは沖田浩之。そして、矢野文男の会社の他部門のおじさん社員に田中邦衛。さらには嫌味な社員役になんと竹中直人が!今見返すと意外にも錚々たるメンツであるが、当時としてはヒロインが原田知世ながらもフレッシュさを全面に出したと言えよう。


加えてこの映画、今見るとあり得ないぐらい松任谷由実の曲で溢れかえっている。それは悪く言えばまるでユーミンのPVと言えよう。だが、このユーミンの曲のおかげでこの時代の味わいになっているから、やはり効果はある。
それと、序盤に出てくる西武バスや志賀高原&万座プリンスホテルなど、いわゆる堤義明王国=西武セゾングループ色が見られるあたりがこの時代らしい。この映画のおかげでスキー事業は絶好調となるわけだから、堤義明にとっては『ワタスキ』様々である。

 

今では冬にスキーリゾートやウインターリゾートに行く人は全盛期と比べるとかなり減ってるらしい。それこそバブル時代から前後10年で元々ウインターリゾートを楽しむ習慣が根付いたスキー、スノボ好きなピーポーか、雪国出身で子供の頃からウインタースポーツ/リゾートに馴染みがある方など、かなり限られた層になるが、この頃は明らかにスキーが流行っていたように感じた。それは、当時読んでいた週刊少年ジャンプの「ハイスクール奇面組」や週刊少年マガジンの「金田一少年の事件簿」の冬のネタの一つにスキーリゾートネタがあったので、不思議と遠い存在とまではならなかった。


あと、意外にも主人公・文男の物産会社の若手サラリーマンものとしてもそこそこ楽しめる。むしろそのシーンが少ないのが不満なぐらい。
何しろ、三上博史が演じる矢野文男は安宅物産金属部の平社員というだけでなく、仕事よりもスキーが好きで、仕事ではうだつが上がらない様子。これって、「釣りバカ日誌」のハマちゃんや「美味しんぼ」の山岡のような仕事よりもの趣味な人で、会社ではお荷物なタイプ。今でこそ会社のお荷物はリストラにあいかねないが、好景気な当時はまだ「リストラ」という言葉すらない、それどころかお荷物社員でも生きられるおおらかな時代だった。

 

1980年代後半はそんなダメ社員だらけかと言えばそういったわけではない。チャーリー・シーン主演、マイケル・ダグラス出演、オリバー・ストーン監督作品の『ウォール街』や『男はつらいよ 寅次郎眞実一路』の米倉斉加年なんかを見る限り仕事にバリバリなサラリーマン(というか、この2作はどちらも証券マンだが)もしっかりいたわけだが、その一方でダメ社員も会社に居残れたという優しい時代だった。


ストーリーそのものの印象というか、この映画の男女7人が織りなすスキーリゾート恋物語の世界観は相変わらずの「なんだかな…」な印象は変わらない。が、スキーリゾート文化や時代の空気から感じられたものは昔よりもより一層強く、色濃く感じられた。ホイチョイ三部作の真骨頂はこの

時代の空気・味わいにあるのかもしれない。

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1 件の返信 (新着順)
かこ
2024/07/30 08:09

この時代は私もまだ学生だったけど、わかります。当時の独特な、言葉では表せない雰囲気が(褒めてます)😄
今のようにコンテンツが無いから皆がテレビを見る時代で、毎週土日はスキー、ドライブのお供はユーミン、カード作るならセゾンなど、どれも胸が熱くなるなぁ😁
『ワタスキ』、タイトルを聞いただけで過去へタイプスリップできます😄


じょ〜い小川
2024/07/30 13:43

やはりこの時代を中学生以上で過ごした人にはこの時代、この映画はやはり懐かしいんでしょうし、
自分も高校生ぐらいならまた印象が違ったでしょうね。
あとうっかり書かなかったけど、西武セゾングループつながりならこの頃は西武ライオンズの黄金期。まだまだ巨人ファンが多い時代でしたが、クラスに何人かは西武ライオンズファンがいましたね。
セゾンカード、あったけど作らなかった。
そういえばチケットセゾンというのもあって、プロレスやコンサートに行く時は使ってた遠い記憶です。