カッツ
2025/11/04 07:43
墨東綺譚
『墨東綺譚』(1992年版)は、永井荷風の原作をもとに、戦前・戦中・戦後を生きた文豪・荷風(津川雅彦)と、玉ノ井の遊女・お雪(墨田ユキ)との交流を描いた作品である。文壇の重鎮と、社会の底辺で生きる女性たちとの交わりを通して、時代の移ろいと人間の孤独が静かに浮かび上がる。
お雪をはじめとする女性たちは、荷風が著名な作家であることを知らず、彼を一人の風変わりな常連客として接している。戦後のある日、お雪は新聞で荷風が文化勲章を受章したことを知り驚くが、「まさか、あの人がそんな偉い人のはずがない」と思い込み、結局ふたりが再会することはなかった。
墨田ユキは、この作品以外ではあまり見かけない女優だが、本作ではその体の白さ美しさを存分に発揮している。体当たりの演技も印象的で、彼女の透明感と儚さが、お雪という人物の哀しみと重なり、観る者の心に深く残る。
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