【蔵出しレビュー】ヨルゴス・ランティモス監督による不条理な強制婚活パーティー『ロブスター』
※9月27日から公開のヨルゴス・ランティモス監督最新作『憐れみの3章』にあわせて、ヨルゴス・ランティモス監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■ロブスター
《作品データ》
『籠の中の乙女』を手掛けたヨルゴス・ランティモス監督による近未来を舞台にした不条理なブラックコメディ。妻に捨てられたデヴィッドは街の外れにあるホテルに送られ、そこに同じように集められた人の中から45日以内に自分の配偶者を見つけなければ動物に変えられてしまうことに。主人公デヴィッド役をコリン・ファレルが演じ、他レイチェル・ワイズ、ジョン・C・ライリー、ベン・ウィショー、ジェシカ・バーデン、オリヴィア・コールマン、レア・セドゥが出演。
・ 公開日:2016年3月5日
・配給:ファインフィルムズ
・公式HP:https://www.finefilms.co.jp/lobster/
《『ロブスター』レビュー》
2015年のカンヌ国際映画祭のコンペディション部門で話題になったギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の最新作。『ロブスター』というタイトルだけでも奇っ怪な匂いを感じで気になって見てみたら、
設定を二重、三重に上回る奇っ怪な世界観にノックアウトされた上に、真の恋愛まで見せつけられた!!
ストーリーは大まかにホテル編と森編に別れている。ホテル編はカップルを作らないと動物にされ、森編はそのカウンター・カルチャー(恋愛禁止)になっているが、どちらもある種のサバイバルと真の恋愛、カップルを見つめ直す共通のテーマが見られる。
出てくるキャラクターの一人一人やホテル編、森編のルールなどディテールが細部に渡ってしっかりしている。「足の悪い男」とか「滑舌の悪い男」、「鼻血の出やすい女」や「心のない女」とかどいつもこいつもマイナス要素が呼び名になっている所だけでも面白いが、その大半のキャラクターがクセ者揃いでとにかく飽きない。さらにはそれぞれ(ホテル/森)のルールでの違反者への罰則シーンも奇抜。こうした辺りにキム・ギドク以来の新しい才能が見受けられる。
奇抜なのは罰則だけでなく、ホテル編での主人公デヴィッドとメイドのシーンや講堂でのスキャット、ダンスパーティー、森編での一人ディスコなど奇妙なシーンのオンパレード。それぞれに意味があるらしく、それを読み取る楽しさもある。
その合間合間に映像美と音楽のみのシーンを挟み、これまたセンスが良い。基本的にはクラシック楽曲のSEが多いが、これが奇々怪々な世界観を助長し効果的である。ポップな楽曲もあり、絶妙な選曲。これに森や湖、動物を入れた映像美は世界最高峰レベル。
キャストに関しても語り所満載。なんといってもまるで別人にしか見えないコリン・ファレル。『アメリカン・ハッスル』のクリスチャン・ベールみたいにおっさんになってる! 太らせると『ベニスに死す』のダーク・ボガードみたいになるのか! コリン・ファレルがおっさんだったおかげでなかなか女性を落とせないことに信憑性がある。
加えて、「滑舌の悪い男」を演じたジョン・C・ライリーもいかにも非モテの独身男らしく、迫り来る期限に緊迫感がある。メインの野郎キャラの中で唯一ベン・ウィショーが演じる「足の悪い男」だけがイケメンだが、びっこ引きというマイナス要素だけでホテルのコミュニティーにいる説得力がある。
女子ではレア・セドゥやレイチェル・ワイズというわりとメジャーなキャストよりも、「鼻血の出やすい女」を演じたジェシカ・バーデンのオタクキャラ&可愛さと「心のない女」を演じたアンゲリキ・パプーリャの冷徹さなどメジャーなキャストに負けない個性を発揮している。
人を好きになる、好かれるための嘘や背伸び、妬み、盲信など、真の恋愛が覗ける一方で、考えが違う者同士の争いに、政治・宗教観念の違いによる争い・紛争がダブっても見える。これを観て、一発で掴める物、感じた物も多いが、まだまだ掴みきれてない部分もあるような気もする。これは何度でも触れたい超傑作!
本作で3作目ではあるが、